428.口車にのせられる精霊
夜のサロン。
夕ご飯の後、特に用事がなければ、全員がここに移動して、くつろいでだべったりするのが、リョータファミリーの日常になっている。
今日もほぼ全員集合している。
エミリーに、セレストに、アリスにイヴといった冒険者組。
エルザ、イーナの買い取り屋商人組。
アウルム、ニホニウム、バナジウムに、ミーケとサクヤが加わった精霊+α組。
ほぼ全員集合の面子に、今日はゲストが加わった。
そのゲスト――カーボンは目を丸くし、ポカーンとしていた。
「どうしたんだ?」
「精霊が四人も……ここってどういう所なの?」
「四人? ああ、メラメラもそうだったな」
意識していないとたまに忘れがちになってしまう、メラメラ=フォスフォラス。
デフォルメした格好でアリスの仲間モンスターに加わっているが、彼もれっきとしたフォスフォラスダンジョンの精霊だ。
そのフォスフォラスも加わって、カーボンは屋敷に連れ込んだ直後に比べてさらに驚いていた。
「皆、俺の大切な仲間達だ」
「仲間……」
「それよりも話を聞かせてくれるか? さっき、運命の人とか言ってたけど、あれってどういう事?」
「そうだ! ねえ、あんたがあたしの運命の人だよね!」
――ガタン!
音を立てて、同時にセレストとエルザが立ち上がった。
セレストはものすごくびっくりした顔で、エルザもなんか慌てた様子で、二人してこっちをじっと見つめている。
その意味をじっくり考える余裕もなく。
「そうだよね!」
と、カーボンが期待する顔で俺に答えを求めた。
「えっと……まず、その運命の人って何なのかを教えてくれるかな。それが分からないと答えようがない」
「そうなの?」
「ああ……精霊と人間の感覚って違うから」
俺は適当にそれっぽい理由をつけてみた。
そんな事はあまりないと思うのだが、とりあえずそれを口実にしてみた。
「そんな事ない! 運命の人はちゃんと人間から聞いた話だもん」
「どういう事?」
「あんたの前にあたしに会いに来た人に教えてもらったんだけどね。人間も精霊も、運命の出会いってあるんだって」
「それは……うん、まあ、そうかな?」
一般論としてはそうだろうと思い、頷いた。
「でね、そういうのって、いろんな試練を乗り越えた人がそうなんだって。運命の人は、立ち塞がるあらゆる障害をはねのけてこその運命の人なんだって」
「それも……まあ、分からなくはない」
「そいつに話をきいてから何百年もの間人間にいろんな試練を与えたんだ。あたしのダンジョンで。それを全部クリアしたのあんた」
「……なるほど」
それで運命の人か。
「ねえ、あんたがあたしの運命の人だよね?」
「うーん、と……」
さてどう答えるべきか。
「ちなみに聞くけど、その運命の人って何をするための人なの?」
「わかんない! それも出会ったら分かるって」
「適当だな……」
前の人に騙されたか、いいように言いくるめられたか。
そのどっちかなんじゃないか? なんて思うようになってしまう。
「あっ、でも分かる!」
「え?」
「せっかくあった運命の人。ずっと一緒にいたい!」
パリーン! バキッ!
いきなり物音がした。
音の方に振り向くと、セレストが皿を落として割って、エルザはティーカップの取っ手を折ってしまう。
二人はますます、焦った顔でこっちを見ている。
「はあ……やれやれ」
それに反応したのがイーナだ。
彼女は苦笑いで溜め息を吐いて、こっちに向かってきた。
「ちょっといい?」
「なによ、あたし今、彼と話してるんだけど」
「運命の人の事、私知っているわよ」
「本当!?」
カーボンがイーナに食いついた。
「ええ。それに真・運命の人というのも知っているわ」
「し、真!? なにそれ、教えて!」
「簡単よ。運命の人は、どっちか片方が試練を乗り越えたのを言うの。でも真・運命の人はね、両方とも試練を乗り越えた者同士のことを指すのよ」
「なるほど!」
いやなるほどじゃなくてね、と思ったが、カーボンはものすごい勢いで納得した。
「だから、これからはあなたが試練を受ける番」
「そうだね! でも何をすればいいのかな?」
「ダンジョンに戻った時、他の冒険者への試練はやめて、彼のことだけを考えるの」
「考えるだけ?」
「あーら」
イーナはにやりと笑って、流し目でカーボンを見た。
「だけって言った? 試しに一日だけやってご覧なさい。どれだけ大変なのかが分かるから」
「わかった! ねえあんた、あたしをダンジョンに連れて帰って!」
「あ、ああ……分かった」
カーボンに急かされて、立ち上がる俺。
サロンから出る直前にイーナと目があったら、ウインクを飛ばされた。
なんか更に深みにはまっている気がしなくもないが。
イーナのおかげで、カーボンのターゲットが俺だけになって。
カーボンダンジョンは、他の冒険者には普通に冒険・生産出来るダンジョンになった。