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417.カーボンの看板

 新屋敷――バナジウムダンジョン地下一階、元地下室を模した広間。


 俺は一人で広間の中央に立って、意識を広げていた。


 俺を取り囲む――感じている気配の一つが膨らむ。

 既に抜いた銃を構えてそれに向かって通常弾を撃つ。


 空気を切り裂いて飛んでいく弾丸。

 その軌道の上にポン、とハグレモノが孵った。


 スライム。

 テルルダンジョン地下一階のモンスター、最初に倒した思い入れのあるモンスター。

 何かのテストの度にかり出されるスライムを、孵った途端通常弾が撃ち抜いた。


 ぐるっと周りを見る。

 俺を中心に、ハグレモノが孵る距離に、円形にもやしを並べている。


 今のスライムも、その一つから孵った。


 今度はそっとまぶたを閉じた。

 暗闇の中気配を掴む。


 さっきのスライムと違って、気配が同時に膨らむ。

 同時に置いたもやしが次々と孵ろう(、、、)としている。


 気配の大きさから孵る順番を読み取った俺は、目を閉じたままその順番に沿って、通常弾を撃ち込んでいく。


 見た目は乱射、実際は孵る順番の狙撃。


 目を開けると、スライムは一匹もいなくて、ハグレモノスライムのドロップの通常弾が元のもやしのあるところに転がっていた。


「すっごいねリョータ」


 パチパチパチ、と手を叩きながら登場するアリス。

 仲間モンスターたちを肩に乗せた彼女は驚嘆した表情で入ってきて、俺のそばにやってきた。


「見てたんだ」

「うん! タイミングもバッチリだった。ほとんどハグレモノになった瞬間、何もできなくてそのまま撃ち抜かれてた。場所だけじゃなくてタイミングも分かるんだ」

「ああ、分かるみたいだ」

「やっぱすごいね。ねえねえどう見えるの?」

「そうだな……信号機、ってとこか」

「しんごうき?」


 やっぱり分からないか、この世界に信号機はないもんな。

 俺はもっと詳しく説明することにした。


「何というか、あらゆるものに信号がついてる感じだ。青が大丈夫、黄色はそろそろ危ない。赤になると、もうハグレモノになるのが止まらない、ってかんじだ」

「へー」

「まあ、ハグレモノになってしまうと逆にわからなくなるから、今の所使い道があるか微妙なところなんだけどさ」

「いいじゃん、今のままでも十分すごいよ。それにさ」

「それに?」

「リョータの事だから、その力はもっと成長するか、リョータがすっごい上手い使い方思いつくと思う」

「ありがとう」


 アリスの信頼が心地好かった。

 元々そうするつもりだったが、ますますその気になった。

 この能力の上手い活用法を考えようと、俺は思ったのだった。


     ☆


 シクロダンジョン協会、会長室。


 招かれた俺は、会長のセルと向き合っていた。


 座るなり、セルが軽く頭を下げた。


「報告は受けた、サトウ様のおかげでカーボンの危機が解消されたと」

「ああ」

「のみならず、原因も究明したと。あれ以降入り口は閉ざされず開いたままという」

「それはよかった」

「詳細も聞かせてもらった。サトウ様以外解決出来るものはいなかっただろう内容。さすがの一言に尽きる。サトウ様がいなかったらシクロがガタガタになっていたところだ」

「それは言い過ぎだろ」


 俺は苦笑いした。

 何故か俺の信者っぽい感じになってるセルは、言葉がいちいち大げさなところがある。


「いいや」


 が、セルははっきりと首を振った。


「最悪の状況を想像したら、最初に閉じ込められた時、あの冒険者が全滅する可能性もあった」

「それは……そうだな」


 むしろその可能性が非常に高かった。

 俺がこの力(、、、)を手に入れた経緯も考えると、あれは「死ぬまで閉じ込める」類のもの。


 ダンジョンの動きから、そういう意識が感じられた。


「知っての通り今回は☆持ちがたくさんいた。各ファミリーのリーダー格も大勢いた。それが一斉にいなくなると――」

「なるほど、大ごとだ」


 何となく、会社の中の中間管理職が一斉にいなくなった状況を想像した。

 間違いなく大きな混乱を産むだろう。


「それを防いだサトウ様は、文字通りの救世主という訳だ」

「だから言い過ぎ」


 今度ははっきりそう言えた。

 混乱はあるだろうが、それで救世主って呼ばれるほどじゃない。


 セルはやっぱりセル、無駄に「信者」っぽいところがある。


「そこで、サトウ様に一つ相談なのだが」

「相談?」

「カーボンの入り口に看板の設置許可を頂きたい」

「看板?」

「カーボンの禁止事項、サトウ様が解明してくれたルールを公示するための看板だ」

「そんなの、俺に聞かなくても好きに――」


 俺の勘が「待て」とささやいた。


 まさに「そんなの俺に聞かなくても」だ。


 セルがダンジョン協会長なのもそうだが、その設置に俺の許可なんていらない。

 なのに聞いてきた。

 俺の許可を取りに来た。


 言質。


 その言葉が頭をよぎった途端、あるものが頭に浮かび上がった。


「なあ、それはどういう看板だ?」

「……」


 セルは答えず、目をそらした。

 それで俺は確信した。


「また作ったのかお前」

「な、なんのことかわから――」


 焦って、動揺したセルの懐から何かが落ちた。

 ゴトン、と音を立てて床に落ちたのは俺のフィギュア。

 セルがいつも作ってる俺のフィギュアだ。


 俺がカーボンを攻略している所を立体化したものだ。


 それを拾い上げて、じっと見る。

 するとフィギュアの台座に、豆粒大の文字が書かれていた。


「看板小さいよ!」

「じ、実物は等身大にするつもりだ。6分の1スケールだから看板もこの六倍に」

「それでも小さいよ! 契約書の注意事項じゃないんだから。こんなに小さいんじゃ誰も読まないだろ」

「しかしこれ以上大きくするとサトウ様の勇姿の妨げになる」

「本末転倒!」


 まったく、こういう所(、、、、、)がなければ結構立派な人物なんだがなあ……。


「とにかく、像はどうでもいいから、看板はこれの倍――いや三倍は大きくしてくれ」


 今のままじゃ「注意するな」と言わんばかりのサイズだからな。


 セルは渋々ながらそれを受け入れた、これだけ言っとけば大丈夫だろう。


「サトウ様」


 ふと、セルが俺の名を呼んだ。

 何事かと改めて彼を見ると、一変、ものすごく真顔になっているのに驚く。


「ありがとう」


 最後に真顔でのありがとう。

 不意を突かれて、ちょっとずるいと思った。

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[気になる点] 「何というか、あらゆるものに信号がついてる感じだ。青が大丈夫、黄色はそろそろ危ない。赤になると、もうハグレモノになるのが止まらない、ってかんじだ」 青も感じちゃうの?この世のあらゆるも…
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