398.練習
バナジウムダンジョン、地下一階最奥。
前の屋敷の地下室を模して、生活空間の先に作った、広いだけの何も無い空間。
そこに、俺はバナジウムと二人っきりでいた。
右手に銃を構えて、冷炎弾を打ち出す。
着弾するのを待たずにシリンダーをずらす。
冷炎を打ち出したバナジウム弾がボロッ、と真っ逆さまに落ちる。
あらかじめ持っていた、指の間に火炎弾と冷凍弾をはさんだ左手でアッパー気味にバナジウム弾を下から叩く。
触れた瞬間、火炎弾と冷凍弾が装填された。
下から小突いた勢いで、バナジウム弾は元の軌道のまま上に上昇して、そのままシリンダーに吸い込まれる。
手首のスナップをきかせて、シリンダーを装着、そのまま、引き金を引いて冷炎弾を連射する。
「ふう……一秒弱、ってとこか」
タイマーは無いが、だいたいそんな所だと当たりをつける。
一発しかないバナジウム弾、この先、連射する必要がある場面もきっと出てくるだろう。
通常弾を撃ちきっての全弾再装填は今の半分くらいの時間で出来る。
実戦を考えれば、それと同じ水準の速さになるまで練習したい。
それに……
「命中率もな……」
撃った先で燃え続けている二つの冷炎を見て苦笑いする。
二つはかなり離れている。軽く一メートルは間隔が空いている。
同じ場所に撃ったつもりなんだけど、いくら何でも、これは離れすぎだ。
「実戦だと敵は動くから、なおさらだよな……いや、的が無いからいけないのか? スライムでも出して、的にするか」
そうつぶやいたのとほぼ同時に、ズボンの裾がぐいぐい引っ張られた。
バナジウムだ。
俺のそばで、ズボンの裾を引っ張って見上げてきている。
「どうしたんだ?」
「……(スッ)」
バナジウムは幼い――ちょっとぷにっとしている可愛らしい手を上げて、冷炎弾を撃った方角を指した。
直後、一メートル離れた冷炎弾の間に綿毛が出現した。
空中に浮かんでいる、そこそこの大きさでボール型の綿毛。
バナジウムダンジョンのモンスターだ。
「あれを的にしろってこと?」
「……(こくこく)」
「そうか、ありがとうバナジウム」
お礼を言って、頭をなでなですると、バナジウムは嬉しそうに眼を細めた。
厚意に甘えよう、そう思って銃口を綿毛に突きつけるが。
「……なあバナジウム、あれを少し動かすことって出来るか? こうふわふわっと」
そう言って、左手を使い、ゆらゆら、ふわふわって感じの不規則な動きをやって見せた。
すると、バナジウムはすぐに頷いて、綿毛は俺が要求した通り、空中にふわふわと漂いだした。
完全に不規則な軌道。
強い日光が部屋に差し込んだときに見える空中で舞ってるホコリ。
それとまったく同じの、読めなくてふわふわっとした軌道だ。
「ありがとう! これは嬉しいよ」
感謝の気持ちを込めてさらに頭をなでなで。
バナジウムは手を後ろに組んで、ますます嬉しそうに目を細めた。
ひとしきり撫でた後、銃口を突きつけ照準を定める。
引き金を引く。
バナジウム弾をシリンダーから出して、弾の装填と銃への装填を流れるように行い、照準をつけて撃つ。
「おっ」
今度は当たった。
冷炎弾が二発とも綿毛に当たった。
攻撃力は無いに等しいが、当たれば、燃え続ける冷炎弾。それ故に、二発とも命中したとはっきり観測出来た。
パチパチパチ。
「すっごいね」
「アウルム」
拍手をしながらやってきたのはアウルム。
「もう帰ってきてたのか」
「もう夜だもんね」
バナジウム一階に地下室を作ったのは、彼女とニホニウムのためだ。
ミーケ、そして、その能力をコピーしたバナジウムと違って、アウルムとニホニウムは自力で階層を跨ぐことが出来ない。
屋敷の部屋は全て、「地下一階」に作るようにバナジウムにお願いした。
故に、アウルムはかつての「地下室」に平然と入って来れた。
「今のすごいじゃん。動き格好いいし、ちゃんと当ててるし」
「さっきは外したんだけどな。やっぱり、実戦に近い形じゃないとダメって事か」
「実戦向きの男か、ますます格好いいじゃん」
「ありがとう」
「……(こくこく)」
バナジウムが俺の手を掴んで、首がちぎれるかってくらい首を縦に振った。
私もそう思う。と言わんばかりのジェスチャーだ。
「ありがとう」
「ねえ、もうちょっとやって見せてよ。みんなが帰ってくるまで暇だからさ」
「そうだな。バナジウム、的を頼む」
「……(こくこく)」
アウルムとバナジウムに見守られて、俺は夕飯の時間まで、バナジウム弾の練習に没頭する。
アウルムとバナジウムがやたらとほめてくれるから、良いところを見せたくて――で、かなり上達したと思う。




