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361.オンリーワン

 夜、その日の仕事が終わった後の、屋敷のサロン。

 俺は腕組みして、頭を悩ませていた。


「どうしたですかヨーダさん」

「エミリー」


 おかわりのお茶を出してくれたエミリーが、トレイを胸に抱えたまま聞いてきた。

 ちょうどいい、相談に乗ってもらおう、と、俺は彼女に打ち明けた。


「実は、セルからもらったミノタウロスの人形を使い切ったんだ。このままじゃ他の階層の品種改良が出来ない」

「セルさんに頼んでまた分けてもらうってダメですか? 悪いことじゃないです、セルさんもヨーダさんに喜んで協力するです」

「そうだろうな、それに――」


 俺は周りを見回して、苦笑いした。


「これを口に出してる段階で、次の瞬間セルがやってきそうだ」

「はいです」

「だが」


 セルが来ないように、俺は先手を打った。


「頼りすぎるのは良くない。ダンジョンに潜ってる時と同じ、それには頼らず、自分の力でどこまでやれるのかを試してみてからだ」

「なるほどなのです」


 直前までなら、セルがいつ現われてもおかしくなかったが、こう言ってしまえば彼は控える。


 俺のファンらしい一面があるセル、だからこそ俺が考えて動きたいと明言すれば見守りモードに入ってくれる。


 今回も彼に頼めばあっさり追加の人形を用意してもらってあっさりカタがつくんだが、脳死で同じことを繰り返してるといざって時頭が回らなくなるから、まずは考えた。


「カルシウムさんに頼むのはどうなのです?」

「カルシウムに?」

「はいです。ニホニウムさんと同じ、自在にダンジョンマスターを出せるはずなのです、精霊さんは」

「なるほど……その都度頼むか――いや」


 言いかけて、ひらめく。

 頭の中にある光景がよぎる。


「ありがとうエミリー、いけそうだ」

「はいです!」


 エミリーは穏やかな、一家の母のような穏やかな笑顔で頷いてくれた。


     ☆


 翌日、カルシウムの部屋。


 転送部屋を使って、飛んできたおれとイヴ。

 俺たちを見て、ちょっと意外そうに驚くカルシウム。


「すごいー、本当に普通に来れるんだー。すごい人だねー」


 カルシウムは驚き、心底感心したって顔をした。


「今日は頼みがあってきたんだ」

「頼みー?」


 ああ、と頷いてから。


「彼女にもう一つ力を授けて欲しい、ダンジョンのモンスターを自由に呼び出せる能力を。出来るかな」


 単刀直入に、と要望を彼女に告げた。


 ダンジョンのモンスターを自在に呼び出す。

 本命はダンジョンマスターだが、普通のモンスターも自由に呼び出せる方がいいと、そっちでお願いした。


 カルシウムは俺をじっと見つめた。

 少しの間、何かを考えてから。


「うん、いいよー」

「本当か?」

「私のお願い、一つ聞いてくれたら」

「何でもいってくれ」


 当たり前の展開だ。

 俺も、ただで言うことを聞いてもらおうだなんて虫のいいことを考えちゃいない。

 等価交換で代わりに何かをする、っていうのは予想していたことだ。


「もうちょっとねー、私と他のみんなを違う様にして欲しいなー」

「他のみんなって……他の精霊とってことか?」

「というかダンジョンだねー」

「なるほど」


 頷く俺、話は分かった。

 もともと、イヴが精霊付きになった・認められたのも、カルシウムを他のダンジョンと違う(、、)風にしたからだ。


 世界で唯一、ドロップステータス的に全種類がある事が気に入って、カルシウムは俺のお願いを聞いて、イヴを精霊付きにした。


 今回もまた同じことだ。


 他と違う存在になりたい、か。

 ずいぶんと人間くさい精霊だなと思った。


「どうかなー、出来るかなー」

「ニンジンを好きになればいい。ニンジンだけを食べる精霊でオンリーワン」

「うん、イヴはちょっと黙ってようかな」


 いうと、イヴは唇を尖らせてチョップをしてきたが、痛くない(、、、、)ので好きな様にさせた。


 俺は考えた、少し考えた結果。


「ちょっと待ってくれ、ある人連れてくる」

「わかったー」


 転送ゲートをつかって屋敷に戻って、そのまま街に出た。


 ある意味唯一ゲートを使えないダンジョン。

 いや、事実上使えないダンジョン。


 サルファ、シクロに現われた比較的新しいダンジョンだ。


 入ると冒険者ごとに隔離される為、転送ゲートでピンポイントに飛べない。

 そのサルファ、シクロ郊外にやってきて、ダンジョンの前で少し待った。


 冒険者が次々と出てくる。

 一周ごとに強制的に一回排出される仕組みのダンジョンだ。

 冒険者はでてきては、またダンジョンに入る。


 それを見守りながら少し待ってると。


「あれ? リョータじゃん?」


 俺が待っていた、仲間のアリスがダンジョンから出てきた。

 アリス・ワンダーランド。

 フォスフォラスという精霊付きの名前も持っている、俺の仲間。


 本人は最高レベルが2で戦闘能力はほとんどなく、もっぱら肩に乗ってる仲間モンスターに戦わせるサモナー。


 ダンジョンに入るたびにレベルが1になることを強制するサルファの影響を事実上受けなくて相性がいいから、ここに籠もってることが多い。


「どうしたの、なんかあった?」

「アリスに頼みがあるんだ」

「なんでもいって!」


 アリスは嬉しそうに即答した。


 俺はカルシウムとのやりとりを話した。


「で、アリスに――正確にはフォスフォラスに頼みたい。あそこに常駐してもらえないかな」

「メラメラに?」

「ああ、精霊が二人、それも常にいるダンジョン、オンリーワンだろ」

「なるほど!」


 納得したアリス。

 肩から仲間のメラメラ、人魂みたいな見た目の精霊フォスフォラスを手のひらに載せて、顔の前に持ってきた。


「どうかなメラメラ」

「――」


 人魂が揺れて、アリスが「うんうん」と頷く。

 第三者には分からない、二人の間の会話が成立してるようだ。


「そっかぁ……メラメラ、あたしと離れたくないって」

「なるほど」

「あたしがずっとカルシウムの所にいればいいのかな」

「それもどうかと思う」


 イヴにダンジョンマスターを自在に呼び出せるようにするために、アリスをずっと精霊部屋に閉じ込めておく。

 それならセルにたのんで人形を回数分用意してもらった方がいい。


「夜だけならいいけどね」

「うん?」

「ほら、あたしの部屋をカルシウムの部屋にするとか。夜はあそこで寝れば、とかでさ」

「……ふむ」


 それはありかも知れない。

 問題はカルシウムが納得するかだが――。


     ☆


「やったー」


 話をすると、カルシウムは緩い口調のまま眼を細めて喜んだ。


「いいのか? 夜寝るときだけだけど」

「うん、それでもオンリーワンなのは変わらないからー」

「そうか」


 それでいいのか、って気持ちもあるが、本人が嬉しそうなのだからいいんだろう。


「これからよろしくね」

「よろしくー」


 楽しそうに向き合うアリスとカルシウム、そして人魂状態で脈打つメラメラ(フォスフォラス)

 そのうちカルシウムもアリスの仲間になりそうな気がする、名前がボインボインとか。


 ……ないか。


 俺がそんなしょうもないことを考えていたところに、カルシウムから話しかけてきた。


「それじゃあ、力を授けるねー。はい、これでダンジョンの中なら、いつでもどこでもどんなモンスターでも呼び出せるよー」

「どうかなイヴ」

「くくく」


 イヴは口を押さえて、珍しくみるあくどい顔で笑った。


「ど、どうした」

「ウサギ、力を感じる。これでいつでもあの草食動物の面汚しを呼び出していじめることが出来る」

「お、おう。まあ呼び出せるのならそれでいい」


 これでカルシウムの件はほぼ解決した。


 自由に呼び出せるのなら、各階の属性変更をイヴが問題なくやれる、その後の調整も俺が問題なくやれる。


 カルシウムの件は、ほぼ解決したも同然だ。


「「「――ッ!」」」


 瞬間、その場にいる全員が血相を変えた。


 ずーん!


 名状しがたい、初めて感じる変な感じが全身を襲った。


「なんだ、これは」

「うわ、ぞわっとするよ、気持ち悪いよ」

「……」


 俺とアリス、そしてイヴ。

 三人はきつく眉をひそめた。


「あらー」


 一方、困った顔をしているのは同じだが、比較的表情と反応が緩いカルシウム。


「しんだねー、ううん、ころされたね-」

「死んだ? 殺された?」

「そうだよー」

「だれが?」

「エリスロニウムだねー」

「……精霊か?」


 頷くカルシウム。


 殺された精霊。

 俺たちの知らないところで、何かとんでもないことが起きているようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の話の流れに持っていきたかったのは分かったけど、最初は何故「強制ドロップ弾」で増殖させないのだろう?と思った。 そしたらエルザやイーナにも「アブソリュートロックの石」と併せて持っておいて…
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