471.オークキング
券と種、二つはまるで共鳴するように光をはなっていた。
それがどういう事なのかを深く考える暇もなく、事態は更に進む。
券と種が両方消えて、券だけの時と同じようにモンスターが出現した。
「むっ」
現われたのは初めて見るモンスターだった。
まずは戦車。
近代兵器としての戦車ではなく、数頭の馬に引かせる、馬車的な――チャリオットタイプの戦車だった。
その戦車の上に乗っているのは――オーク。
一見して肥満体にみえるが、その実筋肉質でありガッチリとしているのが見て取れる。
相撲の力士のような体格だ。
その体の上に乗っけているのは豚の頭。
一目でオークだとわかるモンスターが戦車の上に乗っている。
「さくらがいなくてよかったな」
間違いなく大興奮してくっころくっころ言い出す相手だ。
そのオークは、ただのオークではなかった。
豚の頭のてっぺんには、王冠のようなものがあって、背中にマントが見えている。
オークの王、オークキングとでも呼ぶべきモンスターだろうか、とおもった。
「うおっ!」
見た目をじっと観察していると、オークの戦車が突進してきた。
よく見ると戦車の先端に「銛」が三本突き出している。
それが俺めがけて突進してきた。
とっさによけた。
突進した戦車の銛はそのままダンジョンの壁に突っ込んだ。
壁は一瞬で半壊した。
「なんてパワーだ!」
戦車は器用に旋回して、再び先端の銛をこっちに向けて、さらに突っ込んできた。
その突進をよけつつ、まずは小手調べに通常弾を連射。
すると、オークキングが鞭をたくみにふるって、銃弾を一発残らず全部弾き飛ばした。
「これならどうだ!」
通常弾では通らない、ならばと上位火力の成長弾を放った。
オークキングは鞭を振り上げようとしたが、途中でやめた。
そのかわり戦車を旋回して、銛で成長弾とうちあった。
ぶつかり合った成長弾と銛。
甲高い金属音を放ち、盛大に火花を散らす。
「やるな」
更に突進してくる戦車。
今度はよけなかった。
真っ向から鉄壁弾を、銛の突っ込んでくる軌道上に本数分うった。
ガキーン!
さっき以上の音と火花、戦車は鉄壁弾に止められた。
「――っ!」
オークキングの顔がはっきりと驚愕に染められた。
突進が止められるとは微塵も思っていなかったって顔だ。
隙あり!
俺は踏み込んで、戦車の背後に回って、同じように鉄壁弾を撃ち込んだ。
亀裂の石のからをわったときと同じように、前後からの鉄壁弾の挟み撃ちだ。
戦車はミシミシと音を立てて、ガッチリととらえられ、動けなくなった。
すかさず追撃する。
追尾弾を連射して掩護の弾幕にして、オークキングに肉薄する。
追尾弾が鞭に次々と打ち落とされる中、俺は全力のボディブローをたたき込む。
「硬いっ!」
殴った瞬間、まるで大岩かなんかを殴ったような感触がした。
が、効かないわけではなかった。
オークは吹っ飛びこそしなかったが、戦車の上でぐらつき、顔を歪ませた。
反撃で飛んできた鞭。
馬車を蹴って、五メートル近く一気に飛び退けてかわした。
着地とともに、すかさず再突撃。
オークの馬車は未だに動けずにいる、オークキングはなんとか動かそうとそっちに一瞬注意力を持って行かれた。
その一瞬の隙を突いて、飛びかかったと同時に加速弾を自分に撃ち込む。
世界が加速した。
馬車の上に乗っているオークキングに連続でパンチを叩き込んだ。
拳がジンジンするほどオークキングは硬かったが、手応えは充分にある。
が、十発ほどなぐった瞬間、俺は弾き飛ばされた。
加速時間はまだまだ残っている、追撃しようとするが、オークキングの体が光に包まれた。
銃を撃つ、更に肉薄して殴る。
攻撃は全部効かなかった。
仕方なく距離をとって警戒すると、光は更に増して、やがて馬車が溶けるようになくなって、光となってオークキングに吸い込まれた。
加速が切れたのとほぼ同時に、向こうの光も収まる。
着地して二本足でたったオークキングは、さっきよりも遙かに存在感を増していた。
「変身と無敵時間か」
なんとなくそれらの言葉が頭に浮かび上がった。
二段階で倒さなきゃいけなくて、その間に無敵時間を挟むモンスターは多く存在する。
このオークキングもそれだろう。
オークキングは鞭を振り上げた。
俺めがけてふってくるのではなく、まるで何かを指揮するかのように、天に向かって突き上げるように振り上げた。
どういう――
瞬間、違和感が俺を包み込んだ。
思考がやけに早くて、体がほとんど動かない――かなり遅くでしか動かない。
オークキングの動きもやけに遅く見える。
もう加速弾は切れているはず――いや、加速弾なら体が動かないのはおかしい。
これではまるで走馬灯――と思った瞬間、目があるものをとらえた。
オークキングが突き上げた先に、光の玉があった。
光の玉はものすごい速さで膨らんで、今にもダンジョンの中を満たさんばかりの勢いだ。
背筋が凍った。
走馬灯、そしてオークキングのおそらくは攻撃。
それが示すのは……?
「ぐっわああああああ!」
次の瞬間、全身の血が沸騰したかのような痛みが俺を襲った。
未だかつてないほどの痛みが襲ってきて、全身を突き抜けていく。
「くっ」
光が収まった後、俺は膝をついた。
「ぐっ……がはっ!」
光が体を包み込む直前に、とっさにアブソリュートロックの石をつかって絶対防御モードにはいったが、光はそれを貫いてくるほどのダメージを与えてきた。
アブソリュートロックの石を使ってなかったら即死だった。そう確信するほどのダメージだ。
全身が痛い、あっちこっちが痛い。
自分の体がどうなっているのか、見るのも怖い。
それほどのダメージが来た。
震える手で回復弾を込めて、自分に撃つ。
あまりのダメージに、連射しても最初の頃は回復が追いつかなかったほどだ。
「ふぅ……」
どうにか回復ができた。
痛みが消えてようやく自分をみることが出来たが、服がほとんど消し飛んで、申し訳程度のボロ布が体に引っかかっている程度。
服がこれでは、回復前は体が半分くらい吹っ飛んでいる、って言われても信じてしまう。
オークキングは驚きつつ、鞭を振るってきた。
まるで生き物のようにしなる鞭、熟練者、いや達人のそれを思わせる軌道だが。
「安心したよ」
音速をおそらく超えている鞭の先端を見極めて、ガッチリとつかんだ。
即死の光に比べれば、鞭は全然対処できる域にある。
そして。
「あの光は連射出来ないようだ」
俺は、安心とともに、勝機をつかんだのだった。