455.ゴマ回し
扉をくぐって、次の部屋に入ると、扉が音もなく閉じた。
離れた所に別の扉があって、それもきつく閉ざされている。
そして、大量のモンスターがいた。
今度は広げたバスタオルくらいはある、巨大な蝶々だった。
羽の色は赤、羽ばたくその羽から極彩色の何かが常にこぼれ落ちている。
鱗粉……? というワードが脳裏に浮かび上がったが、色のせいで今一つ確信が持てない。
「まずはいつも通り」
通常銃に持ち替えて、通常弾を撃つ。
集中すれば周回ダンジョンで限りなく100%に近い命中率を維持できる位鍛え上げた銃の腕――なのだが。
銃弾があたる直前、蝶がひらりと軌道をかえて、銃弾が外れてしまった。
更に連射する。
狙いを少し広めて、普通でもあたる、回避した先もカバーする。
そんな風に連射した。
モンスターはヒラヒラと、蝶々特有の無規則な軌道で飛んで、銃弾を全部かわした。
「高いなあ、回避率」
銃をしまって、地面を蹴って蝶々の一匹に肉薄。
拳を握ってパンチを放つ――が。
拳の風圧に押されて、外れてしまう。
「蝶々ってより、タンポポの綿毛みたいだ」
掴もうとしても軽すぎて動いた時の空気の流れだけで吹っ飛んでしまう。
蝶々が羽ばたき、鱗粉が飛んできた。
慌てて地面を蹴って、後ろに飛んでそれを避ける。
鱗粉の動きが完全に俺を狙って向かってきた、つまりは何かしらの攻撃だ。
この手の攻撃は喰らうとやっかいなのだと相場が決まっている。少しでも触れないように距離を大きく取った。
幸い、蝶々は蝶々だった。
無軌道な動きで、一気には迫ってこない。
それでも部屋の中の蝶々が一斉にこっちに向かってきていて、遅いが、大群であるため、じわりじわりとした重いプレッシャーが押し寄せてきた。
「あたらないものなら――追尾弾だ」
慣れた手つきで追尾弾を込めなおして、撃つ。
ホーミング軌道を描いて飛んでいく追尾弾――を蝶々が直前でひらりと避けた!
「それも避けるのかよ! あっ」
突っ込んだが、終わってはいなかった。
避けられた追尾弾はぐいっと旋回して、蝶々に向かって再び飛んでいく。
それを更に蝶々は避けた、追尾弾はぐるっと回ってまた向かっていく。
避けて旋回――そうする度に、円がちいさくなっていった。
ぐるぐると弾と蝶の追いかけっこが続き、やがて狭まっていった円は中心に辿りついたかのように、弾は蝶に追いつき、撃ち抜いた。
「やるな」
どっちもだ、と思った。
ヒットするまで追っていった追尾弾もそうだし、避けようがなくなるまで避け続けた蝶々も蝶々だ。
二丁拳銃を抜いて、追尾弾を連射。
全部の蝶々が追尾弾とぐるぐる回り始めた。
その光景を見て、何故か懐かしさを覚えた。
なんだ? この懐かしさは。
「……ああ、休み時間に画鋲を独楽にして遊んだ時だ」
記憶が一気に繋がって、俺はふっと笑った。
小学生の頃、特に雨の日だと教室では遊ぶものがなくて、掲示物を貼るための画鋲を一つ二つ抜いて、独楽のように回して遊んでたのを思い出した。
机の上に複数の画鋲を同時に回したり、机の溝やら、イタズラで開けた穴やら(普段は消しゴムのカスで穴埋めしている)にはめて遊ぶのが好きだった。
その時の事を思い出して、蝶々と追尾弾の回転を眺めた。
懐かしくて、ダンジョン攻略中なのに楽しかった。
しばらくすると、弾が次々と蝶々に追いつき、撃ち抜いた。
蝶々が全部撃ち抜かれると、また一枚の券がドロップされて、入り口と出口の扉が同時に開いた。
さあ、次は?
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