466.ただそれだけ
「やっぱりチーレムじゃん!」
日がおちた後のサロン。今夜も実際の窓ではないが、大きな窓から満天の星がうつし出されているそこで、仲間達が勢揃いしていた。
遅れて戻ってきた仲間達が揃うのを待って、紹介すると、さくらが「くわっ!」ってな感じの顔で俺に詰めてきた。
「そ、そうか?」
「そうだよ。ほら、エミリーでしょ、セレストでしょ、アリスでしょ、イヴでしょ」
さくらは仲間達の名前を数えるように読みあげる。
「エルザでしょ、イーナでしょ。アウルムにニホニウムにバナジウムカーボンにサクヤにユキ」
「ユキも!?」
「娘じゃないっていったじゃん」
何の問題が? って顔をしてきた。
「いや、そりゃそうだけど……よく覚えたな、この一瞬で」
一回しか紹介してないのに、さくらは全員の名前をしっかり覚えていた。
もしかして人の名前を覚えるのが得意なタイプなんだろうか。
「1対12。めちゃくちゃチーレムだよ、マジでガチのチーレムだよ」
「マーガレットとマオ、それにプルンブムも入れなきゃだわね」
イーナが悪戯っぽい笑みで話に割り込んできた。
「まだいるじゃん!」
「ちょっとちょっと。イーナ、彼女達は……」
「あーごめんごめん。一番好感度高いのを忘れてたわ。セルね」
「それは本当にやめて!」
思いっきり声を張り上げて突っ込んだ。
「なになに、セルって誰?」
「その人ね……」
イーナはさくらに手招きして、近づいた彼女に悪戯っぽい笑みのまま耳打ちした。
何かを吹き込まれるさくら、頬をほんのり桜色に染め上げて、出会ってからで一番目をきらきらと輝かせた。
「なにそれ素敵!」
「いやいや、何言われたのか知らないけど違うから」
「あの人がリョータさん大好きなのはその通りでしょ。陰から見守ってたり、リョータさんの為に色々仕事を持ってきたりして黒子に徹してるじゃない」
「それは……」
そこはイーナの言うとおりだ。
「プラトニックBLね、尊いわ……」
「いやいや、本当に違うからな」
「違うの?」
「違うって。イーナも、おもしろい方向に話を膨らまそうとしない」
「はーい」
イーナはペロッ、と舌をだした。
彼女の性格によく似合っている仕草だ。
苦笑いするとともに怒る気がみるみるうちにしぼんでいく。
良くも悪くも、セルのはそんな俗物的な話ではない。
ストーカーチックではあるが、惚れた腫れたからは程遠い感情なのは間違いない。
「だったらますますチーレムじゃないの」
「そういうつもりはないんだけどな」
「じゃあどういう?」
首をかしげ、更に踏み込んでくるさくら。
……話す、か?
元の世界の若い女の子ということで、「おじさん」と呼ばれていることもあって、精神的な壁を感じて線を引いていたけど、そういう風に聞いてくるのなら答えないといけない、か。
「俺は、理不尽なのを見過ごせないだけだ」
さくらの向こう側をみつめた。
そこは壁だが、その向こう――遠くのどっかにある、ブラック企業に理不尽を強いられる人たちを眺めているような気分になる。
「ブラック企業、そういうところに捕まってる人たちを何とかしたい。理不尽と不遇に虐げられてる人たちを見過ごせない。今の俺は多少の力はある、なんとか出来る力が。だから、見かけた傍からどうにかしてきた――それだけだ」
その結果、みんなが集まって、仲間になってくれた。
それだけの話だ。
「だから、チーレムとかじゃないんだよ」
分かってくれた? って感じで改めてさくらを見た。
「……」
彼女は何故かぼうっとしていた。
ぼうっとして俺を見つめ、ほんのりと頬が上気している。
「むっ、今ので……なんか妄想させちゃったか?」
「えっ……ううんそんなことない」
さくらはぱっと顔を背けて、自分の頬を両手で挟むようにぺちぺち叩いた。
一体どうしたんだろうか……むっ!?
「な、なんだ?」
「べっつにー。ねー」
イーナがニヤニヤして、そのそばにいるエルザが複雑そうな微笑みを浮かべて。
仲間達も、多くが「はーやれやれ」みたいな顔をしていた。
……なんで?