414.開花
全員で地下一階に戻って、入り口のあるところにやってきた。
そこで待機していた仲間モンスター達が一斉にアリスの肩に乗っかってきた。
仲間モンスター達がアリスに伝えた通り、入り口が消えていた。
「ホントに消えてるね、どういうことなのかな?」
「仮説を立てた、それをまず試そう」
「って事は一回外に出るんだね」
「ああ」
頷き、通常の鉄壁弾で入り口を無理矢理開く。
仲間達だけなら、通常の分で大丈夫だ。
「いったん外に出て入り口をリセットしよう」
「ヨーダさん、イヴちゃんがまだ下にいるです」
「そういえばそうだった。戻ってくる時に見かけなかったけど何処に隠れてるんだ?」
「このままじゃあたし達が出ても入り口もどんないね」
「アリス、イヴを探せるか?」
「うーん、モンスターが消えてるところを探していけば?」
「なるほど」
イヴの気配は感知出来ないが、イヴが居るであろう、モンスターが消えた場所ならばってことか。
「大丈夫よ、そんな遠回りをする必要はないわ」
セレストがアリスに待ったを掛けた。顔には自信が満ちあふれている。
「何か良い方法があるのか?」
「ええ、任せて」
セレストはそう言って、自分の荷物からニンジンを取り出した。
それをそっと地面に落とす。
ニンジン=イヴだからそれをつかって何かをする、ってのはわかったから、その先を黙って見守ったが――セレストはそれ以上何もしなかった。
どういう事だ? と思っていると。
ドドドドドド――イヴが現われた!
ものすごい勢いで走ってきた彼女は、突進の勢いそのままで地面を蹴って、十メートル先からヘッドスライディングをしてきた。
そのまま突っ込んで、ニンジンをひったくるように拾い上げた。
「ねっ」
「いやねっていうか」
「ああっ!? 落としたニンジンをそのまま食べるのはだめなのです」
「大丈夫、ニンジンなら三百秒ルールで」
「三秒もたってなかったけどな!」
セレストがニンジンを落としたというか置いた直後にはもう来ていたぞ。
「っていうか、なんで今ので」
「ニンジンあるところにウサギあり」
「昔似たような台詞聞いたことあるぞ!」
人気シリーズ第三作目の大魔王とか。
「まあまあ、それよりもまずはでるわよ」
イヴに突っ込む俺に代わって、ウサギを召喚したセレストが場をしきった。
俺たちはそれに従って、次々と外に出た。
全員が外に出たことで、入り口が元に戻った。
元に戻ったダンジョンをまた一緒に入った。
イヴはニンジンをかじったままついてきた。
「じゃあさっきと一緒で。アリスだけついてきて」
「りょーかい!」
アリスの仲間モンスター達がまた肩から跳び降りた。
「みんなは入り口を見てて。閉じるような事があれば、閉じる瞬間のところを見てて欲しい」
「わかったわ、何かあるかも知れないものね」
「頑張るです!」
「……」
セレスト、エミリー、イヴにお願いしてから、バナジウムをつれたまま、アリスと一緒にダンジョンの奥に進んだ。
アリスの案内で、エンカウント無しに進んで行く。
「それにしても、エリちゃんって本当怖い物知らずだよね。閉じ込められたときも全然平気だったし」
「人間だけなんだろうな、怖いの」
「そっかー」
「それにダンジョンの中なら更に安心なんじゃないのかな。例え他人のダンジョンでも」
「あっ、それ分かる。あたしも生まれたダンジョンじゃなくてもホッとするし。エリちゃんのダンジョンを屋敷にしてる今が人生で一番幸せかも」
「そうか」
今まで取り立てて気にしたことは無かったが、確かに今の状況はダンジョン生まれるのアリスからしたら天国の様な環境かもしれない。
そんなことを思っていると、地下二階に続く階段にやってきた。
「アリス」
「うん!」
三人で地下二階に降りた。
アリスを見る、首を振られた。
今度は階段を登って、地下一階に戻った。
もう一度見る、やっぱり首を振られた。
そして再び二階に戻ろうとして――
「リョータ!」
一段、階段を降りた瞬間アリスが叫んだ。
「閉じたか」
「うん!」
「やっぱり、『戻るのをやめる』となるってことか」
「戻るのをやめる?」
「便宜上の表現だ。普通、上の階に行くのって帰る時だろ?」
「うん、普通はみんなずっと同じ階にこもるからね」
「だから上の階に行くのは『戻る』」
「あー、うんうん、なんか分かった。たまに『もうちょっとやってこ』って思うし、そういう事だね」
「そういうことだ。よし、みんなに合流してこれを――」
瞬間、景色が変わった。
それまで青白く光っていた天井や壁や地面が一気になくなって、真っ暗な空間になった。
そんな中、車道の一車線程度の道だけが足元に見える。
光っている訳でもなく、だけど真っ暗ななかはっきり見える。
「なんだここは。あっ、大丈夫か」
「……(ぷるぷる)」
アリスはいないが、手をつないでいるバナジウムは一緒だった。
バナジウムは何か怯えているようで、繋いだ手が震えている。
「大丈夫、一緒だから」
「……(こく)」
「とりあえず進んでみよう、ここにいてもしょうがない」
手をつないだまま、道なりに歩き出した。
不思議な感覚だ。
周りには何もない、道も、綺麗に出来すぎていて比較対象にならない。
歩いているが、進んでいるのか進んでないのか感覚が分からなくて、軽く酔いそうになってくる。
バナジウムの手は震えてるままだった。歩きも遅くて、手をつないだまま俺の一歩後ろについてきていた。
痛くならない程度に、出来るだけ強く握ってあげる。
一緒にいる、離さないから。というメッセージをこめながら。
出来るだけ恐怖を取り除いてやりたい。
しばらく歩いていると、ふと、目の前に光が現われた。
「出口みたいだ、もう大丈夫だぞ――」
安心させるために振り向く――瞬間、動きを止めた。
何故かといえば、まずは勘としかいいようがない。勘でものすごい違和感と危険を感じた。
勘で動きが止まった後、頭がその理由を探る。
違和感。
それはバナジウムの震えだった。
バナジウムの恐怖、何故恐怖?
彼女は……人間が怖かったのではないのか?
もちろんこの空間が前世の彼女――エリスロリウムの死に関係している可能性もなくはない。
だが……それは違うと俺の勘が叫んでいた。
「……」
俺は振り向くのをやめて、バナジウムの手を引いたまま進む。
光っているところにやってくると、そこに石像があった。
山ほどの石像、朽ちて壊れているものも多い。
一目見てわかった。
それらは全部、「振り向いた瞬間」の石像だった。
「いやらしい罠だな」
つぶやき、石像のところを通り過ぎる。
不思議な感覚が芽生えた。
なにかを感じる。
それは勘よりも遥かにはっきりした、五感に似た感覚。
例えて言うのなら、肌に熱風が吹いて、熱いから危ない。
そういう、はっきりした五感レベルの感覚だ。
その感覚に誘われるまま進む。そして延々と続く道の上で立ち止まる。
立ち止まること――十数秒。
景色が弾け飛んだ。ガラスのように砕け散った。
「リョータ!」
「……!」
目の前がチカッと光った直後、アリスの声と、バナジウムの焦りが繋いだ手から伝わってきた。
周りを見る、地下二階の階段そば。
そこに、アリスとバナジウムが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「……行ったのは俺だけか」
「なに言ってんの? 大丈夫なのリョータ」
「ああ、大丈夫だ。それよりも」
俺は周りを見回す、キョロキョロ見回した結果、「感覚」が導く方角を指す。
「あっちだよな、三階に続く階段って」
「え? ああうん、そうだけど」
「そうか」
なんとなくアリスの感覚がわかりはじめた瞬間だった。