347.本命
協会から表に出て、夕焼けの中。
エルザがいきなり俺に頭を下げてきた。
「リョータさん! ありがとうございます!」
「アウルムも、ありがとね。すごく助かった」
一方、イーナはフレンドリーな感じでアウルムに礼を言った。
言われたアウルムはキョトンとなった。
「あんなんで良かったの?」
「ああ、充分だ」
「お金は直接出せないけど、黄金があれば変えられるんでしょ?」
「それじゃ――」
「いいえ、大丈夫です!」
俺が断る前に、かぶせ気味でエルザがアウルムの提案を辞退した。
「いいの?」
「はい!」
「だねー。そこまでおんぶに抱っこになったらダメだし、意味ないもんね」
イーナは訳知り顔で言って、イタズラっぽい笑みでエルザの脇腹を突っつきつつ。
「リョータさんの周り、みんなすごいもんね。まけてらんないもんね」
「そ、それは……そうだけど……」
親友にからかわれたエルザは赤面し、うつむき加減になって、ちらちら俺の様子をうかがう。
俺の周りみんなすごい?
それはそうだな。
最初に出会ったエミリーから今目の前にいるエルザやイーナに至るまで。
みんなすごくて、なにがしかに秀でてる人達ばかりだ。
それはそうなんだが……イーナのからかい口調にはどういう意味があるんだ?
「ふーん。まっ、あたしは別にどっちも構わないんだけどね」
一方で、そこにこだわりのないアウルムはあっさりと引き下がった。
アウルムダンジョンの精霊アウルム、彼女の能力からすれば金塊をいくら出しても同じなんだろう。
そのアウルムがそういうと、イーナのからかいもエルザの恥ずかしがりも。
両方一旦消えて、二人ともアウルムに改めて目礼した。
「さて、次は何がいる?」
「えっと、土地と、建物と、卸先と、あと――」
「人、これが一番の問題ね」
イーナの言葉にエルザははっきりと頷いた。
「そうですね。燕の恩返しも拡大しすぎて人手不足になってましたから」
「従業員か。どうするかなそれ」
「……あの、リョータさん」
「うん?」
考えごとに入りかけたのを引き戻されて、エルザを見る。
彼女はものすごく真剣な顔で俺を見つめていた。
「どうした」
「ここから先は私達に任せて下さい」
「大丈夫なのか?」
「はい! やります。リョータさんはみてて下さい」
「うん、分かった」
よく分からないが、エルザの決意――いや意気込みの方か。
それはものすごく強かったので、これ以上口を挟まないことにした。
「あっ、一つだけ協力させてくれ」
「なんですか?」
俺は周りをちらっと見た。
相変わらず寂れた街並み、しかし視線を感じない。
見られている、とかはないと判断して話を切り出した。
「護衛をつける。リョータの村からユニークモンスターの一部をこっちに回す。ランドルが何かしてくるかもしれないから」
「護衛、ですか……」
エルザは何か考える仕草をした。
そこにイーナが。
「いいじゃない、そうしてもらおうよ」
「……そうですね、じゃあお願いしても良いですか?」
「ああ」
「それよりあたしがやった方が良くない?」
アウルムが手を上げてくれた。
「あんたが?」
「うん、こんな風にさ」
アウルムが手をかざすと、アウルムダンジョンにいる小悪魔が数体現われた。
アリスのボンボンと違って、ダンジョン内のフォルムそのままだ。
ダンジョンにいるのと違うのは、攻撃性がなくてじっとしている事。
それはニホニウムがやったのと似たような事だ。
「リョータの街ってたしかゴミ処理してんでしょ。そこから持ってきたらやばいよ。その分あたしのこれは自由に出して数増やせるし」
「……いや、アウルム。メリットはそこじゃない」
「へ?」
どういう事なの? って顔で俺を見るアウルム。
「黄金のアウルム像はその気になれば偽造できる、だけどこいつらがこんなにかしずいて、しかも完全に言うこと聞くのはアウルムが味方になってるからだ――ってみんなが思う」
「黄金像とあわせて二重の保証ですね」
「その発想はなかったけど……いいわね」
俺とエルザ、イーナの三人は口を揃えてこの事を肯定した。
「そなんだ、じゃあ護衛はこれって事で」
俺たちが頷き、これでまた一つ問題が解決した。
ハセミの再生までまた一歩踏みだし――。
「サトウ様!」
ダンジョン協会の中からアーロンが飛び出してきた。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「今連絡を受けました……出ました!」
「何が?」
「ダンジョンマスターです! 出たんです」
「おっ」
来たか。
ハセミの再生、品種の改良。
それにはダンジョンマスターの出現が必要不可欠。
出るまで外掘りを埋めつつ待っていたが。
「ここからが本番だな」




