429.武器コピー
「それじゃ……行くです!」
「ああ」
サロンの空いてるスペースで、仲間の皆が見守る中、俺はエミリーと向き合っていた。
エミリーは深呼吸して、普段はサロンに持ち込まないハンマーを持ち出して、振りかぶって俺に叩きつけてきた。
腕をクロスさせて、頭上でハンマーを受け止める。
とても重い一撃だ。
エミリーは力A、しかしハンマーが繰り出してくる攻撃は質が高く、同じ力Aの他の人間よりも高い破壊力を有している。
それがずしり、と腕から全身に衝撃が突き抜けていく。
エミリーはその反動で、ぐるっとバック転をして離れ、ハンマーを持ったまま綺麗に着地した。
「ヨーダさん、大丈夫なのです?」
「ああ。さすがエミリー、結構効くね今のは」
「これでいいのです?」
「そうだな……」
俺は頷きつつも、振り向いて、背後で俺を見つめているカーボンに視線を向けた。
目があったカーボンは、こくりとはっきり頷いた。
「よし、じゃあやってみるか……」
深呼吸して、ちょっとジンジンする腕をさすりつつ、右手を突き出して念じる。
「「「おおお!?」」」
次の瞬間、綺麗に重なった感嘆の声がサロン内に響いた。
突き出した俺の手に、エミリーとまったく同じハンマーが握られていた。
「エミリー」
「はいです!」
頷きあって、同時にハンマーを横薙ぎにフルスイング。
ドゴーン!! パリーン!
打ち合う俺とエミリーのハンマーはものすごい轟音と衝撃波を生んだ。
衝撃波のせいで、サロンの窓ガラスが一斉に砕け散った。
「おー、すごいね」
「リョータさんとエミリーがハンマーで打ち合えばこうもなるわね」
「だねー。あっえりっち、窓直しといて」
アリスが屈託なく言うと、バナジウムは頷いて、とたたたと走っていて、砕け散った窓ガラスを直した。
もともとがバナジウムダンジョンの中、見栄えだけのために存在している窓ガラス。
ダンジョンの精霊たるバナジウムが手をかざすと、ガラスの破片が消え去って、窓ガラスも綺麗に復元した。
それとほぼ同時に――
「あっ、ヨーダさんのハンマーが消えたです」
「消えたな。これは?」
再び振り向き、カーボンにたずねる。
そう、今エミリーに協力してもらってテストしているのは、カーボンが授けてくれた能力だ。
ここにいる精霊の大半が俺に何らかの形で力を貸してくれている。
バナジウムは言うまでもなくこのダンジョンそのものをファミリーの本拠地として使わせてくれてる。
アウルムは俺が望めばモンスターを倒した時に追加で砂金ドロップするし、ニホニウムは能力アップの種と、リペティションの魔法と、ちょこちょこダンジョンマスターを出してもらってる。
それを聞いたカーボンが、「あたしもあたしも!」と言ってきたから、能力を授けてもらった。
それが――。
「うん! 最後に受けた攻撃とか武器を一回だけ使えるようにしてあげた」
「なるほど」
カーボンの能力は、カーボンダンジョンのモンスター、ひいてはダンジョンマスターの能力の延長線上だ。
どんな武器でも、喰らった物(ガードも含む)を一度だけ再現することが出来る。
「結構すごい能力だけど、リョータさんにはあまり意味がないんじゃないのかしら」
セレストがそんな事を言ってきた。
「いや、そんな事もない」
「そうなんですか?」
「ああ、例えば――」
俺は銃を抜いて、あらかじめ装填しておいた弾を自分に向かって撃った。
自分で撃った弾を、ガードして軌道を逸らして防ぐ。
そして、能力発動。
銃がもう一丁出て――その銃から弾を抜いた。
更にオリジナルの銃から弾を抜いて、仲間達に見せる。
「ちゃんと出来た」
「あっ、えりっちの弾が二つ」
アリスが真っ先に気づいた。
「そう、バナジウム弾が一発限りだけどコピーできる。出来るかなって思ったけど、ちゃんといけるみたいだ」
「すごいです! それならすごく役に立つと思うです!」
自分の事のように喜ぶエミリー。
そして――。
「ありがとう、カーボン」
「そ、そう。まあ良かったじゃん」
カーボンも、慣れない感じで喜んでいた。




