425.二段加速
鉄壁弾で入り口をこじ開けて、一旦外にでてダンジョンをリセット。
それからすぐにまたダンジョンに入って、途中のモンスターをリペティションで瞬殺して、再び地下二階に降りる。
そこで深呼吸する。
ここからはスピード勝負。
+10W加速弾はただの加速弾に比べて、より完全に時間を止められるが、その分効果時間が短い。
さっきも、入り口に引き返して辿り着いた直後に効果時間が切れて、光の渦が消えたばかりだ。
光の渦対策もしなきゃいけない事を考えて、ちゃきちゃきと、いや全速力で動かなきゃならない。
だから深呼吸して、ストレッチして指の骨を鳴らして、本気で――と集中した。
「……よし」
+10の銃にW加速弾を込めて、自分に撃つ。
空気が止まる――時間が止まる。
その場で儀式的な感じで階段を上り下りして入り口が閉じる条件を満たしてから、全速力で駆け上がって入り口に向かう。
少しばかりの余裕をもって、戻って来た、光の渦がちゃんとあった。
俺はそのまま光の渦に飛び込んだ。
まばゆい光が全身を包む。手を目の前にかざして顔を背ける。
そして、弾の効果が切れる。
「えっ――」
何者かの声が聞こえた――瞬間。
目の前が更に光に包まれた。
その光が収まると――なんとダンジョンの外にいた。
周りを見回した。
遠巻きにこっちを見ている冒険者達、入り口にドーンと鎮座している俺の銅像。
間違いない、カーボンダンジョンのすぐ外だ。
「どうしたのだサトウ様」
そして、またこの場にいたセルが訝しげに話しかけてきた。
「精霊に追い出された」
「早速せまったのだな、さすがだ」
「追い出されたけどな」
苦笑いして答えた。
あの声、多分カーボンダンジョンの精霊、カーボンで間違いないだろう。
なら光の渦を通った向こうのあそこは精霊の部屋。
テネシンとは逆だ。
テネシンは俺を招き寄せたが、カーボンは有無を言わさず追い出した。
「どうするのだ?」
「もう一度行ってくる」
カーボンダンジョンに入って、少し離れた所につけておいた転送ゲートに飛び込んだ。
転送ゲートのおかげで、一瞬で屋敷に戻って来た。
そのまま転送ゲートに行き先を指定――カーボンの精霊部屋。
転送ゲートは起動した。
一瞬だけだったが、それでもブックマークは成功しているようだ。
俺は転送ゲートに飛び込んだ。
「ええっ! しつこい!」
次の瞬間、またしてもカーボンダンジョンの外に飛ばされた。
俺はあごに手を当てて考えた。
思考に入ったのを見たからか、セルは話しかけてこなかった。
ちょっぴり面倒な事になった。
転送ゲートを使ってしまったことだ。
あの瞬間、相手の声を最後まで聞けてから、外に飛ばされた。
それは、入り口を無理やり閉じてしまうのと違って、一瞬だけの猶予がある。
だがその猶予も、通常の俺――速さSSを上回るもの。
とてもじゃないがかわせない。
更に加速弾を自分に撃つにしても間に合わない程早い。
「……無理やりにでもやってみるか」
俺はダンジョンに入り、予定を立てながら再び地下二階に戻る。
さっきと同じ+10W加速弾で入り口に駆けつけて光の渦に飛び込む。
その後更に用意した加速弾を自分に撃って、精霊の追い出しを躱せるだけかわす。
速さSSより早いが、圧倒的な差じゃない。
アクションゲームで、コンマ一秒の操作を求める位難しい感じだが、何回かチャレンジすればいけそうな感じもする。
「問題は何回もやると向こうも新しい何かをやってきそうだが……まあその時はその時だ」
腹をくくって、再びカーボン地下二階へ。
バナジウム弾でW加速弾を作って、+10を用意。
手順を復習する。
+10W加速弾で突入、その後効果時間切れと同時に加速弾を追加して避ける。
+10W加速弾の効果の短さも相まって、ますます集中にいかなきゃならない。
俺は深呼吸して、肩や肘の関節をならして、さあいこうと銃口を自分に突きつけた。
「――っ!」
瞬間、頭の中にある可能性がひらめいた。
何となく通常弾を撃った。
銃弾が真っ直ぐ飛んで、壁にめり込んだ。
その後W加速弾をノーマルの銃で自分に撃った。
更にW加速弾をつくって、+10銃で自分に撃った。
そしてまた、通常弾を撃つ。
弾は飛び出なかった、予想していたからゆっくり銃を引くと、通常弾が空中で止まっていた。
+10W加速弾の効果で、通常弾が完全に止まっている。
しばらくして、時間停止の効果が切れた。
すると、通常弾がのろのろと動き出した。
鉄壁弾に匹敵するノロノロ、W加速弾の効果だ。
「いける!」
善は急げ、俺は同じことを繰り返した。
W加速弾の効果が完全に切れるのを待って、もう一度W加速弾を自分に撃つ、その上に更に+10W加速弾を撃つ。
完全に止まった世界の中でカーボンの入り口を階段の上り下りで閉じて、入り口に急行。
再び現われた光の渦に躊躇なく飛び込む。
そこで、第一段階の加速が時間切れ。
「しーーーーつーーーーこーーーーいーーーー」
スロー再生の間延びした声が聞こえてきた。
通常の加速弾、+10W加速弾より効果時間が長いために、残った効果のせいで声が間延びしている。
そして、俺をつつむ光もスローになった。
それを思いっきり避ける――白い光でまばゆい世界の中声を頼りに肉薄する。
「なーーーーにーーーーすーーーーるのよっ!」
途中で加速弾の効果が切れて、相手の声も普通に戻った。
俺は向こうの腕を掴んでいた、向こうは振りほどこうとしたが、離さない。
やがて光が収まっても、はっきりと見えてきた30代くらいの女が必死に振りほどこうとして、しかし俺を飛ばさない所をみて。
「……よし」
侵入は、成功したと確信した。
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