457.挑戦権の可能性
「更に、問題がもう一つある」
「どんな問題だ?」
「まずは券をいただこう」
「ああ」
頷き、拾った券を全部セルに渡す。
「これを、サトウ様に渡そうとすると」
そう言って、セルは券を差し出した。
とりあえず受け取ろうとして手を出した――驚いた。
受け取った瞬間、券が消滅したのだ。
「どういう事だ?」
「譲渡は一度きり、再譲渡を行おうとすると、券は消失してしまう」
「……じゃあ昨日俺が使った券は?」
「余が護衛とともにダンジョンに入って、倒してもらった後余が拾った」
「そういうことか。そうなると、通常の買い取り屋のシステムは使えないな」
「うむ。ステム家が抱えている冒険者が直接買い取り、そのままカリホルニウムに入る、という形になっている。
これにより、ドロップ増加を当てにして組んだ即席パーティーで、持ち逃げが頻発している。さらに」
「さらに?」
「券の段階ではどうやっても均等に分配できないから、誰か一人が代表的に受け取って換金するのだが、パーティーに上下関係があると……」
「ブラックなパーティーができあがってしまう、か」
「そういうことだ」
大体の想像はついた。
今までもいろんなブラック企業と似ているパーティーを見てきた。
パーティーを組む理由は人それぞれで、このダンジョンもそう。
ダンジョンの構造が、パーティー推奨な一面があり、それで冒険者はパーティーを組んで攻略する。
そうなると、自然と一定の割合でブラックパーティーが産み出されてしまう。
「順番に拾うのはダメなのか? 部屋ごとに順に拾っていく」
「普通の冒険者では、ドロップの数が一定しない、そもそもがドロップしない時もある」
「あっ……」
そういうことか。
カリホルニウムのレアモンスター挑戦権、ともいうべきこのフェルミウムでドロップする券は、おそらくはドロップステータスの「特質」に影響される。
俺はそれもドロップSだから安定してるし、必ずドロップするが、普通の冒険者はそうじゃない。
部屋ごと順番に拾うにしても、数が不安定ならより不満やトラブルが大きくなってしまうというものだ。
「……つまり、本当は俺にフェルミウムの事を頼みたい、ってことか」
セルははっきりと頷いた。
まあ、フェルミウムも造幣のいわば下準備、材料を揃えるダンジョンだから、造幣ダンジョンの一つといっても差し支えがない――。
「……ない?」
「……」
俺はセルを見た。
セルは無表情で俺を見つめ返した。
こういう表情は知っている。
頑張って無表情を維持してるタイプの無表情だ。
俺は引っかかったのは、フェルミウムが「造幣ダンジョンではない」とされていたことだ。
それは、つまり。
「もしかして――この券を他の――」
「……」
セルは「ますます」無表情になった。
言外に、「それ以上はダメだ」と言われた気がした。
つまり、そうだということ。
この券を他のダンジョンに持っていけば、同じようにレアモンスターがでてくると言うこと。
俺はまわりを見回して、第三者がいないことを確認して。
「フォスフォラスと同じ、か?」
フォスフォラス。
ランダムに思える気まぐれな出現をして、冒険者に直接金をドロップさせてやるボーナスダンジョン。
その時も、俺はセルの依頼でフォスフォラスをつぶした。
だからそう聞いたのだが。
「いや」
「ん?」
「もっと、やっかいな事が起きる」
セルは観念したかのように頷き、ため息をついてつぶやいた。
「両刃の剣とは知っていたが、サトウ様はあっという間に気づいてしまわれるのだな」
と、ますますため息をついたのだった。