453.スイートルーム
夜、ランタンの灯りが静かに揺らめく中、リビングらしき所にセルと向き合っていた。
らしき、というのはここが宿屋だからだ。
おそらくはこの街で一番高い建物の最上階にあって、ワンフロアを占拠している部屋。
部屋の中はキッチンがあり、リビングがあって、キングサイズのベッドの寝室がある。
さらには浴室もあって、なんと珍しいシャワーもついている。
広さはと言えば――ざっと100㎡近くはある。
スイートルーム。
部屋に入った瞬間、その言葉が頭に浮かび上がった。
そのスイートルームの中で、セルと向き合って座っている。
俺たちの間にあるテーブルの上には、俺がカリホルニウムでドロップさせて、かき集めてきた紙幣が置かれている。
そのほかにも皿に盛り付けた大粒の苺があったが、一粒食べたあと、とりあえず横にどけておいた。
「つまり、入場券――いや挑戦券って事になるのかな。それを集めて、カリホルニウムであのモンスターを出現させて、たおして紙幣を生産する。ってことだな?」
状況をまとめ上げて、セルに答え合わせを求める。
「その通りだサトウ様。ご慧眼恐れ入る」
「ご慧眼って程のものじゃないだろ」
「ところが、実際にみても十人中九人が理解できないものなのだ」
「そんなに?」
「そんなに」
セルは真顔で頷いた、嘘偽りとか、誇張とかまったく感じない顔だ。
そんなものなのか……?
「サトウ様が入場券と表現したものが、フェルミウムのドロップ品だ。しかもレアもの」
「それは面倒臭いな」
「その通り。だからサトウ様にどうにかして頂きたいのだ」
「なるほど。……それなら明日、フェルミウムもみておきたい。実際にみておかないと、どうしたらいいのか決めかねる」
「承知している。……それもサトウ様をお招きした理由の一つだ」
「ん? どういうことだ?」
「それもまた、実際に赴けばお分かりになる」
「わかった」
俺はそれ以上聞かなかった。
実際にみれば分かるのなら、ここであえて問い質す必要はない。
「では、また明朝」
「ああ」
頷くと、セルは立ち上がろうとして――
ゴトン。
懐からフィギュアサイズの銅像が床に落ちた。
セルは慌てて拾い上げたが、バッチリ見えた。
「相変わらず仕事早いな」
俺は苦笑いした。
銅像は俺がニンジンを持って誰かに渡す光景のものだ。
ついさっき、別途で転送部屋の開通を頼んだイヴに、報酬のニンジンを渡す時のものだろう。
相変わらず手が早い、いつ作らせてるんだ、って感じで苦笑いが出てしまう。
セルは繕った微笑みを浮かべながら、部屋から立ち去った。
広いスイートルームの中に、俺だけが残った。
シーンと静まりかえっている、部屋が広い分、若干さみしさも感じる。
屋敷のサロンになれきったせいか、一人でこんな広い部屋はちょっとだけ寂しい。
しょうがない、風呂でもはいってさっさとねるか。
俺はバスルームに向かった。
全面ガラス張りで、夜景も見られる贅沢なバスルームだ。
そこにバスローブが二着、バスタオルが四枚ある。
それだけではなく。
「すごいな……」
ちょっとあっけにとられる程、大量のアメニティが用意されていた。
歯ブラシ、カミソリ、石けんから、綿棒やクシまで揃っている。
しかも、全てが三つずつ。
予備の更に予備まであるって感じだ。
何となく振り向いて、バスルームと繋がってる寝室とリビングを見た。
全てが「過剰サービス」だ。
宿泊するだけなら必要ないものでも、あらゆるものが過剰に用意されている。
豪華で――いや、どちらかというと贅沢って言葉がよく似合う。
「あれ?」
ふとあるものが気になって、バスルームから一度でた。
部屋に入ってきたときのテーブルの上に置かれていた、ウェルカムフルーツ――とでもいうのか、大粒の苺がなんと増えていた。
いや、元に戻っていた。
部屋に入ったとき、俺はそれを一個食べた、ヘタを残している。
そのヘタがいつの間にかなくなって、数が元通りに補充されている。
「いつのまに……まさか」
ある考えが頭の中に浮かび上がった。
俺は再びバスルームに向かって、アメニティの中からカミソリをとって、さらっと顔を整えた。
そのまま服を脱いで、湯を張った湯船に入った。
風呂の中で十五分くらいくつろいでからあがると――さっき使ったカミソリがまたしてもなくなってて、新しいものが補充されていた。
「すごいな……」
全てのサービスが過剰にして贅沢。
セルの本気度と、俺に対する期待と、要望が。
そこに、つよく感じられたのだった。
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