437.ユニークモンスター再び
「お待たせ、帰ろう!」
この日も夕方にカーボンを迎えに来た俺。
カーボンがモンスターを出して、それを自分の姿に変身させた。
精霊であろうと、その能力を持たせることが出来るカーボンのモンスター。
そのモンスター=カーボンを、俺はしばしじっと見つめてしまう。
「どうした? あれがどうかした?」
「うーん、あれをみてると何かひらめきそうなんだ」
「ひらめく? なに? ねえねえなになに?」
カーボンはにわかにテンション高くなった。
俺の「ひらめく」という言葉に反応したのは明らかだ。
俺に期待してくれている、という事でもあり、それに応えなきゃと俺は脳みそを振り絞って、ひらめきそうなのを頭の思考の海からすくい上げようとした。
「それよりもリョータ様、家に帰ってからしませんか?」
待機しているミーケがそう言ってきた。
カーボン、アウルム、ニホニウム。
この三人の精霊が家に帰る――つまり本人のダンジョンを出るには、ユニークモンスターであるミーケの能力が必要だ。
そのため、ミーケは朝と夕方がもっとも忙しい。
「……ミーケ」
「はい、何ですか?」
「お前、ユニークモンスターだよな」
「はい、リョータ様にして頂いたのですけど……それが何か?」
「……カーボン」
「なになに? ひらめいたのが分かった?」
「ああ、ちょっとテストに協力してくれ」
「うん!」
カーボンは思いっきり、ハイテンションで頷いた。
☆
バナジウムダンジョンの外。
夜の帳が降りて、街中は日中とは違う種類の賑わいを見せ始めている。
そこで、俺はカーボンと二人っきりでいた。
バナジウムの外、新しく買った土地を含めた、屋敷の庭。
「どうしたらいいの?」
「まずは、これをハグレモノにする」
俺はそう言って、この世界に来て初めてモンスターを倒して手に入れた物――もやしを地面に置いた。
それを置いて、カーボンに手招きして一緒に距離を取る。
しばらく待つと、もやしがスライムに孵った。
そのスライムに拘束弾を撃った。
孵ったばかりの、ほんのり凶悪なハグレモノスライムは拘束弾に縛られてまったく動けなくなってしまう。
「よし。じゃあ頼む」
「さっき言ったとおりにすればいいんだよね」
「ああ」
「わかった!」
カーボンはそう言って、拘束したスライムのそばにモンスターを召喚した。
カーボンダンジョン特有の、変身前はほとんど同じ見た目の、黒い塊のモンスターだ。
それは八体。
ぐるりと円陣でも組むかのような感じで、スライムを取り囲んでいる。
直後、黒い塊は一斉に変身を始めた。
うにょうにょとうごめいたあと、八体が全部、俺の姿になった。
「次は? 倒しちゃう? でもこんなにいるんじゃオーバーキルじゃん?」
「倒さなくていい。そのまま取り囲んでいればいい」
「それだけでいいの?」
「ああ。頼む」
「わかった、任せて」
カーボンは嬉しそうに自分の胸を叩く。
八体の俺もどきはまったく動かなかった。
カーボンダンジョンのモンスターは人間の姿に変身するが、同じ人間に変身しても、その能力は元のモンスター次第で違いがある。
同じ俺に変身しても、俺より遥かに弱いやつと、俺とほとんど同じくらい強いやつと、俺の姿をしていながら俺の仲間の力を使うやつと。
実に色々、多種多様と取りそろえている。
そんな中、俺はカーボンに頼んだのは、彼女の精霊部屋に使っている、「いるだけのために」あるあのモンスターだ。
その対象を俺にして、スライムを取り囲ませる。
しばらく待つ、変化はない。
「もうちょっと増やしてみよっか」
「わかった。じゃあ取り合えず倍ね」
あっさりと言い放って、更に八体の黒い影を召喚し、それを全部おれにするカーボン。
傍から見るととんでもない光景になった。
俺の姿をしたモンスターが合計16体。
それが微動だにせず、拘束されたスライムを取り囲んでいる。
モンスターはカーボンの制御下でまったく動かないこともあってか、傍から見れば16体の俺の蝋人形がいる。
そんな、ちょっとしたホラーになった。
しかし、それがきいた。
拘束して、ずっと放置していたスライムが一瞬だけ光を放って、それが収まるとまったく違う姿になった。
もとからそうだが、より愛嬌のある顔になって。
「あれ? ぼく……なんで? ひゃあ! なにこれなにこれこわい!」
しゃべれるようになったスライムは、自分の周りを見て盛大に引いた。
「これでいいの?」
「ああ、成功みたいだ」
ユニークモンスター。
元はハグレモノを長年かっていると、その人間の波動をずっと受け続けていたら変化するモンスターのことだ。
前に我が家の愛犬ケルベロスがなった時や、クレイマンたちの時に知ったこと。
俺の波動は、どうやら他の人間よりも強い。
その俺の強い波動を、カーボンが精霊の部屋用にコピーするモンスターで数を揃えたらユニークモンスターを簡単に生み出せるんじゃないか? ――とひらめいた。
そしてそれは成功して、俺たちの前にスライムのユニークモンスターが生まれた。
「これ! 初めての共同作業だよね!」
成功した事で、カーボンは思いっきり、機嫌をよくしていた。