467.さくらの部屋
一体どうしたんだろう、と不思議には思ったものの、仲間達は誰も何も話そうとしないし、無理矢理聞き出すような空気でもなかった。
何より。
「そ、それより。私は今日どこで寝たらいいの?」
さくら本人も深く突っ込まないでというオーラをバンバン出していた。
正直何がなんだか、よく分からない。
ダンジョンの事なら、昔取った杵柄で色々推測も出来るのだが、対人、特に一回りも下の女の子に対する経験値はかなり不足してる。
…………おじさんとか呼んでくる相手とどう接すればいいかなんて分からないんだ。
だから、深く突っ込まないことにした。
「それなら――バナジウム」
「……?」
「彼女の部屋を造るの、お願いできるかな」
「……(コクコク)」
初対面の人間ではあるが、俺を介しているという事もあって、バナジウムは拒否感とか無しに受け入れてくれてるようだ。
彼女は立ち上がり、スタスタとサロンから出て行く。
さくらに目配せして、一緒にサロンを出てバナジウムの後ろについて行く。
ちなみにイヴもくっついてきた。
何となくな感覚だけど、ニンジンに対する「好き」が1なら、高レベルに対する「好き」は0.8くらいはある気がする。
「部屋を造るって、どんな感じ?」
「それは見てればすぐに分かる。さすが精霊、ってなると思うよ」
「へえ」
話を変えたのが良かったのか、さくらはまだちょっと顔が赤いものの、受け答えはすっかり元の彼女に戻っていた。
そんなさくらと一緒にバナジウムの後についていく。
サロンから少し離れて、角を一つ曲がった先に、みんなの寝室が密集している区画があった。
ここだけ見るとまるで昭和のアパートみたいな感じがする。
「なんかラブコメ臭がする!」
「斬新な感想だ」
「私が生まれる前の名作漫画にこういうのよくあったね」
「……」
俺は答えなかった。
彼女は生まれる前と言ったが、俺には生まれている頃か、下手したらまだ小学生の頃だ。
ちょっとだけ、心が痛む。
そのアパートのような廊下の突き当たりでバナジウムは足を止めた。
壁にそっと触れて――引き抜くような動き。
ごごごごご――
地鳴りの音がして、廊下が五メートルほど伸びた。
掘り出した、というのとも違う。
廊下には装飾がある。
床の紋様や、天井の紋様。
等間隔にある窓など。
それらは、今し方伸ばした廊下にもあった。
「おー、なんかすごい」
「まだまだ」
バナジウムは更に、他の部屋のドアと同じ間隔の位置に手を触れて、更に引き抜く。
するとそこに、同じドアが出来た。
幼いバナジウムはつま先立ちでドアノブをまわした。
ガチャリと開いたドア、バナジウムが先に入って、俺とさくらもあと追って中に入った。
「すごい!」
部屋にはいったさくらが目を輝かせた。
その部屋は、他の仲間達のとほぼ同じ。
アレンジ前の、ベースの部屋だ。
「1L……DKはないからちょっと不思議な言い方になるけど。部屋と、くつろぐためのリビングな作りだ」
「ここ、使っていいの?」
「ああ。アレンジするときはバナジウムにいって――いいかな」
「……(こくこく)」
「バナジウムにいえば、大抵の事は出来る」
「ロフトが欲しい!」
「はは、それもいいかもな」
「ウサギの小屋も欲しい」
「小屋でいいんかい!」
きらきらしだしたさくらと、そのさくらにすっかりなついたイヴ。
家具やらいろいろあるので、後の事はバナジウムに任せて、俺は一人でサロンにもどった。