474.付け替え前提
マーガレットが差し出した指輪を受け取って、微笑みかける。
「ありがとう。さすがマーガレット、一発できっちり出してくるとは。頼んで良かったよ」
「そうなんのですの?」
「ああ、マーガレットは俺と一番似てるからな」
俺がこの世界に転移してきたとき、戦闘能力は全部Fで、ドロップが全部Sだった。
マーガレットはレベル99のカンストで、戦闘能力が全部Fで、ドロップが全部A。
タイプ的には一番近しくて。
「親近感を覚えるよ」
「……」
マーガレットは目を見開かせ、口もぽかーんとあけてしまう。
「マーガレット? どうかしたの」
「い、いえ。その、嬉しい……」
「嬉しい?」
どれに対してだろう、と首をかしげると、マーガレットはカァ、と顔を真っ赤にして。
「な、なんでもありません」
「いや、でもいま」
「なんでもありませんわ!!」
そう叫びつつ、マーガレットはものすごい勢いで駆け出した。
まるで逃げ出して――いや、まんま逃げ出した勢いだ。
「……なんだったんだ?」
首をひねる俺。
今のやりとりがどうこじれて逃げ出す事になったんだ?
考えてもよく分からなかった。
「まいっか。とりあえず――」
俺はグランドイーターのポケットからもう一つの指輪を取り出して、手のひらの上に、マーガレットがドロップさせたのを同じものを並べた。
見た目はまったく同じだった。
となると効果も?
二つの指輪を同時にはめて、銃を抜き通常弾を込めてトリガーを引いた。
壁にむかって放った通常弾は三発に分裂した。
指輪二つ分の効果はしっかり出ていた。
しかし、威力は悲しいの一言だった。
通常弾、最弱の弾丸とは言え、壁程度なら普通はめり込むくらいの威力はあるのだが、三発に分裂したそれは壁にちょっとしたへこみをつけただけで、勢いを失って地面にぽとりと切なく落ちた。
もう一度通常弾を込めて撃つ。
今度は角度のせいもあってか、へこみが更に薄く、近くで凝視しないと分からないレベルになった。
「アパートの壁だったら敷金が戻ってくるレベルだわ、減衰率エグいな」
壁のへこみを指でなぞりつつ、苦笑いを浮かべながら地面におちた六発の鉛の弾を眺める。
分裂するのはおもしろいけど、そのかわりにこうも威力が下がったんじゃ使い道はないなあ。
☆
「面白いのは確かなのよね」
バナジウムダンジョンの屋敷、テスト部屋の中。
帰宅した俺とセレストがいて、セレストは糸操作のバイコーンホーンをフルで稼働させていた。
全方位に広がるバイコーンホーン、そこから打ち出されるファイヤボールはそれぞれ三発になっている。
二つの指輪とも、セレストがつけている。
その効果で、セレストの糸操作バイコーンホーンの弾幕が元の三倍の密度になっていた。
「そうなんだよなあ」
俺は苦笑いしていた。
バイコーンホーンのファイヤーボール。無限に使える初級魔法とはいえ、元々戦闘につかえてモンスターを倒せるレベルの威力があった。
ライブとかの特殊効果で、炎がぶわっとあがるやつ。
あれは離れたところにいても、ガラスとか壁越しであっても、ものすごい熱気が襲いかかってくる。
バイコーンホーンのファイヤーボールはそれを上回るほどの火力だった。
それが今や、エアコンの暖房が顔に吹き付けた時くらいのぬるさしかない。
炎が着弾したときの音も、ポコポコという頼りない音に変わっている。
炎の体こそたもっているが、戦闘にはとてもつかえなさそうというのが誰もが分かってしまう。
「本当、おもしろいのだけどね」
「それは分かる。なんだったらあげるよ。楽しそうに打ち続けてるし」
「あはは」
セレストは微苦笑した。
「もらっても使いどころがないから、やめておくわ。それに」
「それに?」
「私だけ指輪をもらったらみんなに恨まれそうだもの」
「え?」
セレストは何故か小声でぼそっとつぶやいた。
炎の頼りないポコポコ音にかき消されてしまうくらいの小声だ。
「ううん、なんでもないわ。これ返すわね」
セレストは笑顔を作り直して、糸操作のクールダウンをしつつ、器用に指輪をはずした。
はずして、俺に返す――瞬間。
ボボボボボボポボボボボーーーーーン!!
最後に打ち出した炎が一斉に壁に着弾し、それまでの頼りなさがどこへやら、ものすごい数珠つなぎの爆音を鳴らした。
「え?」
「い、今の……」
「数はそのままだったよな」
「ええ、それで威力は元通りだった」
今起きた現象に驚き、見つめ合う俺達。
ほぼ同時に、俺達は同じ可能性を頭に思い浮かべた。
「もう一度やってみるわ」
「頼む」
セレストは指輪を付け直して、バイコーンホーンの大半をしまって、一本だけにした。
その一本で、ファイヤーボールを打ち出す。
指輪が二つ、ファイヤーボールは数が増えて、一回で三発打ち出された。
ポコポコポコ。
壁に当ったそれは頼りない音を鳴らした。
セレストは更に撃ち続けた。
ポコポコと鳴り続ける。
途中で、撃ったまま指輪をはずした。
ボボボボボボポボボボボーーーーーン!!
着弾、爆音が轟く。
三発で打ち出した後、指輪をはずしても数は減らない。
しかし、威力は元に戻った。
「威力だけリアルタイム、か?」