413.検証
「検証をするには、その場で変化を把握出来る様にしたいな」
「五階にいながら、入り口の様子を把握する、ということね」
セレストが言い、俺が頷いた。
「そういうことだ」
「じゃあそれ、あたしに任せてよ」
名乗りを上げたのはアリスだった。
「いけるのか?」
「うん! あたしとみんな、離れてても心は一つさ!」
アリスがいうと、彼女の仲間モンスターたちは一斉に肩の上で踊り出した。
まるで「俺たちに任せろ」と言わんばかりだ。
「なるほど、じゃあ頼めるかな」
「うん! 変化を見逃さないようにみんな入り口に置いていくね」
「そうしてくれ。エミリー、アリスのガードを頼む」
「はいです!」
「セレストは一緒に行動の再現を頼む」
「ええ、分かったわ」
仲間内で役割の分配が終わって、ネプチューンと別れて、再びカーボンに入った。
まずはアリスとエミリー、セレストの三人がダンジョンの奥へ向かった。
転送部屋のゲートは地下三階にある。
三人はまずそこに行って、一旦屋敷に戻る手はずだ。
「お待たせ」
しばらくして、セレストがゲートで現われた。
俺はセレストに連れられて、一旦屋敷にもどる。
屋敷の転送部屋で、エミリーとアリスが待っていた。
「エミリーとアリスは一階へ。そのまま徒歩で三階まで来てくれ」
「一階にもゲート作っとくのね」
「ああ、頼む。セレストは俺とそのまま三階へ」
「分かったわ」
まずはエミリーとアリスを見送ってから、俺とセレスト、そしてバナジウムと一緒にゲートでカーボンの地下三階へ。
バナジウムのために地下二階を避けたのと、今後のためにすんなり移動できるように地下一階にもゲートを作っておく処置だ。
地下三階に移動して、しばらく待って二人と合流。
回り道したが、ようやく検証スタートだ。
「セレスト。ここはさっきどうだった? 俺がいなかった時」
「えっと……全員がモンスターを一回倒した、かな」
「全員?」
「ええ、全員。私達三人と、今ここにはいないイヴも含めて」
「そういえば俺と入れ替わりにどっか行ったなイヴ」
「まだこの階にいるみたいだよ」
アリスの指摘にちょっと驚く。
「そうなのか?」
「うん、あっちの方に」
「冒険者の気配もわかるのか?」
「うん! モンスター程じゃないけど、イヴちゃんわかりやすいから。さっきからずっと同じ場所にいて動いてないね」
「そっか。じゃあ皆、一回ずつ倒してくれるか?」
「「「……」」」
エミリー、セレスト、アリスの三人は互いを見つめて、複雑そうな表情をした。
どうしたんだろうか、と思ったのだが。
「……わかったわ」
「いいの?」
「一回ずつなら」
「……なるほど」
「わかったです」
何故かちょっと深刻な空気が流れた。
さっきもそうだが、一体この地下三階はどういうモンスターなんだ?
それを図りかねていると、アリスを先頭にして歩き出した。
アリスレーダーでモンスターを探して、こっちからエンカウントしていく。
遭遇したモンスターはセレストを相手に変身を始めて――俺の姿になった。
セレストは糸操作のバイコーンホーンであっさり偽物の俺を瞬殺した。
そして再び歩き出す。
アリスのおかげですぐさま再カウントした。
今度はエミリーが相手の変身――やっぱり俺だった。
エミリーはちらっと俺を見てから、ハンマーをぶん回して偽の俺をぶっつぶした。
「りょーちんつかっちゃうね」
仲間モンスターをおいてきたアリスはそう宣言した。
ほとんど間をおかずにエンカウント、同時にアリスがりょーちんを召喚。
「また俺?」
三度、俺の偽物が現われて、りょーちんがそれを瞬殺した。
「ここってどういう――」
「入り口なんの変化もないって」
食い気味に、アリスが俺の言葉を遮った。
「お、おう? そうか、変化がないのか」
「この階じゃないみたいだね」
「地下四階へ行きましょう」
「お、おう……?」
どことなく緊張気味の三人、ますますなんなんだろうと思ったが、聞ける空気じゃないまま階段にやってきて、地下四階に降りた。
地下四階に降りてきた俺たち。
「うっ……」
さっきの記憶を思い出して、心がちょっと痛くなった。
地下四階のモンスター、ターゲットにした相手の黒歴史に化けてしまうとんでもないヤツ。
「ここも……やらないと……」
「いけないわね」
「そだね」
「頑張るです」
「……」
エミリーはともかく、セレストも黒歴史の洗礼を受けているはずなのだが、嫌がるところが、さっきに比べて表情が明るくなった気がする。
俺たちはアリスの案内で地下四階を回った。
中二病の俺、ポエマーセレスト、魔王エミリー。
それぞれの黒歴史をもう一度順に倒していった。
「どう?」
「まだだね、何も変わってないみたい」
「そうか、じゃあ五階だ」
頷く仲間達と一緒に、今度は五階に降りる。
「うん、やっぱりちょっと違う」
降りてきた途端に感じる、空気の違い。
地下五階と、それまでの階とで微妙に違う空気。
改めて錯覚じゃないと思った。
「もしかして、ここに入ったからか?」
「ちがうね、まだ入り口ひらいてるまま」
「そっか……えっと、さっきはここでどうしたんだっけ?」
「見比べるために階段を行ったり来たりしたはずよ」
「そうだったそうだった、たしかこう――」
「リョータ!」
四階に戻って、更に五階に引き返してきた途端、アリスがものすごい勢いで俺を呼んだ。
「どうした」
「入り口が消えた」
「本当か!?」
「うん! リョータがこっちに戻った瞬間だった」
「って、事は……」
「引き返した、から?」
答えが、見えたような気がした。