表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
439/611

439.遺伝

 夜のサロン。


「今日からお世話になります」


 幼い娘が、俺の仲間達を前に、おしゃまな感じでぺこりと一礼した。


 仲間達全員、いきなりの事に驚き、絶句している。

 その中でも、特にセレストとエルザの驚き具合が群を抜いている。


「カーボンとそっくり……まるで娘……娘!?」

「まさか! リョ、リョータさんとカーボンさんの!?」

「ん? ああ、まあ。カーボンに協力してもらった結果だな」

「初めての共同作業だよ!」


 カーボンが親指を立てて、満面の笑みにウインクをつけて言い放った。


「……そんな」

「はうぅ……」


 セレストがものすごい絶望した顔をして、エルザがふらふらとへたり込んだ。


 いや、そういうことじゃないんだ。


「と言うことは、リョータさんのことはパパって呼ぶのね」

「パパ? パパって呼んだ方がいいんですか?」


 スライムは俺を見あげて、無邪気な目で聞いてきた。


「パパって呼んだ方がきっとリョータさんも嬉しいよ」

「そうなんですか? 分かりました。これからはパパって呼びますね」


「……」

「はうぅぅ……」


 セレストは魂が口から抜けたような顔をして、エルザはますます悲しそうに呻いた。


 それをみて、イーナがこっそり、クスクスと笑っている。

 あっ、これは分かっててイジってる事案だ。


 だとしたら、普通にばらせば――。


「あれえ? でもその子、スライムだよね」


 ふと、アリスがそう言った。

 そう言って、カーボンそっくりの幼い女の子に変身したスライムの前にやってきて、じっくり観察するように顔をじろじろのぞき込む。


「「――っ!」」


 イーナのいじりで地獄のどん底に突き落とされたような二人が、パッとアリスの行動に食いつく。


「うん、やっぱりスライムだ」

「アリスには分かるのか。まあそうだよな」

「うん! しかもこれ、ユニークモンスターだね」

「そういう事だ。えっと……スライムの姿に戻ってくれる?」

「分かりました、パパ」


 スライムはそう言って、人の姿からスライムの姿に戻った。

 テルル地下一階でよく見かけるスライム――を、ちょっとだけ細部のフォルムが変わった、ユニークモンスター・スライムだ。


「本当にスライムだったわ……」

「って、ことは……」


 セレストとエルザはカーボンを見た。


「そう、ユニークモンスター化して、カーボンの能力が何らかの形でついた子だ」


 俺が説明すると、セレストはほっとして、エルザは親友のイーナをきっと睨んだ。

 イーナはぺろっと舌を出して、イタズラっぽく肩をすくめた。


「本当に娘かと思ったわ」

「まあ娘というか……」


 元の姿に戻ったスライム、その姿だとしゃべれないらしく、元の「キキー」という鳴き声を出しながら、部屋の隅っこにいるもう一体のユニークモンスター、サーペラスのケルベロスの所に向かった。


 向かい合う二体のユニークモンスター。

 しばらく互いを見つめた後、二体は同時にジャンプして、ケルベロスは前足を、スライムは体の一部を変形して突き出し、二体はジャンプしながらのハイタッチをした。


 いえーい! っていってるのが聞こえてくる位見事なハイタッチのあと、スライムはケルベロスの頭の上に乗った。

 スライムを載せたケルベロスは、ものすごい勢いで尻尾をふって、それから走り出した。


 バナジウムダンジョンの中と言うこともあって、かなり広めにとったサロンの中で、はしゃいで駆け回る。


「……ケルベロスとにたような感じでしょ」

「はいです、すごく仲よさそうなのです」

「ザ・親友って感じだよな」

「ウサギとニンジンの交わり……」

「そんな水と魚みたいに言われても……わかるけど」


 皆で、スライムとケルベロスがはしゃぐのを眺めていた。

 俺やエミリーやアリスはもちろん、さっきまで絶望していたセレストとエルザまでもが、微笑ましい目で二体を見守った。


 ひとしきり駆け回って、それで満足したのか、ケルベロスはとまって、スライムも頭から飛び降りて、ふたたび娘の姿に戻って、こっちに向かって来た。


「ごめんなさい。ついはしゃいでしまいました」

「別に構わないよ。サロンにいる時、皆は好きなことをやってるからな」


 俺はぐい、と親指でサロンの反対側を指した。

 アウルム、ニホニウム、バナジウム――それにオマケでサクヤ。

 精霊組はこっちを見てるが、積極的に話に参加しては来ない。


 セレストとエルザが食いついて「娘」というのに実感がないような、そんな反応をしている。


「でも、共同作業で産み出された子なのよね。あっ、これ真面目な話だから」


 イーナは一応って感じでエルザに断ってから、スライムを見つめた。

 なんだろう真面目な話って。


「それがどうしたんだ?」

「見た目はカーボンそっくりだからいいんだけど、リョータさんの何かを受け継いだ、ってのはないの?」

「俺の?」

「うん、だって共同作業なんでしょう。二人が力を合わせて」

「なるほど」


 確かに真面目な話だ。


 カーボンの見た目と同様、俺からも何か受け継いでいないか? とイーナは言う。


 俺は少し考えて、スライムに聞いた。


「俺に似た格好になることは出来るのか?」

「ごめんなさい、人間さんの姿は、この姿しかなれません」

「そうなのか」

「じゃあ能力かな?」

「かもね! ちょっと取ってくる」


 アリスはそう言って駆け出して、すぐに戻って来た。

 取ってきたポータブルナウボードを俺に手渡した。


「能力か。よし、これを使ってみてくれ」

「わかりました」


 スライムはそれを使って、能力をチェック。

 すると。


―――1/2―――

レベル:1/1

HP F

MP F

力  F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 S

運  F

―――――――――


―――2/2―――

植物 F

動物 F

鉱物 F

魔法 F

特質 F

―――――――――


「レベル1なのです……」

「Sもあるじゃん!」


 エミリーとアリスがそういい、イーナがにやりと笑った。


「やっぱり娘ね」


 すると、セレストとエルザがまたしても、絶望のどん底に突き落とされた、そんな顔をしてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 『 拘束して、ずっと放置していたスライムが一瞬だけ光を放って、それが収まるとまったく違う姿になった。  もとからそうだが、より愛嬌のある顔になって。 「あれ? ぼく……なんで? ひゃあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ