408.ダンジョン性の一致
カーボン地下一階。
全員で入ったそこに、転送用のゲートがあった。
それを確認した俺はセレストに向かって。
「ありがとう」
といった。
セレストにこれを頼んでおいたのだ。
屋敷から転送ゲートでカーボン一階へ飛ぶ。
そのままゲートを使わずに屋敷に地上ルートで戻って、そのままみんなと一緒にデモンストレーションを兼ねてカーボン入りした。
「言われた通りに退路を確保しておいたわよ。これからどうするの?」
「そうだな……」
ゲートとセレストを見て、背中にある通常の出口を見る。
「みんなで入ったら出口消えるかもしれないって思ったけど、そうでもなかったな」
「そうね」
「とはいえ二度も起きた現象。再現性がある以上、それの究明が急がれる。セレスト、入り口が閉ざされた時、階層を跨ぐことは?」
「出来たわ、私はその時三階にいたもの」
「だよな。なら、ゲートはこのまま、しばらくみんなでカーボンを探索するか」
「ええ」
「みんなもそれでいいか」
「大丈夫なのです!」
「最初からそのつもりだったもんね」
「報酬は前払いでもらってる。ウサギは義理堅い女」
ついて来た仲間達は全員頷いてくれた。
五人プラスバナジウムで、まずは一階を回ることにした。
一階のモンスターとドロップはもう判明しているが、今調べたいのは入り口消失現象だから、ここも改めて調べていくことになった。
次々にモンスターとエンカウントした。
おそらく仲間の誰かに化ける、というモンスターは、大半がエミリーに化けてでた。
「また私だったです」
「エミリーがみんなから信頼されてるって事だろう」
「そういうことなのです?」
「多分な。信頼とか親愛とか、細かく検証する必要はあるだろうが、俺は正のベクトルで思ってる相手の姿に変身する、と思ってる」
「付け加えると、多分力への信頼じゃないわね」
セレストの言葉に頷く。
「そうだな、それなら俺になるはずだ」
「なのです!」
「まあこっちは深く考えなくてもいいだろ。後で入ったことのある冒険者へ聞き込み調査、出てきた相手をどう思ってるか、とかで数を集めれば自ずと判明する」
「そうね、それよりも入り口ね。アリス?」
「まだ空いてるって」
即答したアリス、その肩にいつも乗っかっている仲間モンスターが一体居なくなっている。
スケルトンのホネホネ。
そのホネホネは入り口の所に残って監視している。
仲間モンスターとアリスにはテレパシーのようなものが使えるからと言うことで白羽の矢がたった。
入り口が開いている事を確認して、更に探索をすすめる俺たち。
モンスターは次々と現われるが、俺の出番はなかった。
エミリー、セレスト、アリス。
ほとんどこの三人で倒している。
最初は漠然とみていたが、次第に気づく。
三人のそれはソロの動きじゃない、パーティーでの動きだ。
エミリーとセレストが顕著だった。
片方は体格以上の巨大なハンマーをぶん回す超パワーファイター、片方はとにかく距離をとることを意識した上ででっかい一撃を叩き込む攻撃型魔法使い。
二人とも尖ったタイプだ。
故に、普段の戦い方はそういう弱点を消しつつの動き方になる。
しかし今は違う。
弱点は剥き出しにしたままだ。
その弱点はといえば突かれることもなく、パーティーになったことで相手が自然にフォローしたり、自分も相手の弱点をさりげなくフォローしての立ち回りになっている。
三人のこういう動きは初めてだから、新鮮だった。
「こんなことを練習してたのか」
「ちがう」
「ちがう?」
静かに否定するイヴに目を向けた。
彼女は今、両手に青リンゴで作ったウサギを乗っけて、それを微笑みながら眺めている。
ちなみにドロップも制作もエミリーで、早く食べないともったいないぞ、とおもう逸品だ。
「まだ、ぎこちない」
「そりゃそうだが」
「あれは普段から思ってることをやってるだけ、普段から思ってるからあわせられる、でも最初だからぎこちない」
「なるほど」
「ダンジョン性の一致」
「ん?」
なんか久しぶりに聞いた気がするその言葉。
「みんな低レベルと一緒に回りたい。流れでソロが多くなったけど、心ではそう思ってる」
「……だから普段からパーティーの動きを考えてた、ということか」
イヴは静かにうなずく。
今も戦ってる三人を見る。そうか……。
そうだよなあ、これも楽しいよな。
改めて、イヴの方を見て。
「ありがとうイヴ、おしえてくれて」
「ウサギは義理堅い女」
「そうか」
一歩引いてるが、それでも多分俺よりみんなのことを見ている。
そんなイヴに感謝の気持ちがふつふつと湧いてきた。




