422.密室、拘束、二人っきり
新しいハグレモノ、親子スライムを孵した。
じっくり試したいから、他に用意してるものが孵らないように俺が近づき、ジャガイモを一個だけ反対側におく。
そうして孵した親子スライムに、銃+10で拘束弾を撃って動きを止める。
今の俺の能力はオールFに低下している。
銃本体の近接戦をやるにはちょっと心許ない数値だ。
だから拘束弾をうって親子スライムの動きを止めた。
拘束された親子スライムに近づき、まずは「子」を銃身で殴る。
まるで手応えがない、空気を殴るほどの手応えのなさで子スライムを倒した。
そのまま子スライムを一掃して、親スライムの硬さを最高にする。
そうして再び銃身で殴る――やっぱり手応えがない。
「気持ち……ちょっと硬め?」
なんてつぶやいたが、正直そうなのかどうか微妙なところがある。
子を一掃した親の硬さを知っているから、それで堅いって錯覚してるだけだろ、っていわれたら返す言葉もない。
それくらいの微妙な感触だ。
今度はアルセニックモンスターをかえした。
こっちはハグレモノでも動かないから、拘束弾無しで銃で殴った。
でもやっぱり一撃、手応えがないくらいの一撃で倒せてしまう。
まあでも、一つだけはっきりしてる。
手応えからして、銃弾を撃つのよりは攻撃力が弱い。
それは間違いない――多分。
結局なにも分からなかった。
こっちの世界に来て、新しい力を手に入れた時にはいつもその能力を把握できるようにチェックしてきたが、あまりにも強すぎてテストのしようが無い。
「……まっ、強いのはいいことだ」
チェック出来ないなら出来ないなりの使い方がある。
俺は作業場を出て、転送部屋を使ってカルシウムダンジョン一階にとぶ。
そこからハセミの街に出て、買い取り屋『金のなる木』にやってきた。
買い取りを持ち込んだ冒険者が多くいて、「待ち」も出来ててかなりの盛況っぷり。
そんな中、直前の買い取りを終えたエルザが俺を見つけて、パタパタと走ってきた。
「リョータさん! どうしたんですか?」
俺の名前を呼びながら向かってくる買い取り屋マスターのエルザ、その行動は当然のように冒険者達の注目を集めた。
「リョータって、あれがリョータ・サトウ?」
「噂ほどではないな? あの動き、能力が平均EかFかの動きだぞ」
「ばっかお前、だからこそすげえんだろ? 業績は本物なんだからな」
冒険者達が口々に俺の事を噂する中、俺はエルザと肩を並べて歩き、店の奥に向かいつつ、彼女に来意をきりだした。
「取り寄せて欲しいものがあるんだ」
「お任せ下さい! 何が必要ですか?」
「マグロ、それを二頭だ」
「えっと……あの時のゴリラ、のでいいんですよね?」
俺が銃を手に入れた時に近くにいたエルザ、当然のようにそっちを連想して聞いてきた。
カウンターの向こう、店の奥の部屋に入ったエルザは首をかしげて聞いてきた。
「すぐにでも取り寄せられますけど……どうしたんですか? 銃に何かあったんですか?」
「強すぎるんだ」
「強すぎる?」
苦笑いする俺に、エルザはキョトンと小首を傾げて聞き返してきた。
「ああ、十回転生の銃だと強すぎて、何もかも一撃だった」
「それはいいことなんじゃないですか?」
「本来はな。でも俺って、普段から何かあった時のために、戦い方を研究してるだろ?」
「はい――あっ、強すぎて頼りきっちゃうんですね」
「そういうこと」
銃+10の火力は、ほとんど「リペティション」を使った時と同じ効果を生み出していた。
何でも一撃必殺、本来の使い方じゃない銃身で殴っても超火力。
「はあ……すごいですねリョータさん。強いから逆に使わないって、そんな理由予想外ですよ」
「完全に使わないって訳でもないさ。例えば――ちょっとごめん」
俺はそう言って、銃+10で拘束弾をエルザに撃った。
「拘束弾、知ってるだろ」
「はい」
俺への信頼もあってか、拘束弾を撃たれても平気な顔をしていた。
「……」
「……」
「……」
「……?」
「……」
「……あの、リョータさん?」
「うん」
「これだけですか?」
「うん、そろそろ分からない?」
「そろそろって……あれ? そういえば、効果がずっと続いてます」
「そう」
頷く俺。
さっき親子スライムの時に感じていた事だ。
拘束弾の拘束時間は、はっきりと通常の銃で撃った時に比べて伸びている。
「こんな風に、回復弾とか拘束弾とか。テストする時に効果があればあるほどいい時はこっちつかう。要は使い分けさ」
「なるほど! 分かりました。マグロ、すぐに手配しますね」
「頼むよ」
「……」
「……」
「……」
「……あの、リョータさん。これ、いつまで?」
「えっと……」
俺は頬をかいた、そういえば効果時間は知らない。
親子スライムの時は途中で倒してしまったから。
拘束弾は、相手モンスターを倒せば当然効果もそこできれる。
だから分からないのだ。
「これじゃ、手配が出来ません」
「そうだよな。えっと……引きちぎれないかな」
俺は片手でエルザの肩を掴んで、もう片手で拘束をつかんで引きちぎろうとした。
「ぐぬぬぬ……ぷはぁっ! だめだ、びくともしない。そうか俺いま力Fだったんだ」
「どうしましょう」
「このまま少しだけ待って――」
「ちょっとエルザ、何あぶらうってるの、よ?」
部屋に入ってきた『金のなる木』共同経営者のイーナが俺たちをみて、動きが止まった。
俺とエルザを交互に見比べながら。
「密室、二人っきり、拘束。…………ふむ」
ええっ? なにそれ、そこでふむってなに?
「ちょ、ちょっとイーナ?」
「はいはい、ごゆっくりー」
イーナは俺たちにウインクをして、そのままドアを閉めて部屋をでていってしまった。
違うそうじゃない!
その後、+10で撃った拘束弾の効果時間は実に二十分間続いてしまって。
その微妙な長さが、俺たちの弁明を「必死乙」な感じにしてしまったのだった。