355.セレストからエルザまで
夜、屋敷のサロン。
カルシウムのルールを解明した俺は、イヴと次に向けての打ち合わせをしていた。
「まずは種別変更、それをやってから、俺がその種別の中でくり返し変更させていく。この種別変更はイヴにやってもらう」
「ウサギに任せる」
やる気のイヴ。
今回の彼女はずっとそれだ。
正直言えば種別変更はオールF、つまりFファイナルのセレストの方が調整しやすいが、イヴがやりたいと強く願っている以上任せることにした。
「悪いなセレスト、呼び出しといてあそこだけってのは」
「あら、私に悪いと思う必要はどこにもないのでは?」
「え?」
「頼まれなかっただけで、私の日常は何も変わらないもの」
にこりと、そしてイタズラっぽく微笑むセレスト。
言われてみればそれはそうだ。
「悪い、変な勘違いしてた」
その事には謝罪する、セレストはまたにこりと微笑んでくれた。
「さて、問題は種別――というか何に変えていくかなんだが」
「それなら大丈夫だと思うわ」
「どうしてだ?」
「あなたの周りにまったく使えない子はいないわ」
「それはダンジョンにいるときに聞いた」
だから? と首をかしげて先を促す。
「そして私と似てる子が先回りしているはずよ」
「セレストと似てる?」
話の流れからして仲間の誰かだろう。
仲間の中でセレストと似ている……誰だ?
そんなことを考えていると。
「あっ、リョータさんここにいたんですね」
「エルザか」
サロンに姿を現わし、小走りでやってきたのはエルザだった。
彼女は胸もとに分厚い書類を抱えて、こっちに駆け寄ってきた。
「どうした、俺を探してたのか?」
「はい、これをリョータさんに」
エルザの手から書類を受け取って、眺める。
「これは……個収ランキング? それに時間収……?」
「過去三年間、各地の買い取り金額をまとめてきました。モンスター一体倒して得られるドロップ品の収入ランキングと、ダンジョンを周回する時間で割ったドロップ品の収入ランキングです」
「それぞれの単価ってことか」
俺は驚いた。
資料をパラパラめくる、かなり膨大で、詳細なデータだった。
「どうしたんだこれ」
「リョータさん、ハセミの冒険者達の生活を改善するって言ってましたので、だったら効率のいいドロップ品の情報を集めてきました」
「……おお」
驚き、そして感心した。
先回りしてデータを集めてきた事もさることながら、このデータの収集・分析能力に舌を巻いた。
ハッとして、セレストを向いた。
彼女はいつの間にかどや顔になっていて。
「そういうことよ」
「読んでたのか」
「言ったでしょ、私と似ている子が動くだろうって。似ているから読めるのよ」
「なるほど」
セレストとエルザ。
どこが似ているのかはよく分からないが、本人がそう言うのだから共通点はあるんだろう。
「なるほど、野菜の時給トップはキャベツ、個体トップはシシトウか」
「はい、どっちもドロップCの想定です」
「なるほど。これはいい、すごく助かるぞエルザ」
「あっ……」
エルザははにかんで、頬を染めてうつむいた。
「りょ、リョータさんのお役に立てましたか?」
「ああっ! 役に立ったなんてもんじゃない。すごく助かるぞ」
「よかった……」
はにかみながらも、嬉しそうに微笑むエルザ。
そんなエルザは今までみてきたなかで一番綺麗で、思わずどきっとするほどだった。
「……ごほん!」
俺は咳払いでごまかして、もらった資料に視線を落とす。
これがあれば、「儲かるダンジョン」にカルシウムを改造する事ができるぞ。