374.いつでもそばに
テルルダンジョン、地下一階。
魔法カートを押しながら進んでいく俺のそばに、エリがぴったりくっついてくる。
トコトコと歩いてついてくる姿は、様々な攻撃が飛びかい、モンスターが生まれてはやられていくダンジョンに似つかわしくない可愛らしいものだった。
いきなり奇襲を受けた!
目の前からスライムが産まれて、こっちに飛びかかってくる。
「――ッ!」
エリがビクッとして、俺の足にしがみついてきた。
反応速度にまったくの余裕がある。
銃を抜いて成長弾で撃ち抜く。
スライムが倒れて、もやしが大量にドロップされた。
「大丈夫、俺がいるから」
「……(ニコッ)」
エリは俺の足にしがみついたまま、見あげながら心底ほっとした笑顔を浮かべた。
そんなエリの頭をポンポン撫でてやりながら。
「せっかくドロップしたから拾っていこう」
そういってもやしに近づく。
通常スライム程度なら魔法カートの上に誘導して、倒したらドロップしたもやしがそのままカートに入るようにする。
エリを守りながらも、100%危害が及ばないでもそれが出来る。
だがやらなかった。
攻撃が長引けばそれだけエリが怯えるから。
怯えないように、とにかく最速で倒した結果、最近ではすっかりなくなった、ドロップがダンジョンの地面に広がってる結果になった。
それを拾おうとすると、エリが俺の足から離れ、もやしにむかっていった。
それをひろって、子供の体にはやや多すぎるくらいのもやしを抱いて、トコトコと戻ってくる。
「……」
無言でそれを俺に差し出す。
「ありがとう」
お礼を言って、また頭をなでる。
エリはすごくうれしそうにした。
こうしてるとただの子供にしか見えない。
エリから受け取ったもやしを魔法カートに入れて、再び歩き出す。
下へ、二階に続く所にやってきて、エリを見る。
「下行くよ」
「……(こく)」
頷くエリとともに、一緒に下に向かった。
テルルダンジョン、二階。
我が家のキャロットジャンキーが死神の如く出没している階層に降りてきた。
エリは無事だった、何も起きなかった。
「階層もまたげたか。いや、ミーケなしでここにいる時点で分かってはいたが」
ミーケからコピーした能力はちゃんと働いている。
ちなみにやっぱり「コピー」だ。
ミーケは俺たちがここに来る前に、ちゃんとユニークモンスターでついた能力が残ってることを確認して、お礼をいって、ニホニウムの所に返した。
それとまったく同じ能力がエリについてる。
自分を守る為に能力をコピーした。
「すごいな」
「……?」
何の事なのかよく分からないって感じのエリ。
きょとんと俺を見あげてきた。
俺は頭の中で色々考えた。
エリの能力、というべきなのだろうか。自分を守る為に自分を変える能力。
ユニークモンスター・リョータの村に様々なモンスターがいて、いろんな能力がある。
エリが使えそうなのは何かないかと考える。
考えながら、飛んできた眠りスライムを倒して、ニンジンをカートに入れて、クセでボタンを押す。
ドロップ品がエルザ達の所、『金のなる木』に転送された。
「……」
エリがそれを見て驚いた。
「そういえば転送ははじめて見たか?」
「……(こくこく)」
「これはものを一瞬でエルザ達の所におくれる機能だ」
そう言って、もう一回やって見せた。
今度はポーチを装備して、遠く離れた所にいる眠りスライムを銃で撃ち抜く。
ポーチが取り寄せたニンジンを魔法カートに入れて、再びボタンを押す。
カートの中のニンジンが消え、転送された。
「これでエルザ達の所にいったんだ」
「……」
エリはそれをじっと見つめた。
興味津々に見つめてどうしたんだ? ――と思っていたら。
エリの体がひかった、魔法カートも光った。
ミーケの時と一緒だ。
能力のコピー。
魔法カートからの光がエリの体の中に収まった。
「ものをとばしたいのか?」
「……(ぷるぷる)」
エリは首を振った。
そのままおっかなびっくりに俺から離れた――かと思えば次の瞬間足にしがみついていた。
瞬間移動で俺の所に戻ってきて、足にしがみついた。
「瞬間移動……いや」
言いかけて、違うと思った。
エリはあくまで――
「もしかして、一瞬で俺の所に戻ってこれるだけの能力?」
「……(こくこく)」
しがみついたまま、可愛らしく頷くエリ。
ブレないし、ある意味すごいなと思った。




