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369.幼女の怯え

「えっと……」


 これまでも色々あったが、さすがにこの状況には頭が一瞬止まった。


 俺にしがみついてる女の子はパッと見て、幼稚園の年少くらいの子だ。

 髪がそこそこ長くて体に被さっているので一見してわかりつらいが、ワンピースを着ている。


 今にもはだしで草原を駆けだしそうな元気な無邪気な子だ、というイメージを持った。


 その子のそばにたまごの殻が落ちていた。

 昨日保護して、肌身離さずに持っていようと思ったエリスロニウムのたまごだ。


 たまごはまん中から真っ二つに割れている。

 普通たまごをわったら内側にネバネバとかがのこるもんだが、このたまごはそれが無くて、内側も綺麗だった。


 状況的にこの子がたまごを割って中から出てきた……のだろうが、今一つ受け止めきれないのが現状だ。


「どうしたもんかな……」

「ん……」


 つぶやいたときに身じろいだせいなのか、女の子は声を漏らして、徐々に目を開けた。

 やがてきょろ、きょろと周りを見回した後、視線が俺にがっちり吸い寄せられ。


「……っ」


 ぎゅっ、と俺にしがみついてきた。

 かなり強くしがみつかれた、ねている時以上だ。


 しがみつきの強さから、怯えとか恐怖とかいろいろ感じる。

 ああ、この子は間違いなくエリスロニウムだな、と俺は確信した。


     ☆


「おはようなのです――その子は誰なのです?」


 部屋を出て、いいにおいに誘われて食堂にやってくると、隣接しているキッチンに朝ご飯を作っているエミリーがいた。

 顔だけ振り向いたエミリーだったが、俺の足の後ろに隠れているエリスロニウムに気づいて、手をとめて完全に振り向いてきた。


「こういうことらしいんだ」


 俺は持ってきたたまごの殻を差し出した。

 エリスロニウムのたまご、昨夜仲間全員が目にしてたたまご。


 それが真っ二つに割れているのを見て。


「精霊さんなのです?」

「状況的にはそうだと思う。俺的に確信してはいるが、一応アウルムやニホニウム達に確認してもらいたいな」

「ニホニウムさんはもう出かけたです、最近サクヤさんとすごくなかよしさんなのです」

「そうなのか?」


 一緒にいる場面はよく見かけるが、記憶にはぼんやりと、ニホニウムが不機嫌そうな所しか残ってない。


「はいです、すごくすごく仲良しさんなのです」

「なるほど。エミリーがそう言うのならそうだろうな」


 それはそうと。


「アウルムは?」

「アウルムさんももうダンジョン行ってるです。ミーケちゃんは一人しかいないから、ニホニウムさんたちよりも先に行かないとダメなのです」

「そっか、ニホニウム達はダンジョンの中を動き回るけど、アウルムは精霊の部屋にずっといるだけ。ミーケがアウルムを送ってからニホニウムにべったりくっつく形になるもんな」

「はいです!」

「となると後はメラメラか」


 ダンジョンに連れて行く、のはだめだな。


 女の子がエリスロニウム本人だと確信している、精霊本人なら、ミーケなしにダンジョンや階層の境界線を跨げば消滅する。


 メラメラに頼むか、夜まで待つかするか。


「やっほー、おっはよー!」


 そうこうしているうちに、アリスが食堂の中に入ってきた。

 朝一番なのにもかかわらず、アリスはいつもの様にハイテンションだ。


 そのハイテンションに怯えたのか、女の子が俺にしがみついてきた。


「大丈夫」


 俺はできるだけ優しい声色で。

 年少の子、しかも怯えている子を安心させるため、限界まで優しくした声で話しかけ、優しく頭を撫でた。


「あのお姉ちゃんは悪い人じゃないよ」


 女の子は更に俺につよくしがみつき、顔を太ももに埋めつつ、プルプルと頭をふった。

 体が小刻みに震えている。

 よっぽど……いやな目にあったんだな。


「大丈夫。俺がそばにいるから」


 アプローチを変えてみた。

 俺にしがみついてるって事は、俺なら大丈夫って事だ。


 だから俺はいると、頭を撫でて、背中を優しくポンポン叩いた。


「……」


 今度は効いたみたいだ。

 女の子は俺にしがみついたまま、震えが止まった、ゆっくりと見あげてきた。


 穏やかな笑顔を作る、すると女の子も少しだけほっとしたようだ。


 さて、こうも怯えるのならアリスにはちょっと控えてもらわないとな。


「まだみんな起きてきてないんだ。エミリー一人?」

「え?」


 すぐ横に俺がいるのに、おかしな事を言い出すアリスに思わず眉をひそめた。

 が、おかしな事になったのはアリスだけじゃなかった。


「ヨーダさんもいたです……どこに行ったです?」


 エミリーも不思議そうな顔で周りをきょろきょろした。


 むしろ俺がびっくりしている。

 俺とエミリー、そしてアリスの距離は二メートルと離れていない。

 一歩踏み込めば手が届く距離だ。


 なのに、エミリーもアリスも俺の事が見つからない様子で周りをきょろきょろしている。


 その時のことだった。

 安心したのか、女の子がしがみつくのをやめて、そっと離れて、さっきまでと同じ俺の後ろに隠れてるだけになった。


「ひゃっ」

「うわっ! な、なにそれリョータ。どこに隠れてたの?」


 エミリーとアリス、二人して盛大にびっくりして俺を見た。


 二人がびっくりして大声を出したせいで、女の子もびっくりして、また俺にしがみついた。


「ヨーダさん?」

「消えた? どこに行ったの?」


 二人はまたまた、周りをきょろきょろ見まわして俺を探した。


 俺が見えなくなった二人、さっきも同じ状況になってた。

 その時と今、共通しているのは女の子にしがみつかれている事。


「……まさか」


 怯え、そして拒絶。

 エリスロニウムが今まで見せていたもので考えれば充分にあり得ると思った。


 俺にしがみついてるときだけ、二人とも誰からも見えないようだ。


「……」


 いや、アリスの肩に触ったが、気づかれてない。

 もっと、すごいものなのかもしれなかった。

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