454.フェルミウム
翌朝、宿を出て、一旦カリホルニウムに入って、イヴに開通してもらったゲートを使って、屋敷経由でプルンブムの所に行ってきた。
そうして約束分の日課を果たした後、改めてアクチノイドの街に戻って、フェルミウムのダンジョンに向かった。
昨日のカリホルニウムとは違って、フェルミウムのダンジョンの外に冒険者が列を作っていた。
列の原因もダンジョンに入れば分かるとセルは言っていた。
「おい、見ろよ」
「あれがリョータ・サトウ……」
「最強のレベル1……」
冒険者達は俺の出現にざわついた。
冒険者の多い所に出る時に注目を浴びる事自体、ここ最近増えてきた事なので慣れたが、何かちょっと不思議な気分になった。
……注目を集めてるってことじゃない。
もっと何か別の事で不思議な気分になってる。
それが何なのかを探りつつ、列に並んだ。
周りを見回しながら、列に並ぶ。
列はスムーズに進んで、やがて俺の番になって、俺はダンジョンに入った。
「むっ!」
―――1/2―――
レベル:1/1
HP SS
MP SS
力 SS
体力 SS
知性 SS
精神 SS
速さ SS
器用 SS
運 SS
―――――――――
フェルミウムダンジョンに入った途端、目の前にステータスが浮かび上がった。
すっかり見慣れた、SSだらけのステータスだが、一箇所だけ違いがあった。
レベルのところが普段の表示と違って、点滅している。
「……レベルが変動するのか、レベル制限ダンジョンか?」
幾つか可能性を想像してみた。
そこが点滅するって事は何かしら「ある」ってことだ。
となると変わるか、制限かのどっちかしかない。
変動は基本下がるが、上がるというパターンもないわけではない。
どっちなのだろうか、後で聞こう。
それよりも――
「誰もいない、な」
ダンジョンの中を見回す、そこに誰もいなかった。
背後を振り向いた、新しい冒険者が入ってくる様子もない。
「サルファ、だな」
こっちははっきりと確信した。
同じ所から入って、それぞれ違う空間に飛ばされるサルファ方式だ。
アウルムと違うのは、アウルムも入った冒険者を飛ばすのだが、飛ばされた先は「入り口じゃないどこか」ってのが分かる。
サルファとこのフェルミウムは入ってすぐの入り口にいる。
なのに誰も入ってこないのは、入った先が別々の空間だという事だ。
「なるほどね……」
つぶやき、気を引き締めつつ、扉に向かう。
扉というより、ゲート?
扉の形はしているが、ドア? の部分がない。
そこをくぐり抜けると、最初のと同じ「部屋」にはいった。
部屋の中には、軽自動車くらいのサイズの、巨大蜘蛛がうようよいた。
それだけじゃない。
蜘蛛の群れの向こうに扉があって、それは閉まっていた。
同じ形だな――と振り向いたらおどろいた。
今入って来た扉も「閉まっていた」。
ドアの部分がなかったはずなのに、閉まっていた。
「……まずは」
俺は落ち着いて、銃を抜き放った。
まずは小手調べに通常弾を撃った。
キーン!!
なんと、蜘蛛の体が通常弾を弾いた。
弾かれた通常弾は天井に上がって、火花をまき散らした。
「ならば!」
肉薄して、拳を握って殴った。
まずは50%、これまた小手調べだ。
蜘蛛は吹っ飛ばされたが、手がジンジンした。
「硬い」
殴り飛ばされた蜘蛛はすぐに立ち上がった、たいしたダメージはないようだ。
50%程度だが、力SSだ。
それで殴ってたいしたダメージがないのは中々無いこと。
目の前の蜘蛛は相当硬いし――速かった。
蜘蛛がわさわさわさ、って感じて集まってきた。
とっさになにもない方向に向かって横っ飛びしてかわした。
銃を入れ替える、通常の銃から+10銃にした。
同じ通常弾を込めて、撃つ。
弾は弾かれなかったが、貫通もしなかった。
蜘蛛の肉体にめり込んだだけで、力を失った。
+10でも、通常弾じゃ足りないか。
今度は二丁拳銃で、無炎弾を撃った。
見えなくて空間に固定する炎を打ち出して、そこに蜘蛛を誘導して当てる。
足一本燃やされた蜘蛛が一瞬がくっとしたが、構わず更に突進してきた。
かなり硬くて、相当タフだ。
それが一、二、三……全部で八体。
厄介だ。
とはいえ、雑魚の域を出ていない。
硬くてタフで、数も多くて強いが、危機感は感じない。
深呼吸して、距離をとって、+10貫通弾を連射。
八体の頭を次々に撃ち抜いたが、それでもまだ向かってくる。
頭を撃ち抜いただけじゃダメみたいだ。
頭ならば――って思って一瞬気を抜いたせいで、迫った蜘蛛の一体に取り付かれた。
巨体に押し倒され、口からよだれみたいなのが垂れてきた。
「――っ!」
とっさに首をひねって躱した、よだれ――毒液が地面に垂れて「じゅううう」といういやな音が聞こえた。
蜘蛛を蹴り飛ばして、+10成長弾で撃ち抜く。
成長弾でも、二発は必要というタフネスっぷりだった。
全部倒れた後、それぞれからあの入場券が一枚ずつドロップした。
そして、前後の扉が開く。
なるほど。
部屋ごとのモンスターを全滅させないと、次には進めないタイプか。