411.黒歴史たち
カーボンダンジョン、地下四階。
俺とエミリー、セレストにアリスの四人で降りてきた。
降りてきた俺は、振り向いて上の階を見た。
ネプチューン達三人は向こうに残った。
理由を聞くと、「確かめ合いたい事がある」っていった。
「確かめ合いたい事って何だろ。確かめるならわかるんだけど……」
不思議そうにつぶやくと、何故か仲間達三人が一斉に。
「向こうにも事情があるのです」
「そうよ、深く詮索しない方がいいわ」
「プライバシーの侵害はだめ絶対」
俺に詰め寄る形で言ってきた。
「お、おう」
なぜ三人がこうも必死になるのかが分からない、手をつないでいるバナジウムもきょとんとしている。
「とにかく、あれはもう触れない方向で。それとこれから三階に行く時はソロで」
「そうね、その方がいいわ」
「賛成なのです」
アリスの提案を受け入れるエミリーとセレスト。
それでますます、狐につままれたような気分になってしまう。
カーボン一階の時にイヴに言われたことを思い出す。
ファミリーの皆でダンジョンに潜るためにみんな団体戦闘、パーティーを組んだ時の戦い方を鍛えてきたのに、ソロがいいという主張をみんな受け入れた。
本当によく分からない状況だ。
「……(ぐい)」
「どうしたバナジウム――敵か」
袖を引っ張られて、反対側に視線を向けると、青白いダンジョンの壁からどろっとした感じに滲みでる地下四階のモンスター。
それは俺をターゲットにして、変身を始めた。
「今度はなんだろうな?」
銃を抜いて、身構える。
これまでの経験で変身前に倒してもドロップしない公算が大なので、変身が終わるまで待った。
「……えっ?」
モンスターが変身した姿を見て、俺は一瞬固まってしまった。
全身が黒ずくめの服。随所にベルトやらチェーンやらでコーディネートしてて、腕に包帯、片目を覆う眼帯。
そして、背中に背負う逆さの十字架。
変身したのは――。
「若い頃のヨーダさん――」
「成敗!」
エミリーが言い終えるよりも早く、加速弾を自分に撃って、黒歴史そのものを撃破した。
モンスターが倒れて、てっかてかのなすをドロップした。
「ふぅ……」
「よ、ヨーダさん?」
「どうしたのいきなり」
「いまのってちょっと若いリョータさんだよね――」
「そこまでだ」
俺はセレストに迫り、手のひらで口を塞いだ。
「みんなは何も見なかった、いいね」
口を塞がれたセレストはこくり、と頷いた。
それで手のひらを離してやったが。
「どういうことなのです?」
「さあ、あれどうみても――だよね」
「何かまずいのかしら」
仲間達はひそひそ、モンスターと俺の行動を不思議がっている。
ここはまずい、ちょっと怖い階層なのかも。
さっさと次に行こう――。
「セレストさん、後ろなのです」
「えっ――あっ!」
エミリーに言われて真後ろに振り向くセレスト。
そこに新しいモンスターが現われて、セレストをターゲットに変身を始めていた。
セレストを始め、三人は臨戦態勢に入る。
俺はちょっと悪い予感をしつつも、とりあえず見守る。
変身が終わって、セレストを一回り小さくした、利発そうな女の子だった。
あれ? ここのモンスターって黒歴史を再現するものじゃなかったのか――。
「ぎゃああああ!!」
瞬間、セレストから絶叫が起きた。
糸で操作した無数のバイコーンホーンが幼いセレストに向かっていき、全方向で取り囲んでファイヤボールを一斉射撃した。
モンスターが倒れた――と思いきや、幼いセレストが何か落とした。
一冊のノートだ。
「見ちゃダメええ!!」
更なる絶叫とともに、全てのバイコーンホーンがノートに向かって一斉射撃。
火力の密集度たるや、モンスター本体の時以上だ。
「はあ……はあ……」
「ど、どうしたのです?」
「顔まっかだよ?」
「な、なんでもないの」
二人が心配して、セレストが乾いた笑いでごまかす。
俺は――ピンと来た。
セレストに近づいて、耳元で。
「ポエムかなんか?」
とささやいた。
「――っ!?」
セレストは死ぬほどびっくりした顔で俺に振り向いた。
「なっ……なななな……」
「えっと……さっきの俺も」
「――はっ!」
苦笑いして、頬をひっかきながらいうと、セレストはその事を思い出してハッとした。
「そ、そういうことなのね」
「そういうことみたいだ」
「ここは危険ね、ものすごく危険だわ」
「ああ、さっさと下に行こう」
同調して、先へとすすむ俺とセレスト。
その後ろについて来たエミリーとアリス。
「危険ってどういうことなのです?」
「なんか二人とも必死だったよね」
二人は首をかしげ合っていた。
そのまま四階を抜けて五階に行こうとしたが、そう問屋は卸さないとばかりに、途中でモンスターとエンカウントして、今度はエミリーになった。
落ち着いていればアリスに頼んで安全ルートを教えてもらえたのだが、俺とセレストが先走ったせいでエンカウントした。
だが、それ故に興味をもった。
アイコンタクトをする俺とセレスト。
エミリーの黒歴史。
ファミリーの母、聖母で天使のような。
彼女の黒歴史とはなんだろうか。
そう思い、俺たちは足を止めて見守った。
すると、現われたのは魔王なエミリーだった。
「これ……私なのです?」
エミリー本人は知らない、Gを見た時に変貌する魔王なエミリー。
そいつは某人型汎用決戦兵器の如く、暴走してハンマーをぶん回して、無差別に攻撃を始めた。
「ホントだ、危険だね」
攻撃を躱しつつそんな感想をつぶやくアリス。
いやそういうことじゃないんだ……。