459.魔王降臨
「懐かしいねそれ」
離れたところで観戦モード中の、アウルムが口を開いた。
「知ってたのかアウルム」
「うん。それを持ってあたしんとこに来た人間とかいたからさ。あたしんとこならもっとすごいんじゃないかってね」
「そうね、アウルムのドロップは黄金。実際はともかく、期待が持てるのは分かるわ」
仲間達がアウルムを中心にわいわい言い始めた。
俺はさっきのモンスターの事を考えていた。
あれは……モンスターだ。
一小隊分の近代的装備をした歩兵――だったんだが、瞳に光がなかったし、攻撃しても血が出なかった。
見た目は紛れもなく人間なだけに、かなり違和感を感じた。
グロテスクゲームの全年齢版――そんな不自然さを感じた相手だった。
「ねえねえ、アウっちの時は何がドロップしたの?」
ドロップ、という単語が耳に入って、俺の思考は現実に引き戻された。
他のみんなも同じようで、視線が一斉にアウルムに集中していた。
ちなみに、今の連中は仲間のみんなが倒してしまったからか、ドロップはなかった。
ドロップSだと何がでたんだろうな……なんて思いつつアウルムを見つめた。
「わかんない、あの時は興味とかなかったしね」
「そっかー」
「……おそらく、大したものはドロップしなかったでしょうね。あるいはまったくしないか」
アウルムが思案顔の後そう言った。
「どうしてなのです?」
「リョータさんに券を預けたのがその証拠だわ。いくらリョータさんでも、話を聞く限り、これはかなり重要なもの」
「ふむふむ」
「それでも渡したのは、渡しても大丈夫。ドロップしないと高を括っているからなんでしょうね。それに」
「それに?」
「他でもドロップするのなら、どれだけ厳重に管理してても、横流しして他でやる冒険者がでてるはずだわ。それなのに、こういう話をまったく聞かない」
「そういえば聞いたことないね」
「私も聞いた事無いです」
「イヴは?」
「ウサギは知らない」
セレストはイヴに聞いてみたが、イヴは気だるそうに答えた。
仲間の中で一番キャリアがあって、未だにちょっとミステリアスなところのあるイヴ。
みんなが知らないことを誰かが知っているとしたら――ならイヴだろう。
そのイヴも、知らないと言い切った。
「ということは、やっぱり普通はドロップしない物だわ」
セレストがまとめると、仲間達の視線が一斉に集まってきた。
一瞬きょとんとなったが、すぐに分かった。
普通はドロップしない。
その言葉の裏には、「ドロップS」と繋がっている。
それを理解して、俺も気になり出した。
俺ならどうだろう。カリホルニウム以外のダンジョンで今のを倒したら何がドロップするんだろう。
「ねえねえリョータ、やってみようよ」
「あの人に止められてるのかしら?」
あの人――セルのことだろう。
「いいや、そんな事はない」
「ならやってみようよ。券はまだある?」
「もうない」
「じゃあフェルミウム? にいこうよ」
アリスがいうと、仲間達がほぼ全員興奮気味な様子で俺を見つめた。
☆
フェルミウム。
転送ゲートを使って、俺は仲間達と一緒にやってきた。
エミリー、セレスト、アリス、そしてイヴ。
冒険者組が総出でやってきた。
後に、俺はこの日の事を後悔する事になる。
「……滅」
うようよする巨大なG以上に、そばにものすごい殺気がほとばしったのだった。