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377.精霊の秘密基地

 自分のホームグラウンドだからか、それとも俺を感じられているからか。

 エリは俺の手を離して、玄関口からとことこと走って行き、何もない壁の前に立った。


 ぷにっとした小さな手で壁に触れたと思ったら、そこにドアが出来た。


 エリはまたトコトコと戻ってきて、俺の手を掴んで、ドアの方に引っ張っていった。

 ドアの前に辿り着いて。


「開ければ良いのか?」

「……(こくこく)」


 言われたとおりにドアを開けてみた。

 すると――びっくりした。


 中は俺の部屋だった。

 屋敷にある、俺の部屋とそっくりだ。

 間取りも調度品も、まったく一緒。


 違うのは……空気。


 なんというか、住み慣れた部屋に漂っている自分の臭いというのがある。

 帰宅した直後に意識にのぼるが、部屋に戻ってしばらくすると感じることすらもなくなる、あの空気だ。


 あれがないから、ここは非常に良くできた、俺の部屋とは違う別物だと分かる。


「これ、エリが今作ったのか?」

「……(こくこく)」

「すごいな……他もつくれるのか?」

「……(こくこく)」


 エリは頷いて、空いてる壁の所に行って、また手で軽く触れて、ドアをつくった。


 入る前から分かる、これはサロンのドアだ。


 ドアを開けて入ってみると、やっぱりあのサロン。

 仲間達が集まって、くつろぐあのサロンだ。


「すごいな……ダンジョンの中に屋敷のような空間。まるで秘密基地か隠れ家だ」


 秘密基地、そして隠れ家。

 その言葉を口にした瞬間、わくわくがますます膨れ上がった。


「なあエリ、このサロンの場所を移せるか?」

「……(こくこく)」


 エリは何故か嬉しそうに頷いて、俺の部屋の右にあるサロンのドアを消して、左の方に移した。

 ドアを開けると中はちゃんとサロンしてる、入ることも出来る。


「すごいぞエリ」

「……(にこっ)」


 エリは嬉しそうに笑って、俺の指を掴んで、今度は俺の部屋に入った。


 俺をベッドの上に座らせ、自分は俺の膝の上に座る。

 次の瞬間、空いたままにしてるドアの所にものすごいたくさんのモンスターがあらわれた。

 あの、敵意に反応して自爆する綿毛だ。


「ますます秘密基地か隠れ家っぽいな。ああそうか」


 俺はエリを見た。

 俺の膝の上に乗っているエリは、俺を見あげて、何か期待してる顔をしてる。


「喜ばせたいんじゃなくて、むしろここに引っ越してきて欲しいのか」

「……(こく)」


 頷くエリ。

 そりゃ……そうだよな。


 俺のそばにいると安心感を覚えるエリ。

 その前は、このダンジョンが自分を守る砦だったのだ。


 俺が本拠をここに移せば、エリは二重に安心できるって事だ。


 まさにwin-winの関係。

 だったら、部屋も一杯一杯になってきてるし、こっちに移ってこようかな。


 そうなると問題は一つ……転送部屋だ。

 同じ敷地内にあるから、転送部屋だけあっちの使えばいい、といえばそれでいいのかもしれないけど。


 俺は昔実際にあったことをおもいだした。

 タブレットが流行り出したとき、通信機能が無くて安いものを買った。

 通信するときはスマホからテザリング――通信を共有すればいい、と思ったからだ。


 それは普段問題なかったが、電子機器を常に二つ持ち歩かないといけないことと、両方のバッテリーに気を配らないといけないことと、何より通信が出来るまで二つ三つくらい手順が増えること。


 それらが重なって、段々不便になって、結局タブレット自体使わなくなった。


 これも一緒だ。

 転送部屋は、出来ればこっちに持ってきた方がいい。


 重要な所だけ残して、出来るだけ手順は減らしたい。


「エリは、転送部屋を作れるか?」

「……(ぷるぷる)」

「なるほど」


 ダンジョンの中は自由に変えられるが、ダンジョンの外に影響を及ぼすものはダメだって事か。

 まあ、そうだな。


 だったら――。


     ☆


 シクロの街、なじみの不動産屋。

 久しぶりにここを訪ねた俺は、アントニオに来た理由を打ち明けた。


「なるほど……」

「あれはどういう物なのかわからないか?」

「実はですね、あの後調べたのです。サトウ様から話を聞いて」

「ほう」

「すると、前の持ち主がそのような機能にした痕跡はありませんでした」

「なに?」

「そもそも……」


 アントニオは難しい顔をした。


「あの様なもの……まったくの初耳で。世の中に存在していません」

「……なるほど」


 確かにそうだ。

 こっちの世界に転移して結構経つが、他に転送部屋があるという話は聞いた事もない。


 そもそも、それがあればもっと精霊と人間の距離が近くなってるはずだ。

 だとしたらなぜ?

 なぜあの転送部屋が?


「サトウ様が入居する前後で何か変化が起きたのだとしたら」

「俺が入る前と後……」


 あごに手をあてて、考えた。

 あの時に何があったのかを思いだしてみる。


 侵入者を拒む屋敷に、クズ弾とエミリーの協力で――。


「リジェクトクリスタル!」


 あの時、侵入を拒む原因となったリジェクトクリスタル。


「あれってモンスターだよな」

「ええ、ハグレモノです」


 ……ってことは。

 リジェクトクリスタルのハグレモノ。


 その、ドロップ品?

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