384.黒歴史
夜の食堂。
仲間達が次々とサロンに移動していく中、食堂に残った俺。
エミリーが食後の片付けをしていたが、エリがかいがいしく手伝っている。
幼い見た目での手伝いは見てて危なっかしいが、微笑ましくもある。
「なんか本当の親子みたいだよねー」
片付け組以外で唯一、サロンに移動しなかったアリスがそんな事をいってきた。
「見た目は姉妹くらいだけどな」
「ちっちっち、まだまだ甘いねリョータ。心眼だよ、心眼で見ればほら――」
アリスはおもむろに目を閉じて、どや顔で言った。
「仲睦まじい母娘に見えるよ」
「そんな持ってもないスキルで言われても」
俺は苦笑いしたが、アリスは強めに抗議してきた。
「失敬な! ここはダンジョン、エリリンは精霊。目をつむっててもエリリンの姿は見えるもん!」
「そういえばダンジョン生まれのスキルがあったか……って、それでも見えるのエリだけじゃないか」
「……てへっ」
アリスはペ○ちゃん宜しく、片目をつむって舌をぺろっと出した。
「うーん」
「どうした」
「いやね、あっちは母娘に見えるし、エミリーちっちゃいじゃん? なんとなく小さい頃のエミリーの姿が見えてきそうで可愛いなって思った訳よ」
「なるほど。……いつくらいからあのハンマー持てるようになったんだろうな」
「エリリンと同じくらいの時から持ててた気がする」
「……わかりみが深い」
今のエミリー、三歳児くらいの頃からあの100キロを遥かに超えるハンマーをぶん回していたと言われても素直に信じそうだ。
「でね、リョータはどういう子供だったのかなって気になってさ」
「ああ、なるほど」
俺の子供の頃か。
「あまり記憶にないな」
「見た目は?」
「どうだったかなあ……」
思い出そうと試みるが、自分の子供の頃の姿なんて、覚えているようで記憶が曖昧だ。
「うーん、りょーちんでそういうのが出来ないのかな」
りょーちん、オールマイトという召喚魔法。
俺と同じ能力の分身を召喚する魔法で、召喚したヤツの見た目は俺っぽいぬいぐるみなヤツだから、アリスはりょーちんって呼んでる。
「やってみるか?」
「うん、明日ダンジョンでやってみる」
ちなみにそれは一日一回制限、今日はもう使ったんだな。
「あっ」
「今度はどうした」
「モンスターがでた、トイレのあたり」
「モンスター?」
俺とアリスは同時にエリを見た。
エリはかいがいしく手伝いをしているままだ。
エリスロニウムを屋敷に改造した際、普段はモンスターがまったく出ないように、エリが設定している。
出るはずがないのだ。
「ちょっと見てこよう」
「俺も行く」
二人で食堂を出て、トイレに向かって移動。
するとそこに、ふちがギザギザ歯の箱形モンスターがいた。
「タカラバコじゃん」
「珍しいな」
タカラバコ。
この世界において割とイレギュラーな存在。
ダンジョンでも街中でも出現し、倒したら面白いものがドロップする。
この世には無いものとも、倒したものの想い出の品とも言われている。
「倒しちゃう?」
「ああ、家の中だし野放しにはしておけない」
俺は手を突き出し、「リペティション」と唱えた。
一度倒した事のあるモンスターを即死させる魔法。
前にも数回倒したことのあるタカラバコは何も出来ずに即死した。
ポン、と何かがドロップして、地面におちた。
「本?」
首をかしげつつ、ドロップしたものに向かっていくアリス。
それを拾い上げ、ぱらぱらめくると。
「なんだろこれ、いろんな絵があるよ」
「どれどれ……って、卒アルじゃないか」
「卒アル?」
「卒業アルバムの略だ。しかもこれ……俺の小学生の頃の」
開いたそのページだけで分かった。
「えっと……つまり? リョータの何?」
「子供の頃の想い出だよ」
写真も分からないアリスに、ざっくりと説明してやった。
「へえ……あれ?」
「今度はどうした」
「これ、もしかしてリョータの子供の頃?」
「…………」
俺は口を閉ざしてしまった。
認めたくなかった。
そこに写っている小学生は、ストローを三本繋いで長くしたものを剣に見立てて、なんかそれっぽいポーズをとっている。
その上手のひらに何か紋章っぽいものが手書きで書かれている。
黒歴史だ。
ヤバイタイプの黒歴史だ。
「いやこれは――」
「そっかリョータの子供の頃か」
「いや違うぞ、これは――」
「みんなー、リョータの子供の頃おもしろいよー」
アリスは卒アルをもって、サロンに向かって駆け出した。
「ちょっまっ! それはダメだ! 返してくれ」
「りょーちん!」
アリスは振り向きざま、オールマイトを使った。
ぬいぐるみっぽくデフォルメされた俺が空間の裂け目から召喚される。
「ちょっ! もう使ったんじゃないのか!?」
「そんな事言ってないもーん、さっき使ったらもったいないだけだもーん」
「くっ!」
りょーちんは俺に向かって来た、俺はりょーちんをぬけてアリスを止めようとしたが……だめだった。
りょーちんと俺の能力は「まったくの同じ」だったからだ。
それ故抜けることも出来ず、召喚時間いっぱい足止めを喰らってしまった後、おそるおそるサロンに近づくと。
「あははははは」
「何これ、かわいー」
「リョータさん……こんな時があったんだ……」
アリスが持ち込んだ卒アルで、仲間達が盛り上がっていた。
盛り上がる材料は……あの卒アルに山ほどある。
くっ、そんなものがドロップするなんて。
つぎにまたタカラバコが出たら慎重に、と、俺は心に決めたのだった。