473.騎士サーの姫
これだけじゃ分からない、もっと色々テストしなきゃ。
ということで、通常弾から鉄壁弾に切り替えて、引き金を引いた。
一発込めただけなのに、さっきと同じように二発の鉄壁弾が打ち出された。
「こっちもふえるもんだな」
つぶやきながら、のろのろと進む鉄壁弾に触れてみる。
すると――驚いた。
これはもう感覚と言うほかない。
イベントにでてきた相撲の力士と組み合った瞬間、何をやっても勝てないのを悟ってしまうのと同じように、この鉄壁弾に触れた瞬間それを悟った。
いける、と。
深呼吸一つ、鉄壁弾をつかんで引っ張る。
「うぐぐぐ……はっ!」
力SSでの全力、なんなら体重をかけるほど(気分的な意味しかないが)全力を出した後、鉄壁弾の進行方向が「まがった」。
かつてはくず弾とも呼んでいて、最近では空間をねじ曲げるほどの直進力を誇っていった「絶対的」なレベルの鉄壁弾。
それが、俺の力だけで方向を変える事ができた。
出来てしまった。
これは衝撃的である。
同時に、ほぼ理解した。
「数を増やす代わりに、効果を弱めるって事か」
火炎弾から蒼炎弾まで、特殊弾を一通り撃ってみた。
どれも例外なく、一発込めて打ち出すだけで二発に変わる。
そしてどれもが、効果がてきめんに弱くなっている。
なるほどな、と思った。
☆
「というわけだ」
シクロダンジョン協会、会長室。
俺は一番無難な、くず弾を打ち出してセルに見せた。
「この指輪をはめていると、数がふえる代わりに、効果は弱くなる」
「なるほど、さすがサトウ様。あっさりとあの亀裂の石の効果を解明するとは」
「解明したのはいいんだけど、使い道がな。それに」
「それに?」
「他の冒険者がやってもドロップするのかが分からない」
セルにはドロップSの詳細は話していないが、長い付き合いで色々共にやってきた事もあって、セルは俺が「普通の冒険者よりもドロップ力が高い」ことは分かっている。
「では、試してみるとよい」
「え?」
「これを」
セルはそう言い、再び、亀裂の石を取り出した。
ついでに券も取り出して、両方テーブルの上において俺に差し出す。
「まだあったのか」
「サトウ様ならばすぐに必要になると思って、ドロップしたものを最優先で確保していた。それでも一つだけだったが」
「結構なレアものなんだな」
「存分に試すがいい」
「ありがとう、試させてもらうよ」
俺はそう言い、立ち上がりつつ、手をセルに向かって差し出した。
セルは微笑み、同じく立ち上がって俺と握手してきた――瞬間。
ゴトッ。
セルの懐からフィギュアサイズの銅像が地面におちた。
「仕事が早いよ! というかほぼ予知レベルじゃないかそれ!」
盛大に突っ込んでしまう俺。
セルが落とした銅像は、格好良くペアでダンジョン攻略している風の。
俺と、マーガレットのペアのものだった。
☆
再びダンジョンに戻ってきた俺は、マーガレットを連れていた。
「悪いな、いきなり呼び出して」
「いいえ。リョータさんのためなら火の中水の中、ですわ」
いつものように、純白の姫ドレスで身を包んでいるマーガレットは、微かに頬を赤らめつつ言った。
セルに「予知レベル」とはいったものの、これがわかりやすく最善なのは確かだ。
マーガレット。
レベル99でありながら、全戦闘能力がFで、全ドロップ能力がAの、極端なステータスの冒険者だ。
自分の戦闘力は悪い言い方をすればカスみたいなものだが、とどめに特化すれば全冒険者中最高のドロップ力を持つ。
更に全ドロップが高いし、全戦闘力がそもそも最低レベルで低いから。
どのダンジョンでも対応できる。
そのとどめに特化するために、彼女はラト、ソシャ、プレイ、ビルダーという四人のニンジャ騎士を連れている。
騎士達は彼女にものすごく忠実だ。
その事を、実情を最近さくらに説明したら。
「騎士サーの姫だね!」
という、身も蓋もない、合ってるんだか合ってないんだかなまとめ方をされた。
そんなマーガレットに微笑みかけつつ、まずはお礼を言った。
「ありがとう。あんたの騎士達は一緒に来てる?」
「来ておりますわ。ラト、ソシャ、プレイ、ビルダー」
「「「「はっ」」」」
瞬間、彼女の向こうに四人の騎士が出現した。
視界の中なのに、いつ現われたのかまったく分からなかった。
相変わらずの神出鬼没っぷり、まるでニンジャだとおもった。
「攻略をまず共有すると、アイテムを使った後、オークの王みたいなのが戦車にのって出現。ある程度ダメージを与えると戦車が壊れてオークキングが降りるけど、その際に範囲効果の即死級ダメージが来る。対処できるかな?」
「造作も無い」
騎士の一人即答した。
残りの三人もそうだと言わんばかりの、真剣な目で俺を見つめた。
「あー……えっと、戦術的に詳細を把握しときたいんだけど」
何せアブソリュートロックの石の絶対防御と俺のSSステータスを貫いてくるほどのダメージだ。
ちゃんと把握しなきゃと思って更に踏み込んで聞いてみた。
「どういう感じでどうやって?」
「我らの姫を敬愛する心をもって事がなる」
「いや、そういうことじゃなく。もっと具体的な技術とか原理とかをね」
「主君に仕える真の騎士であれば、主君にまつわる全てを可能にする」
「我らは真の騎士とはいえぬが、姫は真に主君たり得るお方であり、我らも四人いる」
「半人前も四人いれば不可能などない」
「なるほど分からん」
分からないけど、ものすごい自信――いや確信なのは伝わってきた。
というか、もはや確定事項のようにさえ聞こえてしまう。
すごいなあ。
まあ、それはそうと。
「ならいい。それじゃ――攻撃は全部俺がやる。マーガレット、とどめになったときは合図を送る」
「はい、わかりましたわ」
騎士達はマーガレットの防御に専念してもらうことにした。
彼らが自信満々なのはいいが、なにも分からないからそっちに専念させた方が安心だ。
ざっくりとした作戦がまとまって、俺は券と、加工した亀裂の石を取り出して、使った。
前回同様、戦車に乗ったオークキングが現われた。
リペティションが効くかどうかも気になったが、まずはマーガレットに。
ドロップAでもいけるのかを確認するのが先だ。
大ダメージも無効だから、俺は飛び出しつつ、通常弾でチクチクけずった。
幸い、戦車の突進は慣れてしまえばワンパターンだから、適当にあしらいつつ削ることができた。
そして――オークキングが戦車から降りる。
二度目の事だから、アブソリュートロックの石をあらかじめ使って、「くる」直前から回復弾を連射した。
一瞬気が遠のくほどのダメージを負ったが、直後に回復弾で回復出来たから、大した事はなかった。
完全に降りたオークキング、更に通常弾で攻撃しつつ、マーガレットをちらっと見る。
「?」
上品なたたずまいを崩していない彼女。
まるで何も起こっていないかのように、けろっとしていた。
……すごいな騎士たち。
本当にマーガレットの事を守り切ったぞ。
俺は感心しつつ、オークキングを削っていく。
体感でそろそろ倒れそうだな、となると手を止めて。
「マーガレット!」
「分かりましたわ」
マーガレットは大剣を引きずるようにして駆け出した。
お世辞にも大した動きじゃない。
むしろ大剣を引きずっている分ダメっ子感さえある。
それでも彼女は駆け込んで、いつの間にか四肢が影らしき何かで縛られたオークキングの脳天に大剣を振り下ろした。
無抵抗のオークキングに見舞ったとどめの一撃。
それがしっかり効いて、オークキングは倒れた。
そして。
「やりましたわ」
マーガレットは、ドロップした指輪を拾い上げて、花が咲いたような笑みを浮かべるのだった。