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363.レベル1で最強だけど入場出来る

 アウルムの部屋から屋敷に戻って、庭に出た。


「ヨーダさん!」

「低レベル、来た」


 庭にいたエミリーとイヴが同時に俺に振り向いた。

 エミリーは困った顔だが、イヴはいつもの我関せずって感じの表情でニンジンをかじっている。


 そして二人の向こうに、地下へ続くダンジョンの入り口があった。


 何も知らなければ、広大な屋敷の庭に作ったかまくらのようにも見える。

 しかしそれは紛れもなくダンジョン。


 この世界において何よりも大事で、あらゆるものを産出するダンジョンの入り口だ。


「エリスロニウムのダンジョン……」

「えっ!?」


 驚くエミリー。

 昨日の夜、セルに頼んだ後一通り仲間達に事情を説明しているから、エミリーも「殺された精霊エリスロニウム」という事を知っている。


「これがそうなのです?」

「アウルムがそう言ってた。精霊同士の感知、間違いないらしい」

「なるほど……」

「で、中はどんな感じなんだ?」

「それが……」

「入れなかった」

「え?」


 驚いて、答えたエミリーとイヴを交互に見比べた。


「最初はダンジョンって知らなくてどうなってるのか確認するために入ろうとしたです、でも見えない壁があるみたいで全然入れないです」


 エミリーはそう言って、ダンジョンの入り口に向かっていく。

 入り口の所から先に進めず、まるでパントマイムのような、見えない壁を触れている様な動きになった。


「ウサギもだめだった」


 今度はイヴ、エミリーのそばに言って、チョップを振り下ろす。

 ものすごい遅い――つまりほぼほぼ全力のチョップだ。

 それは爆音と衝撃波をまき散らしたが、エミリー同様見えない壁に阻まれた。


「それほどの攻撃でも抜けられないのか」

「拒絶を感じます」


 背後からの声に振り向く。


 そこにはニホニウムとミーケ、そしてサクヤの三人。

 最近行動をよく一緒にするようになったニホニウム組の三人だ。


 まるで極妻のようなポジションと振る舞いで二人をつれて現われるニホニウム。


「拒絶ってどういうことだ?」

「ダンジョン、いいえ精霊の意志を強く感じます。怯えから来る拒絶」

「……」


 私には分かる、という副音声が聞こえたような気がして、俺はそれ以上突っ込んだ話をしなかった。

 ニホニウムだからこそ分かるのだろう、そしてニホニウムだからこそそれがわかって、日中なのにダンジョンを離れてここに来たんだろう。


 彼女も「意志と拒絶」から、ダンジョンマスターにドロップ消失という能力を持たせた。

 そういう感情がよく分かるのだろう。


 それを納得したのは、俺は真実を知っているから。

 エリスロニウムが直前に殺されたという真実を。


 殺されて、新生したのはいいが、それが怯えになって、人間のダンジョン立ち入りを拒む。


 当たり前のつながり方で、俺はあっさり納得した。


「とは言え」

「うん?」

「完全に拒絶は不可能です。何かの条件を満たせば入れる、最低でもそれくらいしかできません」

「そういうものなのか?」


 ニホニウムははっきりと頷いた。


「年に一日だけ入場出来る。考え得る限りもっとも厳しい条件です」

「なるほどな」


 精霊であっても完全に人間の入場を拒むことは出来ないのか。

 人間とダンジョン――精霊。

 この世界における両者の関係性はまだまだ知らないことが多くて、少しだけ興味をもった。


 俺はダンジョンの入り口に近づく。


 入れないのならそれでいいのだが、エリスロニウムが殺されたという理不尽を知った、助けてっていう空耳かもしれないが声が聞こえた。


 最低でも、入場条件は把握しておきたい。


 そう思い、エミリーとイヴが通れなかった、見えない壁に触れてみた。


 そこにあると思っていたものがない――という意外性にやられた。


 「スカッ」って音が聞こえてくる位盛大に手が空を切って、つんのめって転びかけた。

 一歩踏み出して、踏みとどまる。


「ええっ!?」


 エミリーの声が聞こえた。

 振り向くとダンジョンの外(、、、、、、、)で驚いている彼女が見えた。

 そして俺は、ダンジョンの中にいる。


「入れた……」

「どうやったです?」

「いや普通に、エミリー入ってみて」

「ハイです……入れないです」

「さっきとまったく同じだな」


 エミリーはやっぱり入れなかった、壁に阻まれて、エミリーのパワーでも一歩たりとも前に進めない。


 俺はダンジョンの外に出た、普通に出られた。

 もう一度入った、普通に入れた。


 出たり、入ったりした。

 反復横跳びのように、ダンジョンの入り口の境目を出たり入ったりした。


 俺はまったく問題なく出入り出来る。


「低レベル、生意気」

「あてっ!」


 外に出た俺にチョップをかましてくるイヴ、ちょっと不機嫌だ。


 自分が入れないからの腹いせだが――。


「えっ?」

「どうしたです?」

「イヴ、今なんて言った?」

「低レベルに謝罪とニンジンを要求する」

「せめて言った言葉でボケろよ!」


 盛大に突っ込んだ。

 が、それでも良かった。


 イヴが言った言葉――低レベル。


 彼女と出会ってから何百何千回と聞いてきたなじみの言葉。


 低レベル――レベル1。


 殺された……怯え……拒絶……低レベル。


「レベル制限ダンジョンか?」


 エリスロニウムの入場制限。

 口に出すと、それしかあり得ないって思うくらい、しっくり来るものだった。

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