410.みんないっしょ
セレストとバナジウムとの三人で、一旦セレストが開いておいた転送ゲートを使って屋敷に戻ってきた。
「じゃあ、頼むよ」
カーボン三階に行ったことのあるセレストにふる。
バナジウムのため、地下二階を避ける為ちょっとまわりくどいやり方になった。
「……」
「セレスト?」
「ここで待っててくれるかしら」
「ん? どういうこと?」
「私がいって、みんなと地下三階を攻略してから、戻って来てリョータさんを地下四階に連れて行くの」
「なんでそんな事を? それじゃどう考えても、三階から四階にいったあと、四階から三階に戻ってくるってなるから、手間が増えるだろ」
「それはそうなのだけど……」
セレストは何故か口籠もった。
いったいどういう事なんだ?
「分かったわ、行きましょう」
セレストは少し考えてから、小声で「うんこれなら」となにやら決意めいた台詞を吐いてから、転送部屋のゲートを開いた。
いったい、どういう事なんだろうか?
それがよく分からないうちにゲートが開き、俺たち三人は再びダンジョンに戻って来た。
カーボンダンジョン、地下三階。
見た目は地下一階や地下二階とまったく変わらない。
石を積み上げた地下迷宮で、壁や天井、床が青白く光っている。
転送してくるなり、モンスターが現われた。
モンスターはセレストを相手に変身しようとした――。
「インフェルノ・アルティメット!!」
瞬間、セレストの体から爆発的に魔力が膨れ上がって、変身前のモンスターが一瞬にして焼き尽くされた。
それは、今までに見てきたセレストの魔法の中でも、一番高火力――超本気な一撃だった。
「セレスト?」
「何かしら?」
「何かしらって、それだと何もドロップしないぞ」
「いいのよ。今日は稼ぎに来たわけじゃ無いもの」
「いやそうだけど、でも調査だしなおさら――」
「インフェルノ・アルティメット」
俺が話し終えないうちにセレストはまた魔法を唱えた。
俺の背後で何かが炎上した。
いきなりの事でちょっとビクッとして振り向くと、そこで変身前のモンスターが大炎上していた。
「ふう」
「……えっと、説明を」
「さあいきましょう」
説明する気など、さらさらないようだ。
セレストは話を一方的に遮って、スタスタと歩き出した。
「……(グイグイ)」
ちょっと戸惑っていたが、バナジウムが袖を引っ張ってきた。
いかないの? って言われたような気がしたので、訳が分からないが、とりあえずセレストの後についていく事にした。
セレストは何かを隠している。
それは間違いなくここのモンスター――か、ドロップ品についてだ。
そうでもなければドロップ前に倒す必要はない。
それはどちらだろうかと、俺はちょっとだけ気になった。
それを考えながらセレストを追いかけて行く。
すると、カッ、カッ、カッ、とヒールが石畳を鳴らす音が聞こえてきた。
音は徐々にこっちに近づいてきた。
「この声は……あっ」
立ち止まるセレストと俺たち。
曲がり角からイヴが現われた。
イヴはものすごい勢いで駆け込んできて、俺たちの前で急ブレーキを踏んだ。
「わるい、待たせちゃった? みんなは?」
「……」
「イヴ?」
俺を見上げて、何も喋らないイヴ。
そのイヴの顔は何故か、普段見られない赤みが差していた。
「どうしたん――イタッ」
油断して喰らってしまった。
イヴのチョップ、エクスカリバーと呼ばれる手刀。
それがもろにおでこにはいって、結構痛かった。
「低レベルのくせに生意気」
「へ?」
「生意気」
同じ言葉を二度繰り返して、イヴはさらにものすごい勢いで、逃げるように掛け去った。
逃げ出す直前、顔がますます赤くなっていたように見えたが……。
「どうしたんだろ」
「そういうことね」
「え? セレスト原因知ってるのか?」
「……私なにも言ってないわ」
「いやでも……」
……まあ、いっか。
言わないのなら、追求はすまい。
セレストもイヴもちょっと普段と違う。
それはこのカーボン三階のせいなんだろう。
ならばここはさっさと抜けて、四階に向かおう。
「みんなと合流しよう」
「ええ」
頷くセレスト。
バナジウムと手をつないだまま歩き出す。
しばらくして、みんなと合流する――が。
「え?」
戸惑った。
合流した残りの二人、エミリーとアリスは俺の顔を見た途端顔を赤らめていた。
「お帰りなのです……」
「リョータおそいよ……」
顔を赤らめ、口調もいつもにくらべてしっとりしている二人。
はっとして振り向くと、セレストも似たような状況だ。
そして、ちょっと離れたところでネプチューンが何故かニヤニヤしている。
……なんか、深く突っ込まない方がイイかも、と俺は思ったのだった。