446.倍化りょーちん
「たっだいまー。おっ。ねえねえリョータ、どうだったのテスト。その子の能力上げられた?」
早めに上がって、サロンでくつろいでいると、戻ってきたアリスが興味津々って顔でかけよってきた。
「ユキの能力は上がらなかったけど、俺の――」
「ユキ? 名前つけたんだ」
「……ああ」
俺は苦笑いしつつ、頷いた。
「そかそか、いい名前だね」
「ありがとうございます」
一緒にいる――バナジウムと肩を寄せ合って座っているユキが嬉しそうに返事した。
「で、なんでユキなの? 氷の魔法でも覚えた?」
「いや、カーボンそっくりだったから」
「それでユキ? なんで?」
「うーん」
カーボンと有機化合物からの連想なんだけど、説明は難しいな。
この世界に転移してきて三年目に突入するけど、向こうにあった元素という概念がこっちにはない。
有機化合物なんて言葉を一度も聞いたことはない。
説明は難しいから、話を変えてみた。
「それよりも、アリスには協力してもらいたい事があったんだ」
「うん? 何々、なんでもいってみて」
今日は変化の大きい一日だった。
朝出かけた時は、ニホニウムでスライムの能力を上げられるかどうかの確認だった。
途中でスライムに名前をつけて、ユキの能力は上げられなかったけど、そのかわり俺がSSSになれた。
その、SSSがらみでアリスにテストして欲しい事がある。
俺はまず、今日のことをざっと一通りアリスに説明した。
「って訳で、俺の能力はSSとSSSで切り替える事ができる」
「すっごーい! リョータますます最強じゃん」
「ありがとう。それで、俺の能力が反映されるりょーちんの強さが、召喚時なのかリアルタイム反映なのか知っておきたい」
「うーん、つまり?」
「SSの状態で呼び出したあと、俺がSSSになったらそれが反映されるかのテストだよ」
「なるほど! わかった」
「今日行ける? それとも明日まで待った方がいい?」
アリスの切り札、魔法・オールマイトによるりょーちん召喚。
一日に一回、60秒程度しか呼び出せない、まさしく切り札と呼ぶにふさわしい存在。
「大丈夫、今日もりょーちん呼んでないから」
「呼ばなかったのか」
「みんなどんどん強くなっていくしね」
アリスがいうと、彼女の肩に乗っている仲間モンスターたちが一斉にわいわいと盛り上がった。
手のひらサイズの人形が自分で動いて、はしゃぐ姿は見ていてほっこりする。
「よし、じゃあ早速やってみよ」
「60秒しかないから、呼び出して腕相撲しよう。今の俺はSSだから、呼び出した後にSSSになって、それで俺が勝つか、引き分けるかを試そう」
「おっけー」
アリスは指を輪っかにした古典的なサインをだした。
打ち合わせがすんで、アリスが両手を天井に向かって突き上げて。
「りょーちん!」
次の瞬間、彼女の前の空間に亀裂が出来て、りょーちんが現われた。
俺そっくりだが、4頭身ぐらいの、デパートの屋上にあるような着ぐるみな感じの俺。
それがアリスの究極召喚・りょーちんだ。
「よし。バナジウム、ユキ。頼むよ」
「わかりました」
「……(こくこく)」
応じる幼げな少女コンビ。
とはいえ主に何かをするのはバナジウムだ。
彼女はユキの能力を下げていき、最後に俺に頷いた。
ポータブルナウボードで確認、全能力がSSSになっている。
「おー、すごい」
「時間が無い、早速腕相撲だ」
「だね。りょーちん、ガンバだよ!」
俺とりょーちんはサロンのテーブルをはさんで、肘をついて手を組んだ。
アリスは俺たちが組みあった手のてっぺんに変身前のホネホネをのっけた。
「よーい……どん!」
アリスの号令とともに、俺とりょーちんは腕相撲を始めた。
互角。
最初から全力を出した俺だが、りょーちんを押し切れなかった。
拮抗すること十秒、まったくの互角だ。
これは――リアルタイムで反映しているな――と思った次の瞬間。
メキッ、ミシミシ――パァーン!
俺たちの力に耐えかねて、サロンのテーブルが粉々に砕けちった。
「おー、すごい」
「あはは、勝負つかなかったな」
「つかなかったって事は、りょーちんもSSS並になってるって事だよね」
「そういうことだな」
「やった、あたしもまたちょっと強くなれた」
俺の能力はりょーちんと直結している。
アリスの切り札が強くなるのは、ファミリーとしても喜ばしいことだ。
これなら――。
「あれ?」
「どうした」
「りょーちんが消えないよ」
「え?」
振り向く、アリスが攻撃しろという指示は出してないから、りょーちんはその場で棒立ちしていた。
たしかに――消えない。
「もう一分経ってるよね」
「ああ、たってる」
「どうしたんだろう……」
「うーん」
きつねにつままれたような顔をする俺とアリス。
それから更に一分くらいして、りょーちんがいつものように消えた。
しかし、呼び出した時間は。
今までの倍近くあった。