424.手がかり
「やはりサトウ様になんとかして頂くしかないな」
カーボンダンジョンの表。
話を聞いてやってきた、シクロダンジョン協会会長のセルは入り口からダンジョンの奥をのぞき込みながら言った。
カーボンの入り口は復旧しているが、新しい問題が発覚したもんだから、探索のベテラン冒険者達は再びダンジョンからひきあげて、遠巻きに俺とセルを見守っていた。
「そうだな、早くなんとかしないとみんなが安心して稼げない。街の皆の生活にも支障がでる」
この世界のダンジョンはライフラインだ。
コメや野菜、肉などはもちろん、日用品にいたるまで。
果てが空気や水までもが、全てダンジョンのドロップから成り立っている。
ダンジョンを意味なく遊ばせておくと、その分この世界で暮らしている人達の生活が圧迫されてしまう。
そうならない為にも、このカーボンをいち早く攻略しなければならない。
「しかし、なんとも意地悪なダンジョンだ」
「意地悪か……言い得て妙だな」
「サトウ様のおかげでテネシンを深く知った。ここもやはり精霊の性格が強く関わっているのだろうな」
「その推測は……うん、多分あっている」
テネシン。
一言で言えばさみしがり屋だがそれを認めないツンデレ精霊だ。
さみしさと人恋しさのあまり、ダンジョンに入った人間を閉じ込めて出られないようにしてしまうというギミックがテネシンダンジョンにあった。
それを知った俺は、テネシンダンジョンの中に、各階層に小さな村を作るという事を提案して、セルに頼んで実行させた。
ツンデレのテネシンは、「ふん! こんなにぞろぞろ来やがって、面倒くせえ!」といってたが、そう言ってた時の顔は孫を相手にしてるおじいちゃんのものとまったく同じだ。
それもあって、テネシンは今、ものすごく賑わっていて、精霊と人が上手く共存し合っている。
そのほかもそうだ。
ニホニウムやバナジウム、それからアルセニックもよく考えればそうだ。
精霊の性格は、ダンジョンの特性に大きく影響している。
帰路で更に引き返すと、出口が塞がってしまう、そしてそれを誘導するためのだましの数々。
間違いなく、精霊の意志と性格が強く反映されている。
「そうなるともうサトウ様の手にしか負えないな」
「なんとかするよ」
そう言って、俺は一人でカーボンダンジョンに入った。
バナジウムは屋敷――バナジウムダンジョンにおいてきた。
今日は魔力嵐が吹き荒れている。
セレストが屋敷で休んでいることもあって、バナジウムを任せてきた。
徐々に心を開いているバナジウム。
俺の仲間となら、一緒にいても大丈夫な様になった。
久しぶりに一人でのダンジョン探索、俺はゆっくりと考えごとをしながらダンジョンを進む。
モンスターが出ると、変身が終わる前に倒してしまう。
ダンジョンの入り口が閉ざされてしまうこの状況、解決するためにとれそうな手段は二つ。
一つはもちろん、精霊にあうことだ。
これまでの大概の事は精霊に会うことで解決してる。
解決まで行かなくても、本人にあえば糸口が見えてくる。
だが、それは今は難しい。
さみしがり屋テネシンのように召喚してくれれば話は早いのだが、そうなる様子は今の所まったく無い。
となると普通に最下層までいってからと言う正攻法をするんだが、カーボンは100階をこえる超巨大ダンジョンだ。
全階層を踏破して最下層まで行く。
その大変さを考えれば、後回しにせざるを得ない。
もう一つは、ダンジョンの入り口が閉じる瞬間から手がかりを見つけ出すことだ。
これは一階と二階の間でやれる。
順番的に、まずはこっちからだな。
俺は二階に降りる階段の所までやってきて、まずは普通に二階に降りた。
そしてきびすを返して、階段を上って、途中で立ち止まる。
ここからだ。
ここで身を翻せば入り口が閉じる。
俺はバナジウム弾を取り出して、加速弾を二つ詰める。
Wの加速弾を自分に撃った。
加速の更に先、ほとんど時が止まってる世界に入った。
そして身を翻して、一段下に降りる。
「むっ」
新しい能力、ダンジョンの構造が分かるレーダーのような能力が感じた。
今、この一瞬で。
入り口がまた、閉ざされてしまったと。
本当に一瞬だった。
ほぼ時間が止まったような世界の中でも、瞬きのような一瞬で入り口が閉まってしまった。
階段を上って、最短距離で入り口の所に引き返していく。
見事なくらい入り口が閉ざされていた。
それ以外は何もない。
変わったところは何もない。
やっぱり最下層にいって、実際に精霊に会うしか無いか。
そう思ってW加速弾の時間切れをまって、鉄壁弾を撃って入り口を開いて、一旦外にでてダンジョンをリセット。
そして再びはいろうとしたその時、通常の鉄壁弾が消えたのが見えた。
「……」
通常の鉄壁弾はすぐ消える。
W鉄壁弾はしばらく持つ。
そして思い出す。
W鉄壁弾を更に銃+10で撃てば一日もつ。
俺は再びカーボンに入った、一直線に階段の所にやってきた。
二階に降りてから、階段のまん中の所に引き戻して。
そして、W加速弾を銃+10で自分に撃つ。
「おっ?」
自分でもはっきり分かる、いや自分に撃ったからこそはっきりとわかると言うべきだろう。
違う、完全に違う。
W加速弾と比べても更に違う。
俺は、そのまま引き返した。
「おっ!」
頭のなかのレーダーは、入り口が閉じてない事を掴んだ。
二階まで降りても閉じてない、一階に戻って、更に二階に降りても閉じてない。
「これは……」
一階に駆け上がって、最短距離で入り口に引き返す。
すると、空いたままの入り口と、その斜め上に光る渦が現われているのが見えた。
瞬間、加速が終わる。
光る渦が消え、入り口も閉じた。
「見つけたぞ」
俺は、小さくガッツポーズをした。