423.+10W鉄壁弾
カーボンダンジョンの表、閉ざされた入り口に向かって、俺は新しく入手した銃で、四隅にW鉄壁弾を撃って、無理やり入り口を開けた。
「ふぅ、たすかった」
「ありがとうございます!」
「大変な目にあったぜ」
ダンジョンの中に閉じ込められた冒険者が次々と脱出した。
脱出する冒険者を眺めると、彼らはダンジョンの入り口の横に設置された注意書きの看板――セルが設置した俺の銅像の前を通る。
注意書きにはしっかりと、引き返したらダンジョンの入り口が閉じるって書かれている。
なのに、今朝、起きたら冒険者がすっ飛んできて助けを求めてきた。
別のルールが出来たのか? なんて、思っている。
「あの……サトウさん」
「ん?」
名前を呼ばれて、振り向く。
冒険者が三人俺の方を向いていた。
話しかけてきた女と、その後ろにいる二人の男。
装備的に見て、女の人は魔法使い、男の二人は剣で近接戦闘をするという、オーソドックスな三人パーティーって感じだ。
「すみません、多分、私達が……」
「おっ」
事態把握のために話を聞こうと思っていたところに、向こうからやってきてくれた。
「引き返したのか?」
「えっと……その……どういえばいんだろ?」
女魔法使いが振り向き、二人の仲間に救いを求めるように目線を送った。
「最初から話した方がいいんじゃないか?」
「そうそう、あっちも多分ダンジョンの罠だろうし」
「そっか、そうね」
二人のアドバイスをもらって、再び俺に向き直った女魔法使い。
「えっと、魔法カートがいっぱいになったのでかえろうとしたんです」
「ああ」
「それで、階段を上ってたら、急に後ろからカールの声が聞こえたんです。振り向くとカールがつまづいて下の段で転んでたんです」
「それで降りたのか?」
男二人を見る。
カールはきっと、二人のうちのどっちかだ。
案の定そうで、二人のうち片方が答えた。
「いや、その時俺はミーナの前にいた。背中が触れるくらいの距離だ」
「ん? って、ことは……前にいたあんたがいつの間にか後ろで転んでた……って状況になるのか?」
「そうだ」
カールが言い、三人が次々に頷いた。
「一瞬迷ったけど、あっ、これって罠なんだ、って思って、無視して階段を上ったんです。そしたら後ろでころんでたカールが消えて」
「ふむ」
「で、今度は壁が現われたんだ。俺たちの前に」
「かべ?」
「そう、階段の前を防がれちゃって、すすめないってなって」
「もしかしてあのカールを無視したのがダメだったのかな、って思って思わず一歩だけもどったら――」
「上の方で悲鳴と怒鳴り声が聞こえてきた」
話を聞いて、俺は頷いた。
悲鳴と怒号ってのは、ダンジョンの入り口が閉じてしまった瞬間の、近くにいた冒険者の反応なんだろう。
怒号混じりなのは、もう何度目か分からない位の「やらかし」だからだろうな。
「そのあと壁をすり抜けて上から別の冒険者が来たんです。その時はじめて、あっ、見えるだけの壁なんだって分かったんです」
「まやかしか」
三人が一斉に頷いた。
でも……なるほど。
これで話は分かった。
二重に張られた罠に引っかかってしまったんだな。
同じ状況になったら俺も引っかかった気がするし、他の冒険者でもひっかかっただろう。
一概にこの三人は責められない、と言うことは分かった。
「状況は分かった。あまり気にしないで」
「ありがとうございます」
「すまない、次はもっと気を付ける」
「もうひっかからねえ」
三人はそう言って、そそくさとこの場から立ち去った。
俺は開いた出口を見た。
W鉄壁弾が開いた出口から、一旦全冒険者が退避するために出てきている。
一度閉じたカーボンダンジョンは、全員出てくるまで閉じたままだ。
元に戻すため、全員一度外に出るってのは、ここまで何回か閉ざされた経験からの対処法だ。
「えっと」
W鉄壁弾が消えかかった、俺は慌てて近づいて、追加の弾丸を撃とうとして。
手を突き出して止めて、銃を構える。
今まさに出てこようとした冒険者は、俺がやってる所を見たことがあるのか、微笑みを浮かべながら入り口の向こうに立ち止まって、俺が処置するのをまった。
ふと、ひらめく。
構えている銃からW鉄壁弾だけを抜いて、銃をグランドイーターのポケットにしまって、代わりに銃+10を取り出す。
それにW鉄壁弾を込めて、撃つ。
入り口の四隅に撃つW鉄壁弾、それは入り口を維持した。
処置が終わったのを見て、冒険者は出てきた。
次々と冒険者が脱出してきて、最後の一人になったところで、入り口が元通りに戻った。
W鉄壁弾は消えずに、そのまま入り口の四隅に残った。
冒険者が次々とカーボンの奥に戻っていくのを尻目に、俺はそこに佇んだまま、じっと見つめた。
W鉄壁弾で距離が縮んで、効果時間が長くなった。
それを更に+10で撃てば……?
俺はまった、じっと観察した。
弾はいつまで経っても残った、消える気配はまったく無い。
夜まで待っても残り続けて、観察をお願いした顔見知りの冒険者によると消えたのは翌朝。
丸一日、存在し続けたということになる。
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