420.ゴリラ銃+10
「なんか違和感はないか? 使ってみてどこかがおかしいとか」
「そうね……」
セレストは俺が渡した、バイコーンホーン+9を違う手で持ち変えてみたり、ポンポンとお手玉のようにしてみた。
「何もないわ。さっき使った時も含めて、元のとまったく同じよ」
「そうか、それなら良かった。一応それ、ハグレモノに孵るまでの時間が短くなってるから、そこだけ、取り扱いに注意な」
「ええ、分かってるわ。足が速いのよね、転生ものは」
頷く俺。
俺に見えているのは10%という表示だが、転生したアイテムはハグレモノになりやすいというのは知られている事みたいだ。
「それにしてもすっごいね、これ。そだ、ねえねえ、アウっち。アウっちは自分のアイテムで転生の作れる?」
感心したアリスがアウルムに話を振った。
「あたしはやったことない。黄金はどのみち黄金じゃん?」
「そりゃそっか……って、それじゃ、メラメラも?」
アリスの肩に乗っているメラメラ=フォスフォラスの体が明滅した。
「そっかー」
落胆気味に納得するアリス。
メラメラの返事は分からないが、内容は簡単に予想がつく。
モンスターを倒したら現金がドロップするダンジョン、フォスフォラス。
黄金をドロップするアウルム同様、転生したからって何かが良くなる訳じゃない。
一万ピロ札は例え転生しても一万ピロ。
よしんば転生で数が増えたとしても、それなら、100%の無転生お札の方が百倍使いやすい。
「ニホニウムは……」
と、彼女にも話を振ってみた。
「ないですね。もともとドロップしないですし」
「そりゃそうだ」
「バナジウムは――」
「……?」
俺の膝の上に乗っているバナジウムはちょこんと小首をかしげた。
話を理解していないのかな。まあいっか。
「なんてこった。うちに四人も精霊いるのに、全員例外じゃん」
アリスが大げさに頭を抱えた。
こういう時、冗談ですみ、空気が重くならないのは、彼女の良いところだ。
「でも、よく考えたら、応用できる所って少ないのよね。エミリーのハンマーも」
「はいです、これはいくつかのアイテムを組み合わせたものです。ハグレモノはフランケンシュタインです」
微苦笑するエミリー。
フランケンシュタインというのは、ゴミのハグレモノのことだ。
そして、この世界では、ドロップアイテムが「原型を留めてなければ」分類上ゴミになる。
まあ、「世界」の視点で見れば、別の分類なのかもしれないが、人間の都合のいい分類だとゴミが一番しっくりくる。
つまり、エミリーハンマー+9は作れないのだ。
「あたしもイヴっちも武器使わないしね」
「となると、後は、リョータさん」
「それはもう考えた。でも、銃弾は消耗品だから、手間の割には……って事になってしまう」
「銃は?」
「え?」
「銃」
「……」
俺はポカーン、とバカみたいに口が大きく開いた。
「……そうか、銃か」
「うん、それはドロップしたままの物なのでしょう?」
「ああ」
「やってみる?」
「やってくる」
俺はサロンから飛び出して、元地下室を模して作った俺の作業場に飛び込んだ。
皆はサロンで待った。
仲間達がいて、自分のダンジョンの中だから、バナジウムもついてこなかった。
俺は一人で作業場にきて、部屋のまん中に銃を置く。
そして、離れて、待つ。
しばらくして、かつてシクロを半壊させたあのゴリラのハグレモノが孵った。
「リペティション!」
速攻で倒して、ゴリラから銃がドロップした。
銃のハグレモノ度は90%スタート――銃+1だ。
+1が90%から0%になって、ハグレモノに孵った。
速攻でリペティションで倒して、ハグレモノ度80%スタートの銃+2になった。
それを繰り返した、延々と。
最後は10%スタート、セレストに渡したのと同じ+9の銃になった。
これでよし、拾い上げて試そう――と思ったその時。
俺は思いとどまった。
セレストに+9を渡したのは、彼女が使うバイコーンホーンはちょこちょこ手元から離れる。
糸の操作でオールレンジ攻撃をする時は手から離れるから、0%の+10じゃ使い物にならない。
が、俺は違う。
銃は常に持っている。
使う時は握ったままだし、使わない時はグランドイーターのポケットにしまって、肌身離さず持っている。
それに、万が一孵っても、俺はリペティションで自分で処理できる。
「……うん」
腹が決まった。
俺はその場に立ち止まって、ポーチを取り出す。
ほとんど間を開けずに、10%から0%になって孵ったハグレモノゴリラをリペティションで倒す。
ドロップがポーチに吸い込まれた。
ぎりぎり1%残る、銃+10だ。
それに通常弾を込めて、適当に撃つ――ドゴーン!
ただの通常弾が壁にものすごい大きい穴を開けた。
「……おー」
銃+10は、ただの通常弾でも絶大な威力を発揮するようだ。