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448.ヘッドハンティング

「ありがとうございます、時間を割いてもらって」


 シクロの街中で、俺はクリフと一緒に歩いてダンジョンに向かった。


 クリフとは、俺がこっちの世界に来た直後に出会ったパーティーのメンバーの一人だ。

 そのパーティーは、隊長の男が夢とか成長とか、きれい事で社員をのせてあおって、部下を使いつぶすブラック企業のような事をやってるパーティーだった。


 そこにいたのがクリフで、俺が見かねて彼を助けた。

 それ以来独立して、リョータファミリー傘下のクリフファミリー――二次団体っぽい感じで頑張っている。


「構わないよ。それよりもわざわざ誘いに来て、一緒にダンジョンにいくなんて珍しい。何かがあるのか?」

「それは……見れば分かります」

「なるほど」


 クリフは言葉を濁したが、その口ぶりからして、よほどの事なんだろうなってのが想像出来る。

 ならばあえて聞くような事をせずに、まずは言われた通りみてみることにした。


 しばらくして、シリコンダンジョンにやってきた。


 日中のダンジョンは、表もかなり賑わっている。


 出入りする冒険者達や、ダンジョン周回の道具や装備を売っている露店など。

 ちなみにこういうダンジョンのすぐ外にある商店の品物は割高だが、町中心の道具屋に戻るまでの距離を考えると、多少割高でも買いたいという冒険者は結構多くて、意外に売れ行きは悪くない。


 元の世界で言うところの個人事業主がおおいのだ、冒険生産者というのは。


 金で時間を買う、という考え方をする者は結構な割合でいる。


 そこにやってきて、クリフは足を止めた。

 ダンジョンの中に入らないのか? と聞こうとしたが、クリフは特に何か言うわけでもなく、そのまま待った。

 だから俺もじっと待った、きっと、一目で分かる何かがおきるまで待った。


 果たしてそれは正解だった。


「遅い!!」


 ふと、周りに響き渡るほどの怒鳴り声がこだました。

 怒鳴り声の方を見ると、冒険者の一団があった。


 リーダーらしき男が一人で、そのほかの武装している冒険者は全部で十人ほど。

 そのうち、一人が怒鳴られて小さくなっていた。


「遅刻するなんてたるんどる!」

「すみません! つ、妻が急に――」

「そんな事はどうでもいい! 反省してるのか!」

「は、はい!」

「よし! ならば挽回するチャンスをやろう」


 一瞬で「分かった」、そして俺の眉間が、自分でも分かるくらいきつく寄せられてしまった。


「今日の声出しはお前がやれ」

「は、はい!」


 怒られた男が応じると、冒険者達は円陣を組んだ。


「今日! 俺が一番狩ってくるぞ!」


 遅刻した男が声を上げると、他の冒険者達にも火がついて、次々と声を上げ始めた。


「いや! 俺だ!」

「違う俺だ!」

「俺が一番だ!」


「俺だ!」

「俺だ!!」

「俺だ!!!」


 次々に「俺だ」とアピールして、その際に手も上げてしまう。


 傍から見てまるで宗教のような儀式だが、彼らはまったく疑問を持たずに最後までやりきった。


 そして、円陣をといて、次々とダンジョンに入っていく。

 リーダーの男も立ち去ったあと、遅刻した男はへなへなとその場にへたり込んだ。


「と、いうことです」


 全てが終わった後、クリフが口を開いた。

 俺は頷き返して。


「ああ、見たら分かる。まさにその通りだった」

「今となってよく分かる」


 クリフは苦笑いした。


「あれ、俺たちと同じことなんですよね」

「ああ、同じだ。極限まで追い込んで、洗脳をした後本人の口から言わせることで自分の意志のように思わせる」


 俺も苦笑いした。

 向こうにいた時によく見たパターンの一つだった。


「ですよね。ちなみにあの人。洗脳のかかり具合は悪いですけど、最近結婚してしまったから、やめるにやめられないみたいです」

「笑えないあるあるだな」

「と、言うわけで」


 クリフはそこでもう一度話を切って、本題を切り出した。


「彼らに個別でスカウト、ヘッドハンティングをかけようと思います」

「引き抜くのか」

「はい。少なくともあれよりはマシなファミリーだと自負してます」

「そうだな」


 クリフは洗脳から抜け出した元・被害者だ。

 自分のような思いをさせたくないという意味では、「少なくとも」なんかじゃない。

 アレより遙かにいい環境を作るだろう。


「なので、リョータさんの名前を貸して欲しいです」

「俺の名前?」

「はい。リョータさんがバックにいるだけで、引き抜きが上手く行きます」

「それだけでいいのか? こう言う話ならとことん協力するぞ」


 まるで他人事とは思えない、ブラック企業のような話だ。


 俺はむしろ、積極的に力を貸したいとさえともった。


 しかし、クリフは首をふった。


「いえ、今はこれくらいが一番です。リョータさんがいきなり出ていくよりも、バックについていて『次はあのリョータ・サトウがでてくるぞ』くらいが一番効果的です。叩きのめしたいんじゃなくて、引き抜いて助けたいんです」

「そうか、わかった。じゃあ任せる。なにかあったらなんでもやるから、いつでも言ってくれ」

「はい!」


 クリフは頷き、そのままへたりこんでいる遅刻した男に向かっていった。


 数日後、円陣を組んでいた冒険者の引き抜きに成功して、そのパーティーが事実上解散したと聞いた。

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