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379.家賃一億ピロ

「リペティション!」


 エリスロニウムダンジョン、地下二階。

 玄関ホールから降りてすぐの所で、綿毛のハグレモノをリペティションで瞬殺。


 綿毛が弾けて光になって、フロア全体を包んだ。


『ダンジョンと階層を指定してください』

「おっ、いけたか」


 屋敷の転送部屋に初めて入った時と同じ声が聞こえた。

 転送部屋のアナウンスの声だ。


 リジェクトクリスタルの特性を再現したはいいが、ちゃんと転送部屋になるのか若干不安だった。

 けど、どうやらいけるみたいだ。


「とりあえず飛んでみよう。エリ、行きたい所は?」

「……(ぷるぷる)」


 エリは首を振って、俺の足に顔を埋める勢いでしがみついてきた。


「離れるんじゃないよ。一緒に行こうって話だ」

「……」


 ほっとしてしがみつくのをやめたが、代わりに首をかしげた。

 考えたが、思いつかなかったって顔をしている。


「じゃあ俺が決めるよ。別にどこだっていいんだ。テストだからな」


 とりあえずテルルにでも行くか。

 そう思い、テルル地下一階を指定したのだが。


「あれ? なにも起きない」


 屋敷の転送部屋だと指定すると光の渦がすぐに出たんだが、こっちはまったく反応がなかった。


『ダンジョンと階層を指定してください』


 代わりに同じ声がもう一度聞こえただけだった。


 なんだろう、条件とかが違うのか?


 試しに色々と、他のダンジョンを指定してみた。

 シリコン、アルセニック、セレン、アウルム、ニホニウム――


 片っ端からダンジョンを指定してみたが、うんともすんとも言わなかった。


 やっぱりダメなのか、と思っていたら、エリスロニウム一階と指定した瞬間、屋敷の方のと同じ転送ゲートが現われた。

 見た目は同じ光の渦。


「なんでエリスロニウムだけ? ……エレベータ代わり?」


 そう思いながらとりあえず渦に入ってみた。

 すると一つ上の階、屋敷の玄関ホールになっているエリスロニウム一階にもどってきた。


 転送はとりあえず機能しているみたいだが。


「……エリ、エリの部屋、精霊の部屋は今でも存在しているか?」

「……(こくこく)」

「よし」


 光の渦に飛び込んで、地下二階に戻ってきた。


『ダンジョンと階層を指定してください』

「エリスロニウム、精霊の部屋」


 ……。

 …………。


 反応はなかった。


「エリ、ちょっとだけ地下三階を作ってくれるか?」

「……(こくこく)」


 エリは俺のズボンを掴んだまま、しゃがんで地面に触れた。

 ドン! と言う感触が地面伝いに伝わってきた瞬間、下に続く階段が現われた。


「ありがとう――エリスロニウム地下三階へ」


 エリの頭を撫でながら、部屋に転送の目的地を指定。

 さっきと同じように、反応しなかった。


 これではっきりした――が念のために確認。


 下に降りて、すぐに戻ってきて、転送部屋に地下三階と指定。

 今度はゲートがちゃんと現われてくれた。


「やっぱりそうか。単に新しくブックマークをしろって事だな」


 直前にいたエリスロニウムの地下一階にはいけた。

 他のダンジョンも、エリスロニウムの精霊の部屋も三階もいけなかったけど、三階に一旦足を踏み入れてすぐに戻ってきたら使えた。


 転送先のブックマークを、一からやり直せってだけの話みたいだ。

 そういうことなら――問題は解決したと言っていいだろう。


     ☆


 転送部屋が出来たから、ひとまずはここまでにしようとダンジョンを出たら、ちょうど訪ねてきたセルと出くわした。


 夕暮れの中、セルは屋敷の方にいこうとしたが、俺の姿を見つけてこっちにやってきた。


「ダンジョンの攻略か、サトウ様」


 俺にしがみついている――セルが出現したことでちょっと怯えて背中に隠れてしまったエリをちらっとみて、聞いてきた。


「いや、リフォーム、って言えばいいのかな」

「リフォーム?」


 セルにざっくりと現状を説明した。

 屋敷の部屋が一杯になったことと、エリスロニウムダンジョンをそのかわりにできないかと試している事をまとめて説明した。


 それを黙って聞いていたセルだったが、微妙そうな顔をした。


「どうした」

「サトウ様の報告で冒険者が入らないようになってはいるが、ダンジョンは街の持ち物だ」


 ギュッ!


 セルの言葉を聞いて、エリのしがみついてくる力が強くなった。


「それを私物化されるのは少し困る」

「なるほど」

「それに、サトウ様達が常時出入りしていると、他の冒険者が何かあるのかと気になって入るようになることも――」

「エリには俺が認めた人間以外は入れない」


 セルの言葉を遮った。

 エリの怯えと拒絶。


 俺はそれを全部知っている。

 エリがそれを吹っ切るまで下手な奴らを入れるわけには行かない。


「むぅ」

「そのためなら何でもする」

「……であれば、ダンジョンのリースと言う形を取るしかない」

「リース?」

「ダンジョン協会、つまり街の立場からすれば税金を取れるかどうかが問題」

「ああ」

「そのダンジョンの、見込み分の税金を払えば、貸し出しという形で期間中は独占できる」

「なるほど、むしろ確定分は何があってももらえるから街は助かるまである、だな」


 セルははっきりと頷いた。


 例えばシリコン。

 あそこは魔力嵐次第で生産量がはっきり変わる。

 見込み分の税金をはじき出しても、魔力嵐が多ければ実際の税金はそれを下回る。


 ダンジョンと冒険者はもっといろんな変動する要因で複雑に絡んでいる。

 ダンジョン協会としてはこういう形もありか。


「ただ、エリスロニウムの年間見込みは15億になる――」

「出す」


 俺は即答した。

 迷いなく、セルを見つめて即答した。


「……さすがサトウ様だ。この額を即答だとは」

「金の問題じゃないからな」

「分かった、ではそのように手続きしよう」


 セルはそう言って、きびすを返して立ち去った。


 それを見送ってると、エリからぎゅ、っとより強くしがみつかれた。


 下を向くと、見あげてくるエリの目とあった。

 エリは目をうるうるさせてから、またまた、俺の足に顔を埋めてきた。


 ありがとう。


 そう言われた気がした。


 そんなエリの頭を撫でてやった。

 年間15億、月で1億ちょっとか。


 家賃にはちょっと高いけど、エリが安心するのなら全然ありだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何もドロップしないエリダンジョンに年間15億見込みの根拠がまったくわからない
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