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451.物品貨幣

「なんで貝?」


 拾い上げて、まじまじと見つめる。

 まだちょっと濡れてて、ぴっちり閉じてて開くのも大変だが、いたって普通の貝だった。


「……よし」


 俺は気合を入れ直した。

 これであっさり紙幣とか硬貨とかドロップされたら逆に肩透かしな所だったかもしれない。


 セルは「入ってみれば分かる」と言った。

 そして俺は一回クリアするまで攻略サイトを見ないタイプだ。


 貝をひとまずグランドイーターのポケットにしまって、ダンジョンの中を進む。


 しかしまあ……不思議な気分だ。


 モンスターが出る、ドロップもするダンジョンの中なのに、見あげれば青い空と白い雲、そして太陽がある。

 今までのダンジョンは地下とか塔とか、いわば屋内・密閉空間の中にあったから、このカリホルニウムは結構不思議な感じがする。


 巨大迷路でT字路にさしかかったから、何となく太陽に背を向ける感じで右に曲がった。


 その先にまたゴブリンがいた。

 エンカウントしたゴブリンはこん棒を振りかぶって殴り掛かってきた。


 地面を蹴って下がりつつ、通常弾で迎え撃つ。

 何となく一撃では倒さずに、こん棒を打ち落としてから眉間を撃ち抜いた。


 変化をつけたかったのだ。


 ゴブリンは倒れ、ポン、という音とともにアイテムがドロップされた。


「え? 貝じゃない……?」


 地面におちていたのは、手のひらとほぼ同じくらいのサイズの、白い塊だった。


 太さは手首くらいで、先端が細く鋭くなっている。


「歯……か? 何の歯だこれは、象牙……にしては小さいし、ライオンや虎にしては大きいな」


 虎以上象未満の何かの歯、だと判断した。


 何故歯なのか、そして同じフロアで同じモンスターなのになぜ違うアイテムがドロップしたのか。


 疑問は更に増えた。


 こうなればもっと情報だ、と、更に巨大迷路の中を進む。


 モンスターは、ゴブリン一種類だった。


 今までのダンジョンと同じように、個体ごとにちょっとした服装――といっても腰布だが――の違いはあるが、動きなどからみて基本は同じゴブリンだ。


 だが、ドロップアイテムはばらばらだった。


 亀の甲羅がドロップされたり、毛皮がドロップされたり、何かの骨がドロップされたり。


 もしかして最初からゴミがドロップされるダンジョンなのか? なんて考えていると、今度は絹が「反」でドロップされたり、牛一頭が丸ごとドロップされたりした。


「なんなんだここは?」


 苦笑いした、なんだか面白くなってきた。

 これほど無秩序にドロップするダンジョンは初めてだ。


 一つのダンジョンの中で複数のアイテムがドロップする、と考えればこの状況はそれほど不思議でもなかった。


 大抵のダンジョンは階層ごとなのに対して、それが一階の中でそうなっているだけ。


 もしかして俺が気づかないだけで、水道管ゲームのように、一つの巨大な迷路のように見えて細かくブロック分けされているのかもしれない。


 だけど、大抵のダンジョンはドロップに「ジャンル」がある。

 植物だったり、動物だったり、金属だったりと。

 何かしらで共通点があって、それでは一致している。


 このカリホルニウムではそれさえもばらばらだった。


 それが段々と面白くなってきた。

 目の前にちょっとした不思議があって、それを解明していくのは楽しい。


 だから俺はダンジョンの中をまわった。

 バナジウムの一件でダンジョンの構造が分かるようになったから、同じ場所や、似たような場所でゴブリンを倒してみた。


 結果は変わらない――というよりドロップがばらばらのままだ。


 更にタイミング、でもはかってみた。


 加速弾を使って、エンカウントから数えてまったく同じタイミング――とりあえず一秒ジャストに設定して、倒してみた。


 さらにはモンスターが再生する場所を見つけて、再生から同じタイミング――これも一秒にして倒してみた。


 でも変わらない、ドロップはばらばらだ。


「規則性なんてまったくないのかねえ」


 そんな事はないと思うんだけどな。

 俺の勘がそうささやいている。


 勘というのは、豊富な経験から来る瞬間的総合判断、だと俺は思っている。


 俺の経験が、まったく何も規則性がないなんてあり得ない、と強く主張している。


 だからダンジョンを回り続けた。

 ドロップアイテムが一通り出そろって、貝とか歯とか、そろそろかぶり(、、、)も出始めて、徐々に「やっぱりないのかも」と思いはじめたそんな時。


 全くの、新しいアイテムがドロップされた。


 ドロップしたのは、子供の背丈と同じくらいの、丸くてまん中に穴が空いているもの。

 五円玉を大きくしたような、石造りのものだった。


「石貨か――はっ」


 つぶやいた直後、グランドイーターのポケットに入れたドロップ品を次々と取り出してみた。


 貝殻、歯、亀の甲羅、絹――。


 俺の頭の中で全部が繋がった。

 石貨と同じように、これらは全部、「物品貨幣」として使われていた物。


 つまり――お金なのだ。

 これらも、お金だったのだ。

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