382.鬼に金棒
「それが本当ならすごい事だぞ。ちょっと試してみたいな」
「水の魔法を使える人に協力をお願いするです」
「そうだな、いきなりモンスター相手は危険だ。しかし水の魔法か……」
知り合いにいたかな……と思っていると。
「それなら任せて!」
それまで通訳に徹していたアリスがいきなり名乗りを上げた。
「任せてって、どういうことだ? アリスはそんな魔法使えないだろ?」
「ふふん、あたしじゃない、うちのガウガウがやるんだ」
「ガウガウ?」
アリスの肩に乗っている仲間モンスターの一体、ガウガウ。
ビスマスダンジョンの最下層に、一度に一体しか存在しないという、通常モンスターにして限り無くレアモンスターに近い存在。
そのガウガウが、アリスの指示に呼応して大きくなった。
巨大なドラゴン――しかしフォルムは可愛らしいまま。
ものすごくでっかいドラゴンのぬいぐるみ、そんな感じの見た目に戻った。
「やっちゃっていい?」
「はいです」
エミリーはそういい、ガウガウと相対し、他の人間を巻き込まないような位置に移動した。
直後、ガウガウが口を開く。
口のすぐ前に魔法陣が出来て、流体的な水の矢が数本、エミリーに向かって飛んでいった。
エミリーは防御も回避もしなかった。
水の矢はエミリーにあたり――はじけ飛んだ。
矢は貫くどころか、エミリーの体はまったく濡れもしなかった。
「もっとガツンといっていいよ、ガウガウ」
ガウガウは小さく頷き、今度は体の前に二つの魔法陣を作った。
同時に放った魔法は、エミリーの足元と頭の上から同時に水柱を作って、上下に押しつぶすように迫った。
巨大な歯がかみつぶすイメージの水柱は、同じように当って弾けとんた。
そんな中、やはりダメージはなく、濡れてもいないエミリー。
「おお、すごいな」
「はいです……」
エミリー自身も驚いている。
「よし、それなら奥の手だ。行っちゃえガウガウ」
アリスが指示した直後、ガウガウの足元に巨大な魔法陣が出現。
ただでさえ巨大なガウガウ、その巨体よりも大きく、玄関ホールを丸ごと覆い尽くす巨大な魔法陣。
直後、どこからともなく津波が現われて、エミリーを襲った。
圧倒的な水量とプレッシャーの中、エミリーは逆にびっくりしてる顔で、元の位置に佇んでいた。
水が引いた後、俺はしがみつくエリを連れて、アリスと一緒にエミリーに近づいた。
「すごいな、完全に無効化してる。身体も全然濡れてないよな」
「はいです、全然濡れてないです」
「完全無効化だといろいろ便利だよね」
「そうだな」
エミリーは元々、戦闘においては良くも悪くもパワー一本槍だ。
それは最大の長所であるが、当然短所でもある。
パワーしかない冒険者がいけるダンジョンは当然少ない、エミリーは今、主にアルセニックで活動している。
しかし、水属性が完全に無効化されるスキルがあるのなら、活動範囲が広がるはず。
そのエミリーは、何故か首をかしげて考え込んでいる。
「どうしたエミリー、何か気がかりなのか?」
「はいです……エリちゃん」
エミリーはその場でしゃがみ込んで、エリと視線の高さを合わせる。
「これじゃなくて別の能力じゃダメなのです?」
「え?」
声を上げたのは誰でもない俺だった。
正直……意外だ。
エミリーがこういうことを言い出すなんて。
彼女がもらった物に対して注文をつけるのはかなり意外な事だ。
俺同様エリも困っている、いや若干泣きそうか?
その気持ちは手に取るようにわかる。
エミリー空間に感動して、自分の手持ちから能力を与えたのに、エミリーはそれにチェンジを言い出した。
今のエリの精神年齢なら泣きたくなるのも分かる。
「どういうのが欲しいんだ」
なるべく角が立たないように、まずはそう聞いてみた。
「エリちゃんのお水が欲しいです」
「水?」
「はいです。エリちゃんのダンジョンで出るお水なのです」
「……?」
エリは困惑して、手のひらを上向きにして差し出した。
そこに水が現われた。
流体の水なのに、空中で一つの個体のようにまとまっている。
「ちょっと待つのです」
エミリーはそれを受け取った。
不思議な力が働いてるのか、水はエリの手元を離れても崩れることなく、エミリーはそれを持ち去った。
パタパタと駆け去るエミリーを見送る俺たち。
「どうしたんだろエミリー」
「さあ、その水で何かをするのか?」
しばらくして、エミリーが戻ってきた。
ワゴンを押していて、その上に湯気が立ち上る鍋がある。
鍋の中身を同じように持ってきた器によそってから、俺たちに差し出す。
「これは……もやしスープ」
「なのです、ちょっと飲んでみるのです」
どういう意図なのか分からないが、エミリーのスープは美味しいから飲んでみよう。
そう思って口をつけた俺――途端にかっと目が見開いた。
「う、うまい!」
「はいです」
「今までで一番うまい! はっきりと分かるぞ」
「だよね! すっごい美味しいよね!」
「……(こくこく!)」
アリスもそしてなんとエリも、二人とも俺と同じように目を見開かせてびっくりしていた。
「どういう事だ?」
「さっきエリちゃんから飲ませてもらったときに思ったです、エリちゃんのお水、そのまま飲むと普通ですけど、料理にすごく合うお水なのです」
「料理に使った方が力を発揮出来るって事か」
「はいです!」
「驚いたな……そういうのがあるのは分かるんだが、こうも違うのか」
感嘆しつつ、もう一度もやしスープに口をつける。
うん、やっぱり違う。
二口目だから驚きは薄れたが、それでもものすごく美味しかった。
「エリちゃんの力ならこの水をいつでも使えるようにしたいです」
「だね! あたしからもお願い――というかメラメラ!」
アリスはメラメラにもスープを飲ませてから、エリの前に突き出した。
「説得ゴー!」
メラメラはものすごい勢いで体の炎の勢いが増減した。
ボゥッ! ボゥッ! ボゥッ!
何かを力説しているかのようだ。
すごいな、精霊にも伝わるおいしさ――って、そもそもエリ自身が味の違いにびっくりしてるか。
説得に参加しないホネホネとかぷるぷるとかは一斉に鍋に群がった。
「お願いなのです」
エミリーが更に頼み込むと、エリは驚きつつも、こくりと頷いた。
手をかざして、無効化の能力を授けた時同様に、水を作ってエミリーに差し出した。
エミリーがそれを飲み干すと。
「ありがとうなのです!」
と、エリに抱きついた。
エリは困惑しつつも避けなかった。
こうして、意外な展開を持って、我が家の食事のグレードがワンランク上がった。
それで皆が更に飛躍を遂げ、年間の稼ぎも更にワンランク上になっていくのだった。
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