409.おそろいの三人
カーボン地下三階。
ここにエミリー、アリス、イヴの三人がやってきた。
上の階から降りてきた三人のうち、エミリーとアリスは周りをきょろきょろと見回し。
「ヨーダさんたちがいないです」
「おっかしいなあ、向こうはすぐに来てても良いはずなんだけど」
「屋敷の方で何かがあったのです?」
「どうなんだろね」
首をかしげあうエミリーとアリス。
彼女達と亮太、セレスト、そしてバナジウムは地下一階で一旦別れた。
理由は地下二階をバナジウムに通らせたくなかったからだ。
だから地下一階で別れて、亮太達はセレストと共に転送ゲートを使って一旦屋敷にもどって、地下三階に飛ぶ事になった。
その際に、アリスの提案で三人は徒歩で地下三階に向かうことになった。
三階で合流する約束だったのだが、転送を使う以上早く来ているはずの亮太達の姿が見あたらない。
「まあでもさ、リョータがいるし、何かあっても平気だよ。あたしらはあたしらで一狩りしとこっか」
「はいです」
亮太への絶対的な信頼もあって、エミリーもアリスも、もとよりイヴも心配はしてなかった。
三人はゆっくりと歩き出して、青白く光るダンジョンの中を進む。
「にしても、エミリーのトラウマ強かったね。あのドラゴン、ガウガウといい勝負だった。それでもエミリーにかなわなかったけど」
「昔出会った時は逃げるしかなかったです」
「あれってやっぱトラウマ」
「……はいです」
「そっかー」
頷くアリス。
「だからヨーダさんが二階にバナジウムちゃんを連れて行きたくないのはすごく納得したです」
「そだね――あっ、また出た」
三人はモンスターとエンカウントした。
エミリーはハンマーを構えて、アリスは仲間モンスターたちが肩から立ち上がった。
エンカウントしたのは上の二つの階と同じモンスター。
「今度もエミリーか」
モンスターが変身する前に、対象者が分かるようになっている。
そこから対象者が「思っている者」に変身する。
変身前は倒しやすいが、ドロップはしないのでまったく意味がない。
三人は臨戦態勢をとりつつ、モンスターが変身しきるのを待った。
「ヨーダさん!?」
「くっ! りょーちん!」
モンスターが化けたのは亮太の姿だった。
ファミリーどころか、今や全冒険者の中でも最強クラスになった佐藤亮太。
アリスは脊髄反射でオールマイトを唱えて、りょーちんを召喚した。
りょーちんは次元の裂け目から出た瞬間、ニセ亮太を一撃で瞬殺した。
「……あれ?」
「低レベル二号、早まった」
「え? あっ」
「そう、ここのモンスターは見た目を化けるけど、オリジナルより弱い。低レベルに化けてても、低レベルよりずっと弱い」
「そっかー、そうだよね、上の階で分かってたことだよね。やっちゃった。一日に一回のりょーちんつかっちゃったよ」
「しょうがないのです、ヨーダさんが相手だと思うと焦るです」
エミリーに慰められて、三人はさらにダンジョンを冒険する。
しばらくしてまたモンスターが出て、今度はアリスを相手に変化した。
モンスターが化けた姿は――。
「またヨーダさんなのです」
「あたしも? まいっか、いけガウガウ」
ガウガウ――マスタードラゴンは本来のサイズに戻って、ニセ亮太をがぶりと頭から一噛み。
弱いとはいえ、ニセ亮太はゼロ距離から銃を連射して抵抗するも、ガウガウが更に口に力を入れると、頭がごりっ、と音をたててかみ砕かれた。
「こっちも低レベル」
「え?」
「さんにんめのヨーダさんなのです!」
振り向くアリスとエミリーが驚く。
イヴが戦っている相手はまたしてもニセ亮太だった。
イヴはニセ亮太をさくっとやっつけた。
手刀が横に一閃、ニセ亮太の首が胴体と泣き別れした。
モンスターがかたづいて、ひとまず平和になったダンジョンのなか。
「あたしたち、全員リョータ?」
「そうみたいなのです」
「どういう相手なんだろ、リーダーだっておもってる人?」
「なるほどです」
「あれ? キミたちだけ?」
聞き覚えのある声とともに、ネプチューンファミリーの三人が姿を現わした。
「彼は?」
「まだ来てないです」
「そっか。にしてもここ、いいところだね」
「どういうこと?」
「それはね――あっ、見てて」
再びモンスターが現われた。
ネプチューンは向かっていって、変化対象になるように自ら近づいた。
モンスターは変化した。
なんと、ランとリル、二人の姿に。
「ふたりなのです!」
「へえ、どういう事?」
「なんかね、一番好きな人に化けるらしいんだ、ここは」
「……」
「……」
エミリーとアリスは言葉を失った、そして頬をそめて、互いをみて微苦笑した。
「そっか……そういうことか」
「納得なのです」
「あれ? でもそれじゃ――」
何かを思い出して、振り向くアリス。
直前までイヴがそこにいたはずなのだが――いなかった。
対象になって、亮太に変化させたイヴの姿がいつの間にか消えていた。
エミリーとアリスは互いを見つめ合って、弾けるように笑いあったのだった。