461.高レベルしゅき
「これは……人間型の券なのです?」
「なんでやねん!」
エミリーに思わず、コテコテの突っ込みを入れてしまった。
そうなったのも、この光景と、エミリーの反応に覚えがあるからだ。
俺がこの世界に転移してきた直後の事。
目を覚ましたらテルル地下一階にいて、エミリーが「人間型のもやし」だなんて言って不思議がってたのが全ての始まりだ。
それと同じことを、今、エミリーはした。
……。
最初に大量の銃弾を得たときの事を思い出した。
カボチャを運び出して、搬送し損ねたカボチャがコクロスライムになったあの時の事を。
あのコクロスライムとカボチャは地下三階。
俺が「ドロップ」されたのは地下一階。
あの時も、エミリーは暴走して地下一階のレアスライムを倒していた……?
「この子……本物の人間なのかしら」
「どうなのかな。ねえ君、大丈夫? ねえってば」
アリスはまったく物怖じせずに、倒れている少女に近づき、肩を揺すった。
「う……ん?」
ゆすられた少女は徐々に目覚める。
まぶたを開けて、天井を見あげる。
最初は目の焦点が合ってなかったが、次第に瞳がこっちの姿をはっきりととらえて、はっとした。
「だ、だれ!? ってここはどこ?」
「えっと、私はだれ? はないよな。あんたの名前は?」
念のために聞いてみたが。
「なに? なになに? もしかして誘拐? 拉致監禁? おじさんロリコンの人?」
グサッ!
「お、おじさん……」
「あっ、そっちなんだ」
アリスの反応に二重に傷ついた。
「そっちだよ! ロリコンのはずないだろそんな十字架背負うのいやだよ!」
「十字架なの? でもでもロリコンは基本みんな紳士で、ノータッチの精神を貫いてる聖人だってメラメラ言ってたよ」
「なんでそんな知識もってるんだよ精霊のくせに!」
いかん、このままだと果てしなく脱線しそうだ。
おじさんなのは……もうしょうがないとして、俺は改めて、体だけ起こして、きょとん顔でまわりを見回している少女に話しかけた。
「俺は佐藤亮太、あんたの名前は?」
「星野……さくら、です、けど」
「むっ」
少女――さくらの言葉に俺は眉をひそめた。
こっちの世界に来て、似たような名前を耳にしたこともあった。
サクヤとかがそうだ。
だが、完全に「そう」だという名前に出会ったのはこれが初めてだ。
星野さくら。
完全に日本人の名前だ。
「あんたは日本人なのか?」
「何言ってるのおじさん」
「えっと……どうしようか」
俺はまわりを見た。
あの時、ここが異世界だって信じるようになったのは、スライムが――モンスターが現われたからだ。
今ここにモンスターはない。
フェルミウムは部屋をクリアしたらモンスターはでないタイプのダンジョンだ。
移動するか? いやこの状況で「ついてきて」っていって話を聞き入れてくれるのか?
「任せてよリョータ」
「え? ああそうか」
手をあげたアリスを見て、俺ははっとした。
彼女の肩には今も大勢のモンスターが小さくなったのがのっている。
それを召喚させれば――。
「たのむよアリス」
「まっかせなさい! じゃあねえ……ホネホネ!」
「ひゃう!」
さくらは盛大にのけぞった。
目の前にいきなり、人間サイズのスケルトンが現われたからだ。
「なにこれ、マジック? それとも何かのショー?」
アリスの仲間モンスターは、召還後もサイズは同じだがフォルムはデフォルメされてるから、怯えや恐怖よりも、さくらはまず「ショ-」だという感想を漏らした。
それがちょっとだけおもしろかった。
「ちがうよ、それは本当のモンスター、アリスの仲間だけど」
「本当のモンスター?」
「ここは異世界、あんたは異世界に転移したんだ」
「……えええええ!?」
一呼吸の間が空いた後、さくらは盛大に驚いた。
まあ、そうなるよな。
いきなり異世界に転移とか言われても――。
「何それすごい! ネット小説みたい!」
「って予備知識あるんかい!」
またまた突っ込んでしまった。
さっきからつっこんでばかりだな俺。
「いやまあ、話が早くて助かる」
「この女の子、ヨーダさんと同じなのです?」
「そうみたいだ。この子もエミリーにドロップさせられたって感じだな」
「じゃあリョータと同じドロップS」
「そうかもしれないわね。確認してみようか」
「そうだな」
頷く俺、エミリー、アリス、セレストも同じように頷いた。
俺と同じ存在ならば、とみんなが同じ事を思った。
ポータブルナウボードを取り出して、さくらに話しかけようとした――その時。
さくらがイヴをみつめていた。
「かわいー、ねえねえ、その耳触ってみてもいい?」
「え? いやちょっと待――」
「うん、いい」
「「「「ふぇっ!?」」」」
イヴとさくらをのぞいた俺達が盛大に驚いた。
「い、イヴちんが……?」
「あのイヴちゃんが……」
「キリングラビットが……」
「キャロットジャンキーが……」
あまりの衝撃に、俺達がそろってモブ化する事態を引き起こした。
そんな俺達の驚きなどまるで知らずに、さくらはイヴに近づき、うさ耳をなでまわした。
「うわ……本物だ……付け根こうなってるんだ……うわぁ……」
「ん……」
イヴはくすぐったそうにしたが、やめさせようとも逃げようともしなかった。
「なあイヴ、いいのか? それ」
「うん、いい」
イヴは頷き、それからさくらを抱き留めて。
「高レベル、しゅき」
といって、俺達は更に驚いたのだった。