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460.デジャブー

「待ってエミリー! それはいけない!」


 殺気が膨らむエミリーの前に、両腕を広げて道を塞いだ。

 しかし、エミリーは足を動かさず、若干宙に浮いた状態で、すべるように俺に向かって突進してきた。


「危ない!」


 セレストの声が聞こえた次の瞬間、エミリーが俺をすり抜けていった。

 俺もぶつかるとおもって目を閉じてしまった一瞬のことで、何が起きたのか分からなかった。


 それでもパッと振り向き、エミリーの姿を追った。


 残影を曳きながら滑空していくエミリー。

 Gに迫るやいなや、ハンマーを振るって一体ずつ念入り(、、、)につぶしていった。


「お前達は生きていてはいけないんDEATH!」


 口調までもが変わってしまったエミリー、普段よりも更に洗練された動きで、Gを一人で掃討していく。


「あれ、大丈夫なの?」

「えっと……うん、まあ」


 俺は苦笑いした

 (コクロスライム)の経験から大丈夫といえば大丈夫だし、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃない。


 そして、コクロの時同様、こっちが何かをする暇もなくエミリーはGを一掃して、我に返った。


「あれ? 私……どうしたです?」


 途切れた記憶に首をかしげるエミリー。

 俺達はアイコンタクトを交わした。


 今のはなかったことに。


 全員が――イヴまでもが同じように、全員が意見を一致させた。


「何でも無いよ。それよりも券がドロップしたな」

「全部で七枚ね」


 拾い上げたセレストが数えた。


「七枚か。分配するとなったら最悪な数字だな」

「うちのファミリーみたいのじゃなかったら大変だったね」


 そうだな。

 まあ……人によっては完全に人数合わせ連れてきて、報酬は別途、というやり方もあるだろう。


 十年くらい前に隆盛を誇った、ネットゲーム系にそういうのがよくあった。


 リョータ・ファミリーはそういう、割り切れないから奪い合うという事態にはならない。


「さて、と。次、いきましょうか」


 セレストはそう言い、開いた次の部屋への扉を見た。


「そうだな」

「やばいのはもう終わったしね」

「なにがやばいです?」


 小首を傾げるエミリーに、俺達は「なんでもない」とごまかしつつ、一緒になって次の部屋に入った。


「こんなのアリかよ!」


 部屋に入った途端、俺は大声で叫んだ。


 G。


 ふた部屋連続のG、さっきとまったく同じGの大軍がいる部屋だった。


「…………集ッ」


 また暴走したエミリー。


 ブゥゥン! とバットを振ったときの数十倍大きい音がして、突風が巻き起こった。


 俺達はどうにかこらえた。

 セレストがバランスを崩し、アリスが吹き飛ばされそうになったのを、とっさにガウガウ召喚で、巨体をつかんでこらえた(その後すぐに召喚をといた)。


 そして、エミリーの姿が消えた。

 本当に「フッ」って感じで消えて、次の瞬間、Gの向こう側にまるで瞬間移動したかのように出現した。


 そこでも「ブゥゥン!」とハンマーを振った、ハンマーが巨大うちわになって突風を起こした。


 そしてまた消えて――出現して――ハンマーを振る。


 前後左右。


 全方向からの突風が、ばらけたGを部屋の中心に集めた。


 そして、エミリーは大きく跳躍。

 まとまったGにむかって飛び込んで、ハンマーを振り下ろす。


 ぐしゃ、って音はしたが。


「うふふふふふ」


 不気味な笑みとともに、つぶしたGを更にハンマーでグリグリした。


「ああっ……エミリー」

「なんか……この状態の方が強くない?」

「普段の三倍強いよね」

「ニンジン料理作れなさそうだからウサギきらい」


 俺達は半ば諦めたように、それぞれの感想を口にした。

 そうやって諦めるのも。


「あれ?」


 Gが一体残らず消えると、エミリーが再び元に戻って、きょとん、と完全に記憶が無い状態でまわりを見回す。


 Gが消えたらもどって来る、からだ。


「おっ、今度は8枚か」

「さっきより一枚多いわね」

「やっぱりソロよりパーティーだねここ!」


 俺とセレストとアリスは速攻で話を逸らした。


 エミリーは首をかしげつつも、とりあえずはごまかされてくれたようだ。

「さて……」


 そういい、俺は次への扉を見る。

 ごくり、と唾を飲んだ。


 エミリー以外の全員が、この「さて……」の意味を理解して、同じような深刻な顔をしている。


 二度ある事は三度ある。


 なんというか、間違いなく次の部屋もGな気がする。


「引き上げるか」

「そうね、その方がいいわ」

「ウサギ腹減った、ニンジン料理作る」


 ある程度の券は集まったし引き上げるか、と提案して、仲間達も次々と賛同してくれたのだが。


「私は行きたいです」

「え?」


 珍しく、強く主張してくるエミリー。


「一緒に次の部屋行くです」

「いやでも」

「みんなで一緒に冒険するのは嬉しいです! でも、記憶が全然無いです……だから」


 次の部屋行くです。

 と、エミリーが俺達をまっすぐ見つめてきた。


 俺達は迷った、互いを見て、眉をひそめた。


「……いく、か?」

「……そうね」

「……一緒が嬉しいのはあたし達もおなじだしね」


 しばしの逡巡、俺達はうなずき合った。

 そして、連れ添って扉をくぐって、次の部屋に入る。


 Gがいた。


「もはやびっくりもないな――って飛んだ!?」

「レア種だわ!」

「こんな時に!」


 はじめて出会ったレア種G、あの巨体で羽ばたいて飛んでくるおぞましさ。


「――――」


 三度、暴走のエミリー。


 今度は何を言ったのかもわからず、そもそも人間の言葉かも怪しいなにかをいって、ハンマーを振るって、飛びGを迎撃。


 Gは、なんと空中にいながら、ペチャリとつぶれてしまった。


 ハンマーの威力がますますあがった――と思ったその時。


「あれ? 人間なのです……」


 Gが消えたそこに、気絶した一人の少女が現われた。


 人間がドロップ――なんか、見覚えのある光景だった。

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