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367.絶対に守る

 ゾクッ。


 震え上がる程の殺気が俺の全身を貫いていった。

 殺気の方に振り向くと、そこに一人の女がいた。


 いや、女だったもの、と言った方が正しいだろう。


 足はなく、全身が半透明。

 ところどころ黒い瘴気の様なものが漏れ出している。


 何より、乱れた長い前髪からちらっと見える目は濁りに濁っていて。


「う、う、うあぁぁ……」


 口から漏れ出るのも、獣の様なうめき声。


 幽霊、しかも怨霊か?

 そういう感じの相手に見えた。


「あんたがエリスロニウムか?」

「うぅ……?」


 苦しそうに呻く女幽霊。

 ぐるり――と首がねじのように横に360度の一回転。


 人体では決してあり得ない動きをした後、濁った両目がこっちを捉えた。


 俺を認識したか? ――と思った次の瞬間。


「ああ"あ"あ"あ""!!」


 喉の奥から搾り出すようなうなり声と共に両手をガバッと開いて、俺に飛びかかってくる。


「くっ!」


 とっさに真横に飛んで、その勢いのまま床をコロコロ転がって距離を取った。


「待て、話を聞いてくれ!」

「うああああああ!!」


 声を掛ける、それ自体がトリガーとでも言うかのように、幽霊が更に苦しみ、叫び、飛びかかってくる。


 掴んでくる両手を受け止めて、反撃――。


「――っ!」


 直前に思いとどまって、腕をひねって相手のバランスを崩して、抜け出すだけに留めておいた。


 反撃、出来なかった。

 殺されたエリスロニウム。

 極端なまでに人間を排除しようてする、意地悪続きのダンジョン。

 そして、精霊の部屋にいる怨霊。


 哀しみ、怒り。

 それらの感情が今までの様々な事に現われて、理解するのは難しくなかった。

 だから、反撃出来なかった。

 これ以上彼女に何かをするのは忍びなかった。


 三度、飛びかかってくる怨霊。

 再び、ガッチリと組み合う。

 そして、肩を噛みつかれる。


「くぅっ!」


 彼女の鋭い牙が肩の肉にめり込んだ瞬間、かつてない程の痛みが全身を突き抜けていった。


 肉に穴を開け、神経に直接指を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回すほど、苦しみ悶える痛み。

 ステータスを一切合切無視した、防御をすべて貫通してダイレクトに「痛み」だけを流し込むような痛さ。

 なんとなく、そういう状況だから一方的な思い込みかもしれないけど。


 これが、彼女の痛みのような気がした。


 だから。


「もう、大丈夫だ」


 噛みつかれ、獣の様に首を振って牙が肉をえぐる中、俺は彼女の後ろ頭に手を回し、そっと触れるように重ねた。


「俺は敵じゃない、あんたにひどいことは絶対にしない。……絶対に」


 言葉は、届かなかった。

 彼女はなおも俺に噛みついたまま、肉を噛みちぎろうと首を振る。


「……」


 が、行動が伝わったのか。

 無抵抗を続ける俺、次第に彼女の動きもゆっくりになって、やがて止まり、口が徐々に俺から離れる。


 かみつきから、キスが出来そうな至近距離で見つめ合う。

 彼女の目に、理性の光が戻った。


『ほんと……?』

「ああ、本当だ」

『ほんとうに……ほんと?』


 まるで子供だ。

 傷ついて、部屋の隅っこで縮こまっている子供。

 そんな彼女に、俺は真っ直ぐ目をのぞき込んで、迷いなくきっぱりと言い放った。


「本当だ。何もしない、絶対に」


 彼女と見つめ合う。

 いや、見つめられた。

 ぽかーん、と見つめられる。


 言葉を失って、ただただ俺を見つめる。


 やがて、なみだが流れた。


 ポカーンとした顔のまま、なみだが両目から滝の如く流れ出した。


 決壊。

 そんな言葉が頭の中に浮かび上がった。


 さっきとはまた違う意味で、全身が粟立った。

 まだ、泣き叫ばれた(、、、、)方がよっぽどいい。


 呆然としたまま滝のような涙。

 彼女の身に一体なにがあったのか、何をされたのか。

 それを考えるだけで全身が粟立った。


『まもって』

「ああ、守る」

『まも、って』


 同じ言葉を繰り返す彼女。

 無表情で涙を流しながら、幽霊のような体が更に薄くなっていく。


 徐々に、徐々に。

 薄くなっていき――やがて消えた。


 そして彼女が消えたそこに、それまでにはなかった卵が残っていた。

 手のひらにぎりぎり載る、トイレットペーパーくらいの大きな卵。


 それを拾い上げて、大事に両手で抱えながら。


「何があっても、絶対に守るよ」


 俺は、無人になった精霊の部屋で、誓うようにつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダンジョンが殺されるって この世界だとおかしいんじゃないの?初期は寿命で食い物にステアップの種たべさせてたし ドロップsでものにかえてつれだしたし
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