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352/611

352.ウサギ、動物A

 カルシウム地下二階。


 姿の変わらない(、、、、、、、)天使を倒したあと、牛乳がドロップして、パシャンと地面にぶちまけられた。


「失敗……か?」


 俺は眉をひそめた。目の前の結果に、苦虫をかみつぶした様な顔をした。

 この地下二階で一晩かけてミノタウロスの動きを止めて、たっぷりと変化の気配を感じた後倒したが、ドロップ品はミルクのままだった。


「イヴ、今ので良かったんだよな」

「ウサギがやった事と同じ」


 イヴは迷いなく即答した。


 ミノタウロスを出して、一晩おいて、倒す。

 なのにドロップはイヴの時の様に、大きくは変わらなかった。


 どういう事なんだろう……。


「ウサギ、もう一回やってみる?」

「ああ……今度は気配が変わったらすぐに倒そう」


 もしかしたらイヴだから……? という考えが頭をよぎった俺。

 その提案にイヴは躊躇なく頷きつつ、検証比較の為にちょっと違うやり方を提案した。


 セルからあずかった模型を一つ消費する覚悟で、それを地面に置いて、距離を取って待った。

 ミノタウロスが孵ると、イヴは前と同じように肉薄して四肢を落とし、命のストックを使い切らせた上で放置した。


 そして、変化。

 気配が変わったのを感じた。


「イヴ」

「雑食動物死すべし慈悲はない」


 どこぞで聞いたような言葉を口走らせながら、イヴはミノタウロスを倒した。


 ダンジョンマスターの気配が消えて、普通のダンジョンが戻ってきた。

 当然ミノタウロスからのドロップはなく、模型を一つ消費した。


 そして、モンスターがまた現われるようになる。


「むっ」

「どうしたの?」

「天使が……また(、、)露出高くなってる」


 眉をますますひそめたのが自分でも分かった。

 俺の時は変わらなかった(、、、、、、、)天使の衣服、イヴが倒したことで露出の高いものに変わった。


 一階と同じだ。


「倒す?」

「頼む」


 イヴは天使を迎え撃った。

 斬りかかってくるロングソードを軽く避けて、カウンターにチョップを叩き込む。


 かなり早く見えるチョップ、天使には恨みを感じてないのが分かる。

 それでも天使は頭がザクロみたいにかち割られ、そのまま消えて――。


 肉が、ドロップされた。


 今度はほとんど脂身の、可食部の少ない肉。

 しかし――肉だ。


 やっぱりイヴだから変わったのか? しかも一晩待たなくても変わる。


 さて、これはどういう事だろう。

 俺だからダメなのか? イヴだからいけたのか?

 それを切り分けるために、もう一つ模型を消費する覚悟で行くか?


 なんて、色々考えていると、イヴがむすっとして、ドロップした肉を親の敵のように睨んでるのが目に入った。


「ん? どうしたイヴ、そんな不機嫌な顔をして」

「また肉」

「ああ、ニンジンじゃなかったからか」


 イヴが不機嫌になった理由はすぐに分かった。いつもの理由だ。


 それは今、とりあえずどうでもいい――。


「ウサギはここ嫌い。ウサギのステータスはこんなことのためにあるんじゃない」

「ステータス?」

「ドロップ」

「ああ、確か動物が植物よりも遥かに高いん……だ、っけ?」


 言いかけた俺、目がカッと見開いていくのが分かった。


「低レベル、変な顔」

「なあイヴ、お前のステータス見せてくれ! ドロップのヤツだ」

「ニンジン――」

「食べ放題用意してやるから」

「ん」


 イヴはご満悦な顔をして、近くにあるナウボードに向かって行った。

 ちょっと前までちゃんと機能していたカルシウム、当然、ナウボードも公共サービスのごとく備え付けられている。


 それの一つに向かって行ったイヴは慣れた手つきで操作して、ステータスをだした。


―――2/2―――

植物 D

動物 A

鉱物 E

魔法 C

特質 C

―――――――――


 久しぶりに見るイヴのステータス、前と変わらなかった。

 ニンジン大好きなのに植物がDしかなくて、草食動物(と本人がいってる)なのに動物ドロップがAで最高。


 俺との大きな違い、今の状況に(、、、、、)関係する大きな違い。

 それは一つのステータスが突出していることだった。


 ……まさか。


「イヴ、ここは任せる」


 俺はそう言って、新しい牛の模型をイヴに放り投げた。


「かえればいいの?」

「いや、止めだけ。トドメを(、、、、)連れてくる」

「ウサギはニンジンの奴隷何でもする」


 意気込むイヴに下準備を任せて、俺は転送ゲートから屋敷に一旦戻った。

 そしてゲートを使って、シリコンダンジョンに飛ぶ。


 シリコン地下五階、すぐに目当ての相手――セレストが見つかった。


「セレスト」

「リョータさん? どうしたのこんな所に。シリコンに来るなんて珍しいわね」

「力を貸してくれ」

「ええ分かったわ。どうすればいいの?」


 躊躇も思案もなく、即答するセレスト。


「セレストはポーションを使ってるんだよな」

「ええ、植物+3よ」


 ポーション。

 それはお金のハグレモノ、亡者のレイスからドロップさせたアイテムだった。


 あらゆる物がドロップから生まれるこの世界では、貨幣さえもがダンジョンドロップだ。

 紙幣も硬貨も、モンスターからドロップされて、放置すればモンスターに戻る。


 紙幣のハグレモノからドロップしたポーションは飲めばドロップが+3され、硬貨のハグレモノからドロップしたのは+1だ。


 それを俺が大量生産して、仲間達に与えている。


 特にそれは、ドロップオールFの、Fファイナルであるセレストが一番活用している。


 つまり、今のセレストのステータスは――


―――2/2―――

植物 C(+3)

動物 F

鉱物 F

魔法 F

特質 F

―――――――――


 こんな感じで、植物だけが突出している(、、、、、、)


「セレスト、植物+1のを飲んでくれ」

「いいけど、上書きされて植物Eになるわよ」

「それがいいんだ」

「分かったわ」


 頷くセレスト。

 新しいポーションを飲んだ彼女を連れて屋敷に戻り、転送部屋経由で再びカルシウム二階に来た。


 そこでは既に、イヴがミノタウロスを制圧していた。


「お待たせ。変わったか?」

「ついさっき」

「よし。セレスト、あれを倒してくれ」

「ええ」


 セレストは手をかざして、得意の大魔法、インフェルノを詠唱した。

 セレストのインフェルノはしばらく見ないうちに次から次へと派生パターンを編み出すのが特徴だが、相手は既にイヴが死に体に追い込んでいる。


 セレストは普通に、()のインフェルノを放った。


 業炎が広範囲にわたって広がり、ミノタウロスをたちまち焼き尽くした。


 空気が戻る、通常のダンジョンの物に。

 そして、モンスターの天使が現われる。


 変わっていた。

 露出の多い服装から一転、今度は布地が多すぎる程の服装になった。

 ()よりも更に多い。


 その天使を、俺は速攻で肉薄して、ゼロ距離で成長弾をぶち込む。


 一瞬で倒した天使は――大根をドロップした。


「失敗」

「いや成功だよ!」


 どうせニンジンじゃないからだろ! っていうイヴのネタに突っ込みつつ、小さくガッツポーズ。


 品種改良は成功した、しかも種類そのものが変わった。


 イヴのステータスは動物が一番高かった、それで肉になった。

 セレストはポーション込みで植物がわずかにだが一番高かった、それで大根になった。


 変わらなかったのは、全部Sの俺だけ。

 つまり――。


「どうやらステータスが一番高いのに変わるみたいだ。セレスト、もうちょっと協力を――」

「ウサギがする」

「え?」


 イヴがセレストの前に出て、俺を真っ直ぐ見つめた。


「ウサギもポーションもらってる、能力調整できる」


 フンス! と鼻息荒くするイヴ。

 ニンジンのために、それが便利になる精霊付きになるために。


 イヴは、ここは譲らないぞ、と言外に力説してきた。

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