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380.家族会議

「と言うわけで、俺はこれからエリスロニウムの中に住もうかって思ってる」


 夜のサロン、仲間達が集まった所に、みんなの前ではっきりと宣言した。


 めいめいにくつろぎ、夜の楽しい時間を過ごしていたみんなは、そろって固まって、言葉を失った。


 そんな中、アリスが真っ先に我に返り。


「エリスロニウムって、庭のあれ? 住めるの?」

「ああ、エリに協力してもらって屋敷そっくりに作って――」

「みんな行くよ。メラメラはエリエリを連行!」


 話を最後まで聞かずに、アリスはサロンから飛び出した。

 俺の膝の上に乗っかっていたエリは、飛んできたメラメラに体当たりで背中を押されてついていった。


 戸惑いはあるが抵抗とか怯えがないのは、メラメラは自分と同じ精霊。

 精霊フォスフォラスだからなんだろうな。


「にしてもノリノリだなアリス。話を最後まで聞かないで飛び出してったぞ」

「ダンジョン生まれだからね。ダンジョンはインドールよりも故郷って感じなんじゃん?」


 俺のつぶやきに反応したのはアウルムだった。

 性格とか普段のテンションとかが近しい事もあって、二人はまるでコンビのような、いい関係性を保っている。


「そっか、そうだったなアリスは」

「他のみんなもダンジョンの方が落ち着くのかもね」

「ふむ。メラメラもそうなのかな。精霊なのに他の精霊のダンジョンは他人ん家って感じなんじゃ?」

「うーん」


 アウルムは腕を組み、少し考えた。


「それでも普通の家よりはいいよ。なんだろ、人間で言うと普通の宿と高級な宿、って感じ?」

「なるほど、それなら分かる。アウルムは移るのか?」

「あたしはエミリー次第。ニホニウムもそうだよね」

「……ええ」


 ためらいがちに、しかしはっきりと頷いたニホニウム。


「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」

「恥ずかしがる? どういうことだ?」


 アウルムとニホニウムを交互に見る。

 からかうアウルムと、そのからかい通りに恥ずかしそうにしてるニホニウム。


「エミリーママの空間が心地よすぎて、自分ち(ダンジョン)以上に心地よくなっちゃってるって事」

「そ、そんなことは……ありません、よ?」

「あはは、なんだ。そんなのしょうがないことじゃないか」

「ねー」


 恥ずかしがるニホニウム、笑い合うアウルム。

 精霊をも虜にする、エミリー空間の不思議な力の凄まじさを再認識させられた。


「まっ、そういうわけだから、あたしらはエミリー次第」

「そっか。エミリーはどうする?」


 振り向き、お茶を淹れてるエミリーに話を向ける。


 エミリーの前にあるテーブルに置かれているのは、まるでシルバ○アファミリーのような、庭園のミニチュアのような茶番だ。


 茶器を温める湯が高い所から段々流しで低い所に流れていくのは見ていて楽しくて、アリスが見つけてきたもので、エミリーがそれにお茶を淹れてるときに仲間のモンスターがウォータースライダー的に楽しむのが最近のトレンドだ。


 それに掛かっていたエミリーに水を向けると、彼女は顔をあげ、にこりと微笑んで。


「私はヨーダさんと一緒にいくです」

「いいのか」

「はいです。ヨーダさんに誘われたときから、ずっと一緒にって決めてるです」


 穏やかに微笑むエミリー。


 誘われたのはむしろこっちだが、とは、あえて言わなかった。


「じゃああたしらもそっち」

「よろしくお願いします」

「あの……私は……」


 アウルムとニホニウムが立て続けに表明する。

 ここ最近ずっとニホニウムにくっついてるサクヤがおそるおそる聞いてきた。


「もちろん。ニホニウムと一緒の部屋がいいのならそれでもいいし、エリはほぼ無限に部屋つくれるっていうから、別でもいいし」

「ありがとうございます!」


「セレストは?」

「もちろん行くわ」

「即答だな」

「断る理由がないもの。それよりも今度こそ家賃をはらった方がいいわよね。聞いたわよ。エリスロニウムの借地代、年間十五億ピロなのよね」

「まあ、それは気にするな」

「でも――」

「まじめねえ」


 セレストの背後からイーナがしなだれかかった。

 耳元でふー、と吹きかけて、セレストは「ひゃあ」とやたら可愛い悲鳴を上げた。


「な、ななな……」


 飛びのいて、耳をおさえて、顔を真っ赤にしてイーナを見るセレスト。


「あらかわいい」

「こら、からかわないのイーナ」


 親友のエルザがイーナをたしなめる。


「からかってないわよ。むしろ忠告。こういう時男のプライドに恥をかかせちゃダメなのよ。ねっ」


 イーナはそう言って、俺にウインクを飛ばしてきた。


「男のプライドを主張する気はないが、エリは俺が責任持ってなんとかしたいと思ってる」

「そのために年間十五億?」

「ああ」

「ちょっと前まで縁もゆかりもなかったのに?」

「そんなの関係ないよ」

「ねっ」


 イーナは何故か急に方向転換して、セレストに同意を求めた。


 耳元で息を吹きかけられて顔を赤くしていたセレストだったが。


「そうね」


 すっかり落ち着いて、静かにうなずいた。

 なんで急に落ち着いたのかはよく分からないが、納得したのならそれでいい。


「エルザとイーナは?」

「わ、私達もいいのですか?」

「条件が一つ」

「なに?」

「この子の部屋を、あなたの部屋のそばに」

「イーナ!?」

「俺の? そりゃ……エルザがいいのなら別にいいけど」

「もちろんいいわよ、ねっ」

「う、うん……」


 うつむき、頬をそめるエルザ。


「じゃ、じゃあ反対側は私でいいわね」


 そこにセレストが参戦してきた。

 なんで俺の隣なんだろう。


 まいっか。


「よし、これで全員同意したし。あっちに引っ越すことにする」

「しかしとんでもないよね」


 アウルムが突然何か言い出した。


「うん?」

「ダンジョンに住むってだけでもすごいのに、精霊が四人も一緒だもん。もうこうなったらプルンブムも連れて来たら?」

「聞いてみるよ。彼女は断るだろうが」


 ぐいぐい。


 袖を引っ張られた。

 エリが戻ってきたのか? と思ってみたらエリじゃなくてイヴだった。

 外着のバニースーツじゃなくて、部屋着のウサギの着ぐるみ姿だ。


「どうした」

「ウサギは同意してない」

「ニンジンはあっちに運び込むから」

「ならばよし」


 イヴはすぐに引き下がった。

 あまりのわかりやすさに、その場にいた全員がどっと沸いた。

 笑い声が、今日もサロンにこだましていた。

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