405.捕獲
カーボンの地下一階をぐるぐる回って、モンスターを倒して情報を集めた。
しばらくそうしていると、ふと、俺はあることを思いだした。
「そういえば、カーボンって前にもどこかになかった?」
「ああ、あったよ」
「……やっぱりダンジョンが死んで、別の所に生まれ変わった?」
「死ぬとは限らないけど、調査が必要なのは主に死んだ場合だね」
「どういう事だ?」
「例えばフォスフォラス」
メラメラか。
「ああいう、自分の意志で移動するダンジョンだとね、場所が変わっても何も変わらないけど、ダンジョンが寿命を迎えて死んで、その後生まれ変わる場合はほとんど変わってしまう」
「だから調査が必要なのか」
「そういうこと。なんで変わるのか、情報は少ないけど、今までの精霊付きから得た断片的な情報によると、どうも死因によって変わるらしいんだ」
「どういうこと?」
「飢え死にしたら侵入者をかみ殺すモンスターが多くなったりとか、そう言うのだね」
まるで進化論みたいな話だな、そんなのって……と思ったが、俺のズボンを掴んだままのバナジウムを見た。
そして、今はここにいないニホニウムを思う。
バナジウム――旧エリスロニウムは(多分)理不尽に殺されて、レベル2以上の人間を拒絶した。そしてダンジョンには敵意に対して反応するモンスターばかりになった。
ニホニウムは通常じゃドロップしなくて、ダンジョンマスターはドロップどころかモンスターを消す能力――他のダンジョンにまで影響する能力を持つ。
さらに、死んではないが、俺と知り合った事で、ドロップに「リョー様カード」が増えたプルンブム。
それらを合わせて考えれば、進化論っぽい話はむしろ。
「……正しいと思う」
「へえ。確信してるんだね」
「ああ、もちろん100%って訳じゃないが」
「それ、公言しない方がいいよ」
「なんでだ?」
ネプチューンを見ると、彼は苦笑いしている。
「君の今の影響力だと、それを言った瞬間にみんなが信じて、ダンジョン、そして精霊をいいようにコントロールしよう、と考える人達が出てくるかもしれない。それは大混乱を招く」
「悪用される、ってことか」
「この子が今穏やかでいられるのは、奇跡的に君のそばにいたから。というのでわかるよね?」
ネプチューンはバナジウムを指しながら言った。
バナジウムの事なんて、詳しくは知らないはずなんだが、ダンジョンの生まれ変わりの噂をしっていれば推測が付くんだろう。
「そうだな、わかった誰にも言わない」
「それがいいよ」
ネプチューンは再びニコニコ顔に戻った。
ふと、その背後でリルがなにやら不機嫌そうにしているのが見えた。
「どうしたの……リル?」
俺の視線を追いかけて振り向くネプチューン、同じくリルの表情に気づく。
「どうしたの?」
「な、何でもないわよ」
「そういう顔じゃないよね、あっ、もしかして僕とリョータが仲良くしてるから――」
「ち、違う! これは……そう、むかつくの! あいつのリンゴの方があんたより美味しいから」
「あはは、それはしょうがないね」
リルの明らかないい訳にネプチューンは笑った。
俺がドロップしたリンゴの方が美味しい。
ドロップのステータス次第で、ドロップの質とか量とかが変わる。
ここまで俺もネプチューンもモンスター一体につきドロップ1だったが、俺のドロップの方が甘くて美味しいようだ。
そこはドロップS、ネプチューンのAとは超えられない壁がある。
それを言い訳に使ったリルを、ネプチューンはからかいと見せかけてなだめて、そこにランも加わって三人はイチャイチャしだした。
しばらくそうして、リルの不機嫌が収まった後。
「さて、もう一階分下におりよう」
ネプチューンが提案してきた。
「ああ、種族で揃えてるのか、特性で揃えてるのかが知りたい」
ダンジョンは大抵、何かで「揃ってる」。
大抵はモンスターの種族だ。
例えばテルルのスライムだったり、ニホニウムのアンデッドだったり。
偶に特性で揃えてる所もある。
旧エリスロニウムのデバフだったり。
カーボンはそのどっちになっているのか、もう一階分降りようって提案だ。
俺たちは頷きあって、一緒に地下二階に降りていった。
一階同様、石を積み上げて作られた壁が青白く光っている、そんなダンジョン。
しばらく歩いてると、今度は白い何かが溶け出すような感じで現われた。
白い粘土だか蝋だかのものは、一階のと同じように、徐々に変化していく。
警戒する俺たち、調査なので先制攻撃はしない。
変化するまでじっと待って、現われたのは――
「バイコーン!」
よどんだオーラを放っている二本角の白い馬。
セレンのダンジョンマスター、バイコーンだ。
「まずいね、僕の能力が低下してる」
「あたしもよ」
「私もだよ」
ネプチューンら三人はさっそくバイコーンの特殊能力の影響をうけているようだ。
「リペティション」
一度は倒したモンスター、だからどうかとおもってリペティションを唱えたが、バイコーンにはきかなかった。
「つまり違うモンスター、って事だね」
「そうみたいだ」
バイコーンは天を仰いでいななき、二本角を突き出して突進してきた。
ネプチューンらは揃って左に避けて、俺はつらそうにしてるバナジウムを抱っこして右に跳んだ。
「向こうの性能は?」
「今の突進を見る限りほぼ同等」
「それはやっかいだね」
バイコーンはネプチューンらに狙いを定めた。
リルとランが応戦モードにはいった。
ネプチューン達の合体技、二人が歌って、ネプチューンに力を与えて、大技を放つ攻撃。
デバフが掛かっているが、倒せるだろう。
だが。
「こっちに誘導して」
「何か考えがあるんだね、よし」
リルとランが更に歌う、ネプチューンの背中に白と黒、一対の翼が生えた。
ネプチューンは、さらに突進したバイコーンの二本角を掴んで、こっちに放り投げてきた。
「行ったよ」
「力技すぎる!」
そう言いつつ、俺は飛んでくるバイコーンに向かって鉄壁弾を撃った。
ダブルの鉄壁弾、鉄壁弾よりも遅く、維持力の高い弾丸。
一面のW鉄壁弾で作りあげた網。
バイコーンはそれに掛かって止まった。
W鉄壁弾の特性を完全に信じ切っている俺は、バイコーンがW鉄壁弾に当たったのとほぼ同時に後ろに回り、背後にもW鉄壁弾を撃った。
前後、そして左右。
そこにもW鉄壁弾を撃った。
さらに、隙間を埋めるように、どんどんどんどんW鉄壁弾。
前進もしなくなった鉄壁弾でバイコーンの全身を覆った。
結果、バイコーンは完全に動きを封じられた。
「すごいね、しばらく見ない内にまた新しい技が増えてる」
「……ふん」
「……うぅ」
感嘆するネプチューン。
その一方で、今度はリルだけじゃなくて、ランまでちょっと不機嫌になった。
ネプチューンじゃなくて俺が活躍してるのは気にくわないんだろうな、とすぐに理解した。