430.副収入
シクロダンジョン協会、会長室。
一人で訪ねた俺は、セルにカーボンのことを話した。
ただの冒険者相手ならいくつかごまかす必要もあるが、セル相手だからほとんど包み隠さずに話した。
「と言うわけで、引き返したらダメなのはそのままだが、惑わせる幻覚とか、そういうのは今後なくなる。カーボンが約束をしてくれた」
「さすがサトウ様。しかしそれでは一つ新たな疑問が」
「なんだ?」
「カーボンは今、サトウ様を『真の運命の人』だと期待している、サトウ様が更なる試練を乗り越えてくれると。それが他の冒険者に影響がでないか?」
「それなら大丈夫だ」
セルが持った疑問は、俺も感じていた事だ。
だから昨日のうちに、カーボンと話をつけてある。
「サルファがあるだろ?」
16番の硫黄。
シクロにある、入場する度に闘技場みたいなところでソロで戦う不思議なダンジョンだ。
「俺が入った時だけ、サルファみたいになることが決まった」
「サトウ様のみ完全に別枠、ということか」
「そうだ。だからカーボンに入った他の冒険者は影響されない。良くも悪くも『ただのカーボン』になる」
「なるほど……さすがはサトウ様。そこまで調教を済ませていたとは」
「調教言うな」
俺は苦笑いしながらつっこんだ。
そういういいかたができるかも知れないが、人聞きが悪すぎる。
「改めてサトウ様には感謝する。これであそこの『先』をすすめられる」
「先?」
「うむ。セレンに続き、カーボンも目処がついた。あそこはシクロから切り離して、新たな街を作った方がいいと思う」
「俺もそう思う」
ここしばらく、カーボンの為に何回か通常ルートであそこに行ったが、周りは既に街のような感じになっている。
未整備なので乱雑な感じが強いが、複数のダンジョンがあって、大勢の冒険者が集まって、その冒険者が生産したアイテムを買い取る買い取り屋があって、儲けた金目当てにいろんな店が出来ている。
あらゆる物がダンジョンドロップから成り立っているこの世界における、「街」の必要条件を満たしているので、自然と形ができあがっている。
「カーボンが安定すれば冒険者もますます増える。既に特組が冒険者の斡旋を始めていると聞く」
「特組?」
「小規模特殊冒険者組合」
セルの口から初めて聞く名前が出てきた。
小規模特殊冒険者組合――なるほどそれで特組か。
「どういう組織なんだ? 組合って言うからには……」
「うむ、ファミリーを持たず、ここでやっている冒険者達の寄り合い組織だ。武器や情報、そして組合員が病気になった時、損害を出してしまった時のカバーをする」
「そういうのがあったのか」
まあ、あってもおかしくはないか。
「その特組が動いている。カーボンの特性上、新人冒険者ならばモンスターの方向性をコントロールしやすい」
「たしかに」
カーボンのモンスターは全部が変身系だ。
今まであったモンスターの、強いとか弱いとか、あるいは人間とか。
そういうのを読み取って変身するモンスターばかりだ。
「つまり……例えばテルルでスライムを一体だけ倒した新人冒険者なら」
「そう、カーボンで『最強』でも『最弱』でも、変身するのはそのスライムになるということだ」
「なるほど考えたな」
「それに秩序を保ちやすいことも分かった」
「秩序?」
「横殴り対策だ。モンスターが変身すれば、その冒険者の相手ということになる。今までの横殴り対策は単なる主観だったり、客観的な証拠であっても目撃証言程度だったりと今一つ不十分」
「カーボンのモンスターははっきりとこっちをロックしてくるからな、変身のために」
セルははっきりと頷いた。
「それもあって、新人には優しい環境だということで、特組が乗り気だ」
「そうか」
この世界の理は結構面白い。
その特殊な理にそって街ができあがっていく過程は、何度見ても面白いものだ。
「もう一つ相談なのだが」
「なんだ?」
「ついては、カーボンの収益、税金から一部サトウ様に献上したい」
「マージンをくれるのか?」
「うむ、カーボン全体が安定して運営するには、サトウ様に精霊の相手をしてもらわなければならん。だから一部支払うのは当然だ」
「なるほど」
「割合の調整はこれからするが……年間十億ピロ」
「……へ?」
「それで、カーボンの相手をしてもらえないだろうか」
副収入だやったー、と思ったらとんでもない額を提示された。
さすがにこれにはびっくりする俺だった。