452.レインメーカー
一度「ハッ」とすると、その後の見方が全て変わった。
ドロップしたものは一見ばらばらだけど、全部が物品貨幣として使われていた物。
それがわかると――アハ体験みたいで気持ち良かった。
共通点を理解したところで、更にダンジョンの中をまわってみた。
ますますその事を確信したのと同時に、ゴブリンしかでず、そういうものしかドロップしないのも分かった。
それが確信に変わったあたりで、俺はダンジョンの構造をしっかり把握して、一直線にダンジョンを出た。
セルはカリホルニウムダンジョンの外で待っていた。
「どうだったか?」
「言ったとおりだった、まわってみてすぐに理解できたよ」
「さすがサトウ様だ。そう、ここは本来貨幣とは関係のない、モンスターもドロップも違うものだ」
「え?」
「え?」
俺が驚くと、説明していたセルも驚き、聞き返してきた。
「違うのかサトウ様」
「ああ、物品貨幣になるものがドロップされるって事なんじゃないのか?」
「それは……なんだ?」
眉をひそめ、不思議がるセル。
俺はすぐに分かった。
この世界に物品貨幣はないのだ。
いや、紙幣も硬貨も、そもそもが「物品貨幣」だ。
物品貨幣は主に技術力の低かった古代、そして現代の一部の国や地域で使われた。
その本質は、「価値のあるものをそのまま貨幣として使える」ということだ。
そういう意味では、あらゆるものがダンジョンドロップされるこの世界では、紙幣も硬貨も「ドロップしたものをそのまま使う」から、物品貨幣の一種だ。
それはそれで面白い事だった。
が、セルは不思議そうな顔をしたままだ。
「いや、例えばこの貝殻。これは硬貨として使えたんじゃないかって思ってな」
「……なるほど」
セルは俺がポケットから取り出した貝をしばし見つめ、それから静かにうなずいた。
「確かに、硬貨の代わりになりそうだ」
「だろ? そういう、始まりがちょっと違えば貨幣になるものがドロップするダンジョン……だと思っていたんだ」
「ふむ、そういう見方もあるのだな……さすがサトウ様。着眼点が素晴らしい」
俺の銅像をちょくちょく造るほどの俺信者なセル。
持ち上げてくるのを苦笑いで流してから、改めて聞いた。
「それで、本当はどうなんだ?」
「うむ、さっきも話したように、貨幣とは関係のないものがドロップされる」
「ああ」
「しかし、貨幣はここでしかドロップされない」
「……レアか? ダンジョンマスターか?」
「レアと言えばレアかもしれない」
俺は首をかしげた。
奥歯にものがはさまったようなものいい、一体どういう事なんだ?
そうやって不思議がっていると、セルはそっと、束になっているチケットを取り出した。
紙幣のような長方形だが、紙幣ほどかしこまっていない、まさに「チケット」って感じのものだ。
それが一束――ざっと二十枚。
それを取り出して、俺に差し出してきた。
「これは?」
「フェルミウムのドロップ品である」
「さっきのあそこのか……で?」
「これをもって、もう一度入ってみると分かる」
「わかった」
状況は今一つ読めないが、もう一度、セルの言うとおりに入ってみることにした。
チケットを受け取って、ダンジョンに入る。
さっきと変わらず、青い空、白い雲、じりじりと照りつける太陽の、今までとは違った感じのダンジョンだ。
何の気なしに適当にまわっていると、ふと、地面がさっきと違って光を放っている場所を見つけた。
何だろうと思って――た瞬間。
パッと持ってきたチケットをみた、チケットも光っていた。
そのチケットを持って、光ってる所に近づく。
すると、チケットはすぅ……と消えた。
それからの変化は急激だった。
空に雷雲が集まり、一瞬のうち――時間にして一秒も経たないうちに、空模様がまるで嵐の日――いや。
まるで、アニメ化漫画の中の「魔界」のようになった。
そして、目の前の空間が裂けて、その中からモンスターが現われた。
「なるほど」
今度は完全に「なるほど」だった。
セルが言った「入れば分かる」が、今回は間違いなく理解したと分かった。
空間の裂け目から現われたのは――幽霊のような女の姿をしたものだった。
初めてではない、何度も何度もあったことがある。
紙幣や硬貨をポーションに変える時に良く見る、貨幣のハグレモノのオリジナルバージョンだ。
「リペティション」
普段とは違って、初手リペティションを放った。
モンスターは倒れた。
つまりは当たりだ。
現われたモンスターは、俺がいつもハグレモノで倒しているのと同じモンスターだということが、リペティションで確認できた。
そして、その直後に。
空模様が元に戻って。
大量の、紙幣が空から振ってきたのだった。