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358.一石二鳥

 翌朝、ハセミの街、「金のなる木」オープン予定地。


 大工達がオープンに向けて店舗を改装しているそこに、俺はイヴを連れてやってきた。


「それじゃ、頼むよ」

「任せる、ウサギは義理堅い女」


 イヴはそう言って、その場で能力を使った。

 カルシウムの精霊付き、二頭身の分身体を十四体出す能力。


 イヴの本体と十四の分身は、改装を進めている店舗の前に座り、全員が一斉にニンジンを食べ出した。

 胃袋が十四倍(厳密には分身は小さいから十四でもないんだけど)で、同時にニンジンを食べる事ができるイヴはものすごく幸せそうな顔をしている。


「お、おい、あれ見ろよ」

「顔が同じな女の子……?」

「ひいふうみい……十四、十四って!?」


 改装を進める大工を始め、通りすがりの街の人が次々とイヴの姿を見て、驚いた。


「まさかミノタウロスの?」

「ああ、十四はそういうことだ」

「俺聞いたことがある、ダンジョンの精霊に認められるとダンジョンゆかりの能力が使えるって」

「ってことは……精霊使い!?」


 遠くで見守っている俺の予想通りに理解が進んだ。


「カルシウムの精霊付きなのか……?」

「あれ、リョータファミリーのキャロットジャンキーだぜ」

「え? って事はこの店の関係者か?」

「アウルムにカルシウム……二つのダンジョンに認められた店って事か」


 完全に予想通りに噂が広まっていった。


 イヴに頼んで、しばらくここに「いるだけ」にしてもらった。

 カルシウムの精霊付き、それが分かる様に、店の前で分身を出し続けてもらう。


 これも信用作りだ。

 アウルムの黄金像と同じ、新しい買い取り屋「金のなる木」の信用度を上げるための策だ。


 それをイヴに頼むと――


「ウサギはダンジョンで頑張る」


 と最初は断られそうになったが、この信用度作りが今一番大事だというと引き下がってくれた。

 ついでにここにいる時はニンジンを好きなだけ提供するっていったらかなり意気込んでやってくれた。


 分身を一旦消して、分身イヴの腹具合をリセットして、また分身だしてニンジンを食べ始めるイヴ。


 噂が広まった後、噂しか聞いてない後から集まってきた野次馬達も、イヴの能力を実際に目の当たりにした。


 イヴを見る、周りの野次馬を見る。


「……」


 これなら予想通りにいけそうだと、俺は静かにその場を後にした。


     ☆


 夕方、シクロの屋敷。


 エルザと買い取り屋オープンの段取りを詰めていると、イヴが転送部屋経由で帰ってきた。


「ウサギかえった」

「お疲れ。大丈夫だった?」

「問題ない。ウサギは義理堅い女。変なの襲って来たけど頭スイカ割りした」

「えっ? イヴちゃんを襲う人がいたの!?」


 驚くエルザ。

 そういえばイヴと初めて会った時もエルザは驚いてたっけな。


 有名なキリングラビット、キャロットジャンキー。

 イヴの異名を初めて聞いたのもエルザの口からだっけな。


「どうして襲われたの?」

「知らない。ウサギ、ニンジンの一つもドロップしない相手に興味ない」

「多分ランドルが放った手の者だろうな」

「え?」


 今度はこっちを見たエルザ。

 さっきよりも更に驚いた目を俺に向けてくる。


「ランドルって……ハセミの買い取り屋の?」

「ああ」

「その手の者って……」

「暗殺って所だな」

「……あっ」


 驚きが少し収まって、得心顔のエルザ。

 彼女がこんなにすぐに理解、そして納得するって事は。

 あの手の、あのレベルの妨害は買い取り屋界隈ではよくあることなんだろうな。


 それもそのはず、この世界のあらゆる物はダンジョンからドロップされる。

 そしてダンジョンからドロップを生産した冒険者が最初に持ち込むのが買い取り屋だ。


 いわば、買い取り屋はこの世界の利権のほとんどを握っている。


「こういうことは普通にあるし、ランドルの恨みがすごかった。妨害してくるのは確実だから、イヴにあそこにいてもらった」

「イヴちゃんに?」

「イヴがあそこでカルシウムの能力を使えば、まず『金のなる木』に箔がつくし、襲ってくる邪魔者も退治できる」

「すごい! 一石二鳥ですね」


 頷く俺。

 これで、ランドルも諦めるか心を入れ替えてくれるといいんだがな……無理かなあ。

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