481.分裂倍化弾
指輪を拾い上げて、マジマジと見つめる。
形がまるで違う、効果もきっと違うはずだ。
問題はどこまで違うのか。
「躍進のにおいがする」
「うわっ!」
いきなり話かけられて、びっくりした。
パッとふりむきつつ数歩後ずさり、そこで落ち着きを取り戻して、相手を確認。
「セル……なんでここに」
「午睡の果てに夢を見た」
「夢?」
「うむ、サトウ様が更なる飛躍をした夢だ。これは予知夢に違いないが、口惜しいことに夢は夢、最も重要なポイントを除いて全て指の隙間からこぼれ落ちてしまったのだ」
「ツッコミどころが多すぎるし珍しく詩的だな……」
なんでやねん! 的なツッコミにならなかったのは、セルがそういう事に関してはほらを吹いたり間違ったことは言わないからだ。
新しいダンジョンに行ったときイヴが「ニンジンのにおいがする」とか言えば、其処は間違いなくニンジンドロップするだろうというのとにている。
俺は指輪を見た。
俺が更に飛躍する夢、か。
このタイミングなら、間違いなくこの指輪に関連するものなのだろう。
試してみよう。
その指輪をはめて、銃に通常弾を込めた。
初手通常弾、いつも通りのテスト。
一番シンプルで、基本だからこそ、ベンチマークとして一番ふさわしい。
そのまま、壁に向かってトリガーを引く。
「おお、通常の倍だな」
壁にめり込んだ銃弾を見て、セルが歓声混じりにそう言った。
「分かるのか」
「無論だ、サトウ様の勇姿で余が知らないものはない」
「勇姿って」
「安心するがよい、プライベートを侵す無粋さは持ち合わせておらぬ。あくまでサトウ様の凜々しくも雄々しい姿を世間に広めたいだけだ」
「二重表現じゃないのかそれ」
というかツッコミもずれてる気がする。
が、まあ。
セルはそういう人間だ。
俺個人として、この手の変態は普通の人間よりも信用出来ると思っている。
なぜなら、変態は興味のあること以外にはとことん無関心だからだ。
「パンツとか興味ないよな」
「パンツ? 下着ということか」
「ああ」
「当然だ、サトウ様であってもそのパンツに劣情を催す様な余ではない」
「そうか。まあ、余はおパンツが見たいぞ。とか言い出したらどうしようかと思ってた」
そもそも俺のパンツじゃなくて、普通に女のパンツの話なんだけどな。
それすら頭に入ってないほど、興味がないんだろう。
だから、その言葉は信用出来る。
俺の「勇姿」以外は本当に興味が無いんだろう。
「それはそうと……威力が倍、か」
「うむ。きっちり倍であるな」
「俺より把握してるな――これならどうだ」
火炎弾を込めて、指輪をはめたまま撃った。
壁にあたった火炎弾は、見慣れた魔法陣を展開して燃え上がった。
その炎も、普段より盛大に燃え盛っている。
そして、ちらりとセルを見る。
「おお、きっちり倍であるな」
俺の意図を察したのかしていないのか、セルは知りたかった感想を言ってくれた。
色々と試してみた。
冷凍弾、追尾弾、雷弾……etc。
攻撃用の弾丸を一通り打ってみたが、セルが全部「きっちり倍」だと鑑定した。
俺自身も「大体倍」って感想だから、多分威力倍増で合っているんだろう。
念の為に外して撃ってもみたが、威力は元通りだった。
ちなみに、回復弾、鉄壁弾、拘束弾などの弾丸は特に変化はなかった。
鉄壁とか拘束はともかく、回復弾は倍になりそうな感じだっただけに、ちょっと予想外だった。
だが、これはこれでわかりやすかった。
攻撃系の威力が倍。
こういうわかりやすいのが俺は好きだ。
「そうだ、リアルタイムかどうかも試さないと」
「リアルタイム?」
「ああ、こういうことだ」
前の指輪も結局はその話に行き着いた。
一から説明するよりも実際にやって見せた方が早いと、俺は追加で二回、分かりやすい通常弾を撃った。
つけながら撃って、着弾する前に外す。
外した状態で撃って、着弾する直前につける。
結果、直前につけた方が、威力が上がっていた。
「うむ、なるほど。リアルタイムか、というのはそういうことか」
「そういうことだ。威力はリアルタイムだったな」
「威力『は』?」
「ああ、ええっと……」
こっちはさすがに説明しないと分からないか。
と、俺は前の指輪の事を、さてどう説明しようかと、頭を巡らせた――瞬間。
「――ッ!」
まるで雷に撃ち抜かれたかの如く、頭の中で何かがひらめいた。
まだ茫漠としてとっちらかってたイメージを、必死にかき集めて形にする。
「そうか!」
それが分かると、俺はグランドイーターのポケットから首振り人形を取り出した。
「おお、それはまさしくサトウ様」
感動した感じのセルをひとまずスルーして、人形をたたき割る。
もったいないって感じの「あぁ……」って声が聞こえたが、それも無視。
さくらの能力で、例の指輪が二つとも俺のところにやってきた。
指輪を二つともつける。
通常弾を込めて、トリガーを引く。
分裂した弾丸、三発が一斉に飛び出した。
すぐさま、二つの指輪を外して、威力アップの新しい指輪に付け替える。
そして、着弾。
「おおおっ!!」
セルが歓声を上げた。
それもそのはず。
指輪で分裂した三発の弾丸が、どれも普段の倍の威力を出している。
数と、威力。
いいとこ取りの、夢のような組み合わせだった。